説明
このコースの学習目標は以下の3点である。
1)意識障害の原因がわかる。
2)気管カニューレの種類がわかる。
3)経鼻経管栄養チューブの嚥下機能への影響がわかる。
説明
摂食嚥下障害は原因疾患によって、機能的障害と器質的障害に大別される。一方、その原因疾患に関わらず、摂食嚥下機能に影響を及ぼすものがある。代表的には加齢による影響(コース10)である。
ここでは、加齢以外で、臨床的によく遭遇する影響因子である、意識レベルと、代表的な医原性の問題のうち薬剤、気管カニューレ、経鼻経管栄養チューブについて解説する。
説明
脳幹部(中脳、橋、延髄)には脳神経核とともに脳幹網様体という意識、注意、睡眠覚醒リズムの中枢が存在する。脳幹網様体は嚥下、血管運動、呼吸、嘔吐の中枢でもある。意識障害があれば摂食嚥下障害が合併する。摂食嚥下障害があっても意識障害は必ずしも合併しない。意識レベルでJCS(Japan Coma Scale)1桁よりよいことが直接訓練開始基準の一つとなる。
説明
わが国でよく使用される意識障害の評価法としてJapan Coma Scale(JCS)がある。覚醒度によって3段階に分け、それぞれ3段階あることから、3-3-9度方式とも呼ばれる。ほかに欧米で用いられているGlasgow Coma Scale (GCS)、近年JCSを改訂して作成されたEmergency Coma Scale (ECS)がある。
説明
代表的な意識障害の原因は、中枢神経系に一次的な病変が存在する疾患である脳卒中・外傷性脳損傷・脳腫瘍などである。しかし意識障害の原因となる疾患・病態には、脳に病変がないものも多数ある。すなわち内科・外科的疾患の経過中、全身状態が悪化するときに意識障害を合併しうることに注意しなければならない。
説明
意識障害の原因は単一でなく、複数併存している場合も多い。意識レベルの改善には、全身状態の改善が必須である。例として高齢の肺炎入院患者で意識障害を来しうる要因を考えてみよう。
肺炎に伴う発熱や低酸素脳症、脱水、脱水に伴って起きる電解質異常やショック、さらに入院によって不穏状態が出現した場合に使用される薬剤などがあげられる。これらは意識障害を引き起こし、摂食嚥下機能を悪化させる。また意識障害は安静臥床を長期化させ、廃用症候群を確実に進行させる。結果としてさらに摂食嚥下障害が悪化し、肺炎、脱水を悪化させるという悪循環を形成する。
説明
薬剤による摂食嚥下障害の発現機序は以下に大別される1)2)。
(1)筋力・錐体外路系の障害
(2)自律神経系の障害
(3)意識・精神機能の低下
(4)口腔乾燥・味覚低下など口腔機能の低下
表には代表的な摂食嚥下障害を来す薬剤を挙げた。
説明
薬剤による摂食嚥下障害改善の発現機序としては、原疾患・病態の改善、嚥下・咳反射の改善がある。後者としてサブスタンスP(咽頭・喉頭の迷走神経知覚枝終末から放出される嚥下・咳反射の閾値を低下させる物質)の増加を促進する薬剤が最近注目されている。降圧剤として古くから使用されているアンギオテンシン変換酵素阻害剤は副作用の咳がよく知られていたが、これを嚥下障害に適応している。アマンタジンは多発性脳梗塞に適応があり臨床上よく使用される。このような嚥下反射改善薬が経管栄養中の発熱や抗生物質投与を減少させたという報告がある3)。
説明
気管切開術は上気道閉塞や声門下狭窄、呼吸不全、気道分泌物の喀出困難な例に施行される。輪状軟骨の下方、上部気管輪間で切開し、気管カニューレが挿入される。図に示すように呼吸は声門を通過して行われない。
写真1はカニューレ装着の外観である。写真2は嚥下内視鏡で観察した気管カニューレ装着例の咽頭腔を観察したもので、喉頭前庭に唾液が多量に貯留しているのがわかる。カニューレを装着すると声門下から呼気が流れないので、このように唾液が貯留しやすい。写真3はカニューレ内から観察した気管である。この写真に異常所見はないが、誤嚥があった場合、これを観察することもある。
説明
気管カニューレの使用目的として以下がある4)。
(1)気道の確保
(2)下気道感染の管理
(3)呼吸器の装着
(4)誤嚥の防止??
カニューレは完全には誤嚥を防止できない。そもそもカニューレは声門下に挿入されており、一度声門下に侵入したものを喀出することは、カニューレがあることでむしろ困難となる。また口腔や鼻腔から吸引しても声門下には届かない。カフを拡張させると、カフ上に誤嚥物は貯留するが、喉頭の上下運動時にできる気管粘膜とカフのすき間から、カフ下へも通過することがある。カニューレより下に侵入した誤嚥物は、カニューレから喀出するか吸引することになる。
カフ上にたまる誤嚥物を吸引するための専用ルートのついた気管カニューレもあり、唾液の誤嚥が多い例などに使用される。
説明
気管カニューレはカフ・側孔の有無によってそれぞれ機能に特徴がある。患者の摂食嚥下機能、呼吸機能によって適切な種類を選択する。
説明
気管カニューレは喉頭挙上の減少、声門下圧の減少、喉頭感覚の低下、喀出力低下などにより、摂食嚥下機能を阻害する。吸気・呼気が声門を通過しないため喉頭粘膜が感覚低下し、その結果咳反射の消失を引き起こし、高率に不顕性誤嚥を認める。
また気管粘膜への刺激により、肉芽が形成されることがある。写真は、カニューレ内を内視鏡で観察したものである。上方に呼気を通す側孔が2つあるタイプのカニューレであるが、そこから肉芽が隆起しているのがわかる。この状態では側孔が塞がれ、発声できない。またカニューレ交換時には出血する可能性がある。
説明
経鼻経管チューブの摂食嚥下機能への影響として、チューブ周囲の不潔化、嚥下運動の阻害、胃食道逆流、留置中の不快感などがある。これらの悪影響を最小限にするために刺激の少ない細いチューブを使用したり、チューブが咽頭を交差しないように鼻腔側と同側の咽頭に挿入する。挿入する鼻腔と反対側に頸部回旋してチューブを挿入するとよい5)。特に経鼻経管栄養を行いながら直接訓練を行う場合には、可能な限り細いチューブ(12Fr以下)を使用しなければならない。
説明
嚥下内視鏡で見た経鼻経管栄養チューブの不良例である。左の写真は、咽頭内でチューブが一回転ループをしている。右はチューブ周囲に、分泌物など(鼻漏や痰)が付着し堆積した様子である。意識障害などがあればこのような状態でも不快感を訴えることができないことに留意する。また、当然このような状態で直接訓練を行うことはできない。
説明
嚥下造影で見た経鼻経管栄養チューブの喉頭蓋反転阻害例である。チューブにより咽頭腔は狭くなり、嚥下反射時に喉頭蓋が反転していないのがわかる。チューブを抜去すると、喉頭蓋は反転した。
参考文献
- 藤谷順子:薬剤と摂食・嚥下障害,本田知行・溝尻源太郎編,医師・歯科医師のための摂食・嚥下障害ハンドブック,医歯薬出版株式会社,東京,2000,55-57.
- 高橋博達:摂食・嚥下障害と薬物療法,馬場 尊・才藤栄一編,新興医学出版社,東京,2008,65-67.
- 小川太郎:嚥下反射改善作用を有する薬剤による経管栄養中の呼吸器感染予防,日摂食・嚥下リハ会誌,13,26-30,2009.
- 田山二朗:外科的介入とその後の対応,金子芳洋・千野直一監修,摂食・嚥下リハビリテーション,医歯薬出版株式会社,東京,1998,143-145.
- 藤森まり子:経管栄養,聖隷三方原病院嚥下チーム執筆,嚥下障害ポケットマニュアル,医歯薬出版株式会社,東京,2001,137-142
推薦図書
- 米本恭三,石神重信,石田 暉,岩谷 力,西村尚志,宮野佐年編集:Clinical Rehabilitation別冊 リハビリテーションにおける評価ver.2,医歯薬出版株式会社
- 水野美邦編集:神経内科ハンドブック 鑑別診断と治療 第3版,医学書院
- 湯本英二編集:耳鼻咽喉科診療プラクティス7嚥下障害を治す,文光堂