説明
リスク回避のためには、バイタルサインのチェックが重要であり、そのために有用な機器で非医療職でも使用しうる機器をとりあげて解説する。また、誤嚥や窒息の回避に吸引手技が重要であるが、吸引手技と吸引器について解説する。
説明
リスク回避の基本は、バイタルサインの確認である。バイタルサインには体温・脈拍・血圧・呼吸数などがある。
その測定ために必要な機器のうち、摂食嚥下リハビリテーションに関わる多くの職種が使用する頻度の高い機器を取り上げる。
喀痰吸引は患者に直接使用出来る職種に限定があるが、今年よりそれが拡大され(医政発0430第1号平成22年4月30日「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」)、療法士や臨床工学士が喀痰吸引を行えるようになった。これ以外の職種についても、医療施設外の緊急事態に対応が迫られる可能性はあり、吸引手技の概要は知っておくべきである。
説明
体温は通常、深部体温を指し、深部体温は腋窩温で36.0℃台に調整されている。37.0℃を超えると発熱という。発熱は炎症などによる内因性発熱物質や毒素が体温調節中枢に作用をして起こる。したがって、肺炎などの感染症では発熱が重要な症状になる。体温を正確に測定することは誤嚥性肺炎を早期に発見するきっかけなるので非常に大切で、普段から患者の平熱を測定する。
説明
体温はスライドに示したように生理的な変動がある。高齢者は一般に体温が低いが、炎症反応として発熱も起こりにくいことがあり、平熱との差で考えるなど、注意が必要である。
説明
体温計にはいくつか種類があるが、水銀体温計は測定時間が長いので医療現場ではあまり使用されなくなった。電子体温計が主に使用される。電子体温計は数十秒で結果がでるが、これは実測値ではなく予測値であり、体温計が暖まっていたり、表層体温と深部体温の差が大きい時は誤差が大きくなりやすい。通常の室温で計測するなどの注意が必要である。また製品による性能の差が大きく、価格帯はさまざまであるが、一般には高価なものが信頼性が高いようである。
赤外線体温計は鼓膜温を計測するものであるが、2−3秒程度で計測可能であり、繰り返しの測定で、電子体温計より安定しているといわれているが、体温計の温度が非常に低いと鼓膜が冷やされて低く計測されるので注意が必要である。
説明
体温の計測方法をスライドに示す。腋窩温がもっとも一般的であるが、腋窩が湿っていないこと、皮膚と密着させることが重要である。とくに痩せている例では、しっかりと脇を締める必要がある。
鼓膜音は、口腔温より高く直腸温より低いといわれている。計測時には耳垢で鼓膜が隠れてないことを確認して計測する。
説明
聴診器は体内の音を聞くための器械。その対象は心音・呼吸音・腸音などの生理的な音から心雑音・ラ音・痰の絡まる呼吸音・喘息音などの病態を示す音まで、応用範囲は広い。多くの画像検査や内視鏡検査が発達した現代においても、手軽で非侵襲的、即時的にかつ反復して行える評価法として有用である。摂食嚥下リハビリテーションでは、頚部聴診、胸部聴診、腹部聴診を頻繁に行う。
聴診で正確な診断を行うことは、熟練した医師でも難易度が高い。しかし、異常に気がつくという意味で、正常ではない音や、右肺と左肺の呼吸音の差のようなものの区別は、聞き慣れることで可能になるので、医師でなくても聴診器を積極的に使用してほしい。
説明
よく見かける聴診器には、ベル面と膜面がある。ベル面は低音、膜面は高音を聞くのに適している。この使い分けは、心音を聞き分けるためである。医師以外の人はあまり意識しなくてもよい。呼吸音と腸音を聴診する場合は膜面のみを使用することが多い。
説明
聴診器を耳に装着するときに、聴診器の向きがあるので注意すること。
呼吸音は、胸郭を左右対称に聴き、呼吸音を左右で比較すると、異常がわかりやすい。あらかじめ、健常人の呼吸音を聴いて正常呼吸音を聞き慣れることも大切である。
異常呼吸音の表現として、呼吸音の強弱のほか、「ラ音(ラッセル音)」というものがある。これは、気管、気管支、肺胞に何らかの異常があったときに聴診器で聞こえる呼吸の雑音のことである。喘息などで聴くヒーヒー、ゼーゼーは連続性ラ音、肺に水がたまったとき(肺水腫)や細菌性肺炎に聞こえるプツプツ(水泡音)や間質性肺炎などで聴くバリバリ、ピチピチ(捻髪音)は断続性ラ音といわれる。医師のカルテにはこの専門用語がよく使用される。
頚部聴診はその他のスクリーニングの項を参照のこと。
説明
血圧とは左心室の収縮によって生じる圧力が動脈血管内に及ぼす圧力で、脈拍は心拍数による脈波を末梢の動脈で計測したものであり、どちらもバイタルサインである。血圧や脈拍は血液の循環状態を反映し、状態変化を秒単位で把握することが可能である。血圧低下は生命の危機に直結するため、重大な病態を迅速に察知し、リスク回避するためには重要な情報である。
高血圧治療ガイドライン2019では、診察室血圧値は140/90mmHg以上、家庭血圧値は135/85mmHg以上を高血圧と定義している。低血圧の基準はないが収縮期圧80mmHg以下やめまいまどの症状の出現で判断する。脈拍は自動血圧計やパルスオキシメータで自動的に計測される。一般に安静時、60以下を徐脈、100以上を頻脈といい異常と考える。脈は数だけでなくリズムも重要で、一定のリズムでないときは不整という。
リハビリテーションの運動療法においては、運動の可否についての基準がある。参考としてアンダーソン基準を記載しておくが、血圧や脈拍の計測が重要であることがわかる。
●運動を行わないほうがよい場合 1)安静時脈拍数120/分以上 2)拡張期血圧120以上 3)収縮期血圧200以上 4)労作性狭心症を現在有するもの 5)新鮮心筋梗塞1ヶ月以内のもの 6)うっ血性心不全の所見の明らかなもの 7)心房細動以外の著しい不整脈 8)運動前すでに動悸、息切れのあるもの
●途中で運動を中止する場合 1)運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛などが出現した場合 2)運動中、脈拍が140/分を越えた場合 3)運動中、1分間10個以上の期外収縮が出現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、上室性または心室性頻脈など)あるいは徐脈が出現した場合 4)運動中、収縮期血圧40mmHg以上または拡張期血圧20mmHg以上上昇した場合
●次の場合は運動を一時中止し、回復を待って再開する 1)脈拍数が運動時の30%を超えた場合、ただし、2分間の安静で10%以下にもどらぬ場合は、以後の運動は中止するかまたは極めて軽労作のものにきりかえる 2)脈拍数が120/分を越えた場合 3)1分間に10回以下の期外収縮が出現した場合 4)軽い動悸、息切れを訴えた場合
説明
直接動脈内にカテーテルを挿入する方法は、手術中や集中治療室内で行われる。
通常は、上腕などにマンシェットとよばれる空気袋のついたカフをまき、空気圧を利用して動脈を圧迫し、空気圧と動脈圧の差を利用して計測する。
医師や看護師が聴診器を用いて計測する方法のほか、自動血圧計が広く使用されるようになっている。オシロメトリック法は誰でも安定した計測ができる。
家庭用では手首で計測するものがあるが、特に高齢者では動脈硬化などの影響がありなるべく中枢側の動脈で計測するのが望ましいので、上腕計測が推奨される。
説明
スライドに自動血圧計での計測法を示す。
マンシェットの幅を上腕に合わせることが理想であるが、実際はマンシェットの種類はあまりなく、大人用と子供用がある程度である。るい痩が強い成人に対し子供用のマンシェットを使用することは考慮するべきである。
自動血圧計では脱気の早さが一定であるが、徐脈患者では、脈と脈の間が長いので、ゆっくりと脱気をしないと正確な値が測れない。このような例は手動式を使用した方が良い。
説明
パルスオキシメーターは経皮的に動脈血酸素飽和度が測定できる器械で、これで測定した値を経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)という。動脈血の採血で計測したものはSaO2と呼ばれる。
酸素飽和度は赤血球のヘモグロビンが何パーセント酸素と結合(飽和)しているかの値である。
ガス交換の状態の指標の1つで、肺での問題のほか、循環の問題や、呼吸状態や、大気圧で変化する。
摂食嚥下リハビリテーションでは、窒息や重度の誤嚥による呼吸状態の変化や、誤嚥性肺炎の病態を評価するために極めて重要なものである。
説明
SpO2の正常値は、95%以上である。90%以上までは臨床的に大きな問題はなく、85%より低くなると、組織におけるガス交換に障害が生じる。
当然ではあるが、これは一気圧で酸素濃度20%での正常値である。
水に酸素はあまり溶けないので、ヘモグロビンが酸素と結合して末梢に運ぶ。肺胞から拡散で血中(血漿)に入った酸素がヘモグロビンと結合する。血漿にとける酸素の量は、圧力に依存し、この圧力は大気圧による。一気圧は約760Torrで、酸素濃度は約20%なので、大気の酸素分圧は約150Torrである。この圧力で肺胞壁を通過して酸素は動脈血中に押し出される。肺胞壁を通過するときに抵抗があるので圧力が低下するが、若ければ肺胞壁が通過しやすいので、圧力のロスは小さく、90Torr程度にまでしか低下しない。しかし、高齢になると加齢変化で肺胞壁の抵抗が増しロスが大きく、70Torr程度まで低下するようになる。もちろん、さまざまな疾患で肺胞壁が厚くなったりするとこのロスは大きくなり、血漿の酸素の圧力は低下する。圧力が低下すると血漿に溶ける酸素の量が減ることになる。
酸素分圧が正常の90Torrぐらいだと、ヘモグロビンの酸素飽和度は97%とほとんど酸素と結合した状態になる。
末梢では、酸素は血漿から組織液に拡散し各細胞に到達して消費される。組織液の酸素分圧は20から30Torrと低いので、酸素は十分に移行できる。消費されるとその量の分だけ酸素分圧は低下する。そして酸素分圧が低下するので、ヘモグロビンに結合していた酸素が離れて、血漿中に出る。その酸素が組織に移行する。結果、静脈血の酸素の分圧は40Torr程度になって、肺に戻ってくる。
つまり、組織に酸素を運ぶためには血液の酸素分圧(PaO2)が一義的に重要であり、それを直接的に反映するのがヘモグロビンの酸素飽和度で、SpO2は侵襲無く、ほとんど瞬時に計測が可能なので広く応用される。
ちなみに、高度5500メートルでは、大気圧が半分になる。この状態で、PaO2は50Torr、SpO2で85%となり、非常に過酷な状態であることがわかる。
説明
パルスオキシメーターのしくみは、詳しく知る必要はないかもしれないが、組織に光を透過させて計測すること、動脈血の拍動を検知して静脈血と区別しる仕組みになっていることは知っていた方が良い。
プローブ(センサー)の光を出す側と、受ける側がしっかりと向き合っている必要があること。プローブが動いたり振動しないこと。ある程度の血流が保たれていることが正確な計測のために必要である。
説明
測定の注意点などをスライドに示す。
センサー部がしっかり対向しなければならないことを先に述べたが、洗濯ばさみ型であれば必ず対向になっているが、ディスポ型では気を付けて取り付けないと対向しないこともあるので要注意である。
説明
吸引はリスク回避として、緊急事態の回避のために特に重要である。
医療施設内では、吸引が行える職種に限定があるが、医療施設外では、窒息回避のための吸引手技は摂食嚥下リハビリテーションを行うひとには要求される事態が生じうるので、準備を怠らないことが大切である。日本理学療法士協会から「吸引プロトコル」が発表されたので、参照してほしい。
吸引の目的は、主に口腔内や咽頭内の貯留物を除去し、誤嚥や窒息を防ぐものである。口腔や鼻腔からカテーテルを挿入し、咽頭内に到達させる。声門下にカテーテルを挿入はできないので、気道内の分泌物は吸引できない。咳で咽頭に出てきたものや排痰ドレナージなどで咽頭に出たものを吸引することになる。
いずれにしても、咽頭内を刺激するので、不快であり、嘔吐を誘発することもあるので、必要最小限で確実に行わなければならない。
気管内の吸引は、気管カニューレを介して行うが、気管損傷の恐れがあり、特に注意が必要で、初心者は行うべきではない。日本呼吸療法医学会から発表されている「気管内吸引ガイドライン」を参照してほしい。
吸引の種類はいくつかあるが、病室の壁に備え付けるタイプ(アウトレット型)、ポータブルの電動型が主流である。手動型は電気の使用できない事態に備える目的であるが機能は不十分である。
また、持続的に口腔内の唾液を吸引する低圧持続吸引器が市販されており、唾液を誤嚥する症例に有用なことがある。
説明
吸引の経路を図示した。
気管内の吸引は、気管分岐部まで届かないように、あらかじめ挿入する長さを確認しなければなない。初心者は気管カニューレ内の吸引にとどめ、より深い吸引が必要とおもったら、熟練者と交代するべきである。
説明
スライドの写真は、一般的なアウトレット型の吸引器である。吸引チューブを閉塞させて、黒のダイヤルを右に回すと圧力計が動き、圧力は上昇する。この状態で適切な圧を調整する。
使用する吸引カテーテルの構造を知っておく。先端と側面に孔が空いているものがほとんどである。また手元に空気孔があり、これを開放しておくと、吸引圧は先端に届かない。カテーテルを挿入するときは、ここを開放し吸引圧をかけないように挿入し、目的の部位に到達したら、この空気孔を指で閉鎖して吸引を行う。
この空気孔のないカテーテルの場合は中枢側を指で折って中枢側を閉塞させて挿入すると良い。
吸引をすると、気道内の空気が引き込まれるので、換気量が低下する。これによる様々な反応や、喉頭を機械的に刺激した場合に、迷走神経反射などが起こるかもしれないのでモニタリングはした方がよい。
説明
吸引は愛護的に行わなければならない。
吸引圧を上げすぎると、カテーテルが粘膜に吸着して、損傷することがある。
1回の吸引時間は10秒以下にしなければならない。これ以上だと換気障害を起こす可能性がある。
合併症は、気管内吸引を行わない限り大きなものはない。
気管内吸引を行うとスライドに示したような合併症のリスクがある。
以下の対処法は、気管内吸引ガイドラインより抜粋した。
対処法 吸引操作中に上記の合併症を認めたり、何らかの異常を感じたら速やかに操作を止め、アセスメントをする。経皮酸素飽和度モニタを監視して低酸素血症や不整脈などの循環不全が見られる場合は、100%酸素を供給して、すぐに人(同僚、医師)を呼ぶ。**解説 不整脈や徐脈を誘発する原因として重要なものは、低酸素血症、心筋の低酸素症と、気道刺激による迷走神経反射である。気道刺激による咳の誘発は気道内圧の上昇をきたし静脈還流の低下、心拍出量の低下をきたすことになる。緊急時に直ちに医師の応援が得られる体制を整えておくことは重要である。気管吸引はメディカルコントロール体制下に行われるべきであり、とりわけ緊急時には病院内外を問わず確実に医師の指示、処置がうけられるような体制を整備しておかねばならない。最悪の合併症である心停止をきたした場合には速やかに心肺蘇生処置を行わねばならない。そのため気管吸引に従事するものは基礎的な心肺蘇生講習を受講し習得しておくことが望ましい。