55.直接訓練で用いる嚥下手技

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説明

直接訓練では、適宜嚥下手技を用いて、より安全で確かな嚥下を狙う。総合的に嚥下器官を使い、実際に食べることを通して機能向上を図る直接訓練であるが、各訓練手技の意義を理解し、実施方法を理解した上で適応を選ぶことが訓練効果を上げる鍵となる。

ここでは、各嚥下手技の意義と方法および禁忌や適応上の留意点を解説する

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説明

各手技に特有の留意点は各々の項で述べるが、ここでは、各主手技に共通する留意点を挙げる。

第一に、嚥下手技は、実際の嚥下場面で対象者へ主に口頭指示にて伝えて行うため、重度の失語症や難聴などがなく、聴覚的な言語理解が可能で、伝えられたことを実行できることが前提である。聴覚的な理解は可能でも、場合によっては担当者が実際に試行して見せ、共に行って体得を促すとよい。その際は、患者の実行状況を良く観察して理解度合いを把握しながら、本人のペースに合わせて指示するとよい。

効果については、日常的に用いる際に嚥下造影検査や内視鏡検査、筋電図などでそのつど確認することは不可能である。手技を用いた際に咳払い、むせ、喀出等の減少というような変化があるかどうかを良く観察し、効果や適応、使用の継続などについて、考えながら進めたい。

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嚥下の意識化:think swallow1)、2)

嚥下の意識化、think swallowの意義は、口腔内の飲食物の移送から嚥下を「意識化」することで嚥下運動を確実にし、誤嚥や咽頭残留の防止を狙うことである。

適応:口腔、咽頭の機能とも重度の障害ではないのに、水分を何気なく飲み込んではむせているような場合や、食物を咀嚼が不十分なままに飲み込もうとする場合、嚥下のタイミングが悪いためにむせなどのトラブルを起こしている場合に有効である。

方法:口腔内のどこに、どのような状態で飲食物があるのか、または咀嚼のリズムや食塊形成を意識して飲み込むことを促す。一口ずつの咀嚼や水分の口腔内移送を、実際の本人の経過とともに解説しながら「ごくん」と飲み込むことを促すとよい。

留意点:対象者が自分自身で口腔内の状況をフィードバックできることが必要である。

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息こらえ嚥下(法) :supraglottic swallow <1/2>3)4)5)6)

意義:嚥下前に意識的に息を止め、つまり声門を閉じておいて嚥下する方法で、気道の閉鎖により誤嚥を防ぐとともに、声門上に残留物があった場合はそれを喀出する効果も望むことができる。また、呼吸と嚥下のタイミングを取る訓練ともなる。

適応:嚥下直前や嚥下中にむせや誤嚥が起こりやすい場合に有効である。

方法:①軽く、あるいは可能な場合は十分に鼻から息を吸い、そのまま保持して呼吸を止める。飲食物を使う際は一緒に吸い込んでしまう危険があるため、息は鼻から吸う。②吸気を保持したままの状態(軽く息を止めた状態)で嚥下する。③嚥下後直ちに口から「はーっ」と息を吐く。咳をするように強く吐いてもよい。食物を使わずに行って習得し、実際の飲食でも嚥下法として活用することができる。

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息こらえ嚥下(法) :supraglottic swallow <2/2>

留意点・工夫:①息を吸ってから飲食物を口に入れてもよい。本人のしやすい方法を選ぶとよい。②直接訓練、摂食訓練として行う場合は食べ始めに意識的に行うとよい。摂食中に行う場合は、症状に応じて毎回の嚥下毎か数回の嚥下毎に行うとよい。

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強い息こらえ嚥下(法):super supraglottic swallow7) 8)

意義:嚥下前、嚥下中に喉頭前庭部での閉鎖をより強くするために工夫された方法である。

適応:喉頭前庭の閉鎖障害がある例、とくに声門上喉頭部分切除術を受けた場合に有効とされている。

方法:嚥下時に息こらえ嚥下法よりもさらに喉頭周辺に力を入れて、力みながら息を止めて嚥下する。こうすることにより、嚥下時に完全な喉頭閉鎖が起こる可能性が高くなるとされている。

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努力嚥下:Effortful Swallow9)10)

意義:対象者自身が嚥下器官に力を入れて、食塊を押し込むように努力して飲み込む嚥下法で、力を加えることで食塊の送り込みをよくし、舌根部の筋力を強め、喉頭蓋谷への残留を減少させるとされている。

適応:食塊の咽頭への送り込み、舌根部の筋力低下、咽頭機能不全により咽頭残留や喉頭蓋谷への残留、喉頭侵入がある場合

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説明

努力嚥下:Effortful Swallow<2/2>

方法:「喉の筋肉、特に舌の奥の方に力を入れ押し上げるようにしながら飲み込みましょう」、「強く飲み込みましょう」などの教示により、咽頭に力を入れながら飲み込むよう促す。

禁忌・留意点:まず、外科的な術後など、咽頭食道接合部に障害がある場合は用いられない。また、導入による血圧上昇に留意する。対象者が実際に力を入れて嚥下したか、望ましい筋群に力が入ったかを確かめる方法が乏しい。導入前後または、使用の有無による残留の違いなどで確認する。

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メンデルソン手技:Mendelsohn Maneuver <1/2>11)12)13)

意義:舌骨と喉頭を挙上させた位置に保ち、喉頭の圧を上昇させることで上食道括約筋を弛緩させ、咽頭残留物を除去させることを狙う方法である。舌骨と喉頭の挙上範囲の改善が得られ、嚥下の代償法としても咽頭残留物や誤嚥を減少させる効果があるとされている。

適応:舌骨、喉頭を挙上させる筋群の筋力が弱く、挙上距離が短い、挙上時間が短いことなどから、咽頭残留や誤嚥が引き起こされている場合。

方法:喉頭挙上と咽頭収縮がピークに達したところ(いわゆる「ごっくん」の「っく」のところ)で嚥下を一時停止するように指示し、そのまま2-3秒ないし5-6秒保った後、力を抜いて「はーっ」と呼気とともに嚥下前の状態に戻す。

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Mendelsohn Maneuver<2/2>

禁忌・留意点:まず、喉頭挙上が可能でさらにそのフィードバックが自身でできることが必要である。訓練中のバイタルサインの変化や気分不快等の訴えに留意して行う。無呼吸状態を保たせるため、呼吸器疾患や嚥下と呼吸の協調不全が重度の患者では禁忌である。また、筋の緊張バランスが乱れがちで、肩から上胸部にかけて筋の過緊張が及ぶ場合は適応判断に留意し、適宜リラクセーションなどを用い、筋の過緊張を避けるようにする。

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参考文献

  1. Larsen GL:Conservative management for incomplete paralytica,Arch Phys Med Rehabil,54:180-185、1973.
  2. 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害第2版、p116、医歯薬出版、1998
  3. J.A.Logemann(1998):Evaluation and treatment of swallowing disorders 2nd ed.pp214-217、1998
  4. 道 健一、道脇幸博監訳:2nd Logemann 摂食・嚥下障害、pp170-173、医歯薬出版、2000
  5. 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害第2版、pp119-120、医歯薬出版、1998
  6. 藤島一郎訳:嚥下障害入門、pp218-221、医歯薬出版、2007
  7. J.A.Logemann(1998):Evaluation and treatment of swallowing disorders 2nd ed.pp217-221、1998
  8. 道 健一、道脇幸博監訳:2nd Logemann 摂食・嚥下障害、pp170-173、医歯薬出版、2000
  9. J.A.Logemann(1998):Evaluation and treatment of swallowing disorders 2nd ed.p221、1998
  10. 道 健一、道脇幸博監訳:2nd Logemann 摂食・嚥下障害、p175、医歯薬出版、2000
  11. 藤島一郎訳:嚥下障害入門、pp222-224 、医歯薬出版、2007
  12. J.A.Logemann(1998):Evaluation and treatment of swallowing disorders 2nd ed.pp221-222、1998
  13. 道 健一、道脇幸博監訳:2nd Logemann 摂食・嚥下障害、pp175-176、医歯薬出版、2000
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