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Chapter1 はじめに
本章では、認知症(認知機能障害)があるときの食事介助について、まず、認知症(認知機能障害)それぞれの定義を示し、障害の種類ごとの摂食嚥下障害の特徴について解説する。次に認知症(認知機能障害)あるときの症状に応じた食事介助方法について解説する。
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Chapter2 認知症(認知機能障害)とは(表1)
認知症とは意識障害によるものを除き、明瞭な意識下において、脳疾患で複合的に認知機能が障害される一つの症候群で、通常は慢性あるいは進行性であり周辺症状として精神症状、行動障害がみられる。そして、認知機能障害とは、主に脳損傷に起因する運動麻痺や感覚・知覚障害では説明のできない言語、行為、認知、記憶、注意、実行機能などの障害である。特に急性期は意識障害が出現しやすいので食事介助にあたっては、事前に意識障害の有無を把握し、明瞭な意識下で生じる認知症(認知機能障害)によって生じる摂食嚥下障害とは区別することが必要となる。
Chapter2の確認事項
①認知症の定義を理解する。
②認知機能障害の定義を理解する。
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Chapter3 認知症(認知機能障害)で影響を受けやすい摂食嚥下過程(表2)
摂食嚥下過程には、先行期⇒準備期⇒口腔期⇒咽頭期⇒食道期とあるが、認知症(認知機能障害)患者では、食物を認知(認識)し、箸やスプーンを使って口まで運ぶ先行期、食物を口腔内に取り込み、咀嚼し食塊を形成する準備期、舌が挙上し、食塊を咽頭へ送り込む口腔期の三つの過程が特に影響を受けやすい。
Chapter3の確認事項
①認知症(認知機能障害)で影響を受けやすい摂食嚥下過程を理解する。
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Chapter4 認知機能障害による摂食嚥下障害の特徴(表3)
摂食嚥下機能に大きく影響を及ぼす認知機能障害として、記憶の障害、認知の障害(失認)、空間性認知の障害(半側視空間無視)、摂食動作や口腔内の食物の送り込みなど動作の障害(失行)、言語の障害(失語)、実行機能の障害(注意障害を含む)がある。これに加え、認知症では、中核症状である認知機能障害のみならず、周辺症状である精神症状、行動障害に起因する摂食嚥下障害(食行動の異常を含む)が出現する。
まず、記憶障害ではエピソード記憶の障害として、「前の食事をいつ食べたかわからない」。手続き記憶の障害として、「食事動作の方法と手順がわからない」。失認によるものとして、「視覚失認、触覚失認によって食物や食器の認識ができない」。半側視空間無視などの空間性認知障害によって、「食物や食器(ナイフ、フォーク、箸、器)の位置がわからない、またはどこに置いたらよいかわからない」。失行によるものとして、「観念失行や観念運動失行で食器など道具の使い方がわからない、うまく使えない」。口腔顔面失行(嚥下失行を含む)で、「食物を口腔内に取り込み、咀嚼し、のどに送り込むといった随意動作がうまくできない」などがあげられる。
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言語の障害(失語症)によるものとして、運動性失語によって、「食物の好みや食事への要望を言葉や文字でうまくいい表せない、伝えられない」。感覚性失語によって、「食事時に摂食方法や注意点などの指示が言葉や文字で理解できない」という特徴がある。実行機能障害によるものとして、注意障害で食事を中断したり、食事中に立ち去る、異食(食物ではないものを食べる)などの社会的に認められない食事動作の出現、抑制障害で食事のペースが速くなるなどの早食い、口腔内に食物をため込んで飲み込まないなど、咽頭への送り込み動作の開始困難、食物の嗜好の変化、常同的食行動としていつも同じものばかりつくる、同じものばかり食べるといった画一的な食行動などがあげられる。
Chapter4の確認事項
①認知機能障害により、どのような摂食嚥下障害がみられるかを理解する。
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Chapter5 主要な認知症ごとの摂食嚥下障害の特徴(表4)
主要な認知症ごとの摂食嚥下障害の特徴として、アルツハイマー型認知症では海馬を含む側頭葉を中心とした病変で、初期は「実行機能障害による食事の準備動作の障害や、記憶障害により食事したことを忘れる」。中期には「失認、視空間性障害、失行による摂食動作の障害や、注意障害による摂食動作の中断」。後期には「口腔顔面失行による開口障害、口腔内への取り込みや、咽頭への送り込みの障害が出現する」。レビー小体型認知症ではおもに後頭葉を中心とした病変で、「認知機能や注意障害が変動する」、「視空間性無視により食物や食器の位置関係が把握困難となり、摂食動作の障害、食べこぼし、幻視による摂食動作の中断が生じる」、パーキンソンニズムを伴うことが多い。また、パーキンソン病の経過中に認知症状が生じる認知症を伴うパーキンソン病でも同様の障害を呈する。
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前頭側頭型認知症では、前頭・側頭葉を中心とした病変で、常同的食行動などの食習慣の変化や甘いものへの嗜好の変化、食欲の増加や過食がみられ、異食や抑制障害による口腔内への詰め込みや早食い、実行機能障害による口腔内のため込みや咀嚼の中断、咽頭への送り込み動作の開始困難、注意障害による摂食動作の中断や立ち去りなどが認められる。脳血管性認知症では脳の損傷部位に応じて出現する症状が異なり、特徴も異なってくるが、脳卒中後遺症としての視空間性障害、失認など先行期の摂食嚥下障害のみならず、失語、失行や、錐体路、錐体外路損傷による運動障害、開口障害などが合併しやすく、準備期以降の摂食嚥下障害も出現しやすい。
Chapter5の確認事項
①認知症のタイプごとに摂食嚥下障害の特徴を整理する。
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Chapter6 認知症の周辺症状で生じる異常な食行動の特徴(表5)
認知症の周辺症状で生じる異常な食行動として、興奮性、落ち着きのなさ、多動により、「食事時に食卓に座っていられない」、「注意が転導し、食事に集中できない」、ひいては活動性が増し、「摂取する必要エネルギー量が増大する」。攻撃性によるものとして、「他人による手助けや食事介助を嫌がったり、拒否する」、「食事時に食卓について自ら食べることを拒否する」、「食事介助者に食物を投げつけたり、殴りかかったりする」。うつ病によるものとして、「食思(欲)不振や拒食とそれに関連して体重が減少する」、「食事動作が遅く、食事時間が長くなる」。妄想によるものとして、「食物に毒が入っている、毒を入れられたというように、食物や食事を出す人に対する妄想によって拒食する」。幻覚によるものとして、「食卓にハエが飛んでいるというような幻視、幻聴が生じて、食事に集中できない」などがみられる3)。
Chapter6の確認事項
①認知症の周辺症状によって、どのような食行動がみられるかを理解する。
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Chapter7 認知症(認知機能障害)をもつ摂食嚥下障害患者への食事介助(表6)
認知症(認知機能障害)をもつ摂食嚥下障害患者への食事介助にあたっては、認知症(種類、中核症状、周辺症状)や、認知機能障害(記憶、認知、行為、言語、注意、実行機能の障害)の評価から機能障害、活動制限、参加制約の各側面について障害を把握し、出現している認知症(認知機能障害)の機能障害、活動制限、参加制約に対し、評価結果に基づいて、PT、OT、STによる代償法の指導を含めた専門的な訓練や、実際の摂食場面での食事介助が行われる。
Chapter7の確認事項
①認知症(認知機能障害)に対して、食事介助を行っていくまでの流れを理解する。
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Chapter8 認知機能障害の種類ごとの食事介助助
1)失認、視空間性障害への対応(図1)
失認、視空間性障害への対応として、姿勢を調整してみえるところに食物を置いたり、食器の配置や色、大きさ、形を工夫することで違いを認識できるようにしてみえにくさをカバーする。みえにくい場所、物に手がかりとなる印をつけて、実際に言葉がけや、手を持って誘導し、食事動作の継続を促す。無視側に対し、大型の鏡を用いる、左右が逆転するテーブルを用いることでフィードバックをかける。また食事の際は、入力を視覚だけに頼らず、触覚を用いたり、味覚、食感、温度を変化させた刺激を入れる。
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2)観念運動失行、観念失行への対応(図2)
観念運動失行、観念失行については、OTによる専門的な訓練が行われるのと同時に、実際の摂食場面において、一つのスプーン、フォークを使うなど食事動作の順番に使う食器を整理し 、手順を単純化して繰り返し練習してゆく。食器を使用する順に並べて誘導する。すくいやすい皿や握りやすいスプーンなどの自助具を活用して自食を促す。
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3)口腔顔面失行(嚥下失行を含む)への対応(図3)
口腔顔面失行(嚥下失行を含む)は運動性失語に合併しやすく、失語症や口腔顔面領域の随意運動訓練については、STによる専門的な訓練が行われるのと同時に、実際の摂食場面においては、保たれている咽頭期の機能を活用し、代償的にシリンジやノズル付きボトルを用いて、舌根部に直接食塊を少量ずつ送り込む。開口障害についてはK-point刺激法などを併用して開口を促す。閉口障害については吸綴反射を利用して閉口を促通する。
舌の運動障害については食塊を載せた小スプーンを用いて舌を刺激し、随意運動性を高め、奥舌でスプーンを反転させて食塊を咽頭部付近に送り込む。この際、冷やしたスプーンやアイス棒による冷圧刺激をあらかじめ前口蓋弓や軟口蓋に加えておくと嚥下反射が促通されやすい。
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4)実行機能障害への対応(図4)
抑制障害によって口腔内への詰め込みや早食い、食べるペースが速くなる場合には、小さいスプーンで一口量の調整、小さい食器による摂取量の調整、声かけや実際に介助者が手を持って誘導することで摂食ペースを調整する。常同的食行動で同じものばかり食べ続ける症状に対し、一品ごと一皿に分け順番に出すなどの配食方法を工夫する。注意障害に対しては、食事中に急に話しかけたりせず、テレビの音やまわりの話し声などの周囲の環境音に配慮する。カーテンなどで仕切り、不要な視覚刺激を遮断して、食事に集中できるような刺激の少ない環境を整える。注意がそれて食事が中断した場合でも、声かけや誘導によって食事の継続を促す。口腔内へのため込み、嚥下の開始困難に対しては、口腔顔面失行で述べた介助法や、アイスマッサージ、嚥下反射促通手技を用いて、嚥下反射を促す。
Chapter8の確認事項
①認知機能障害の種類ごとに、どのような食事介助を行うかを理解する。
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Chapter9 認知症患者のタイプごとの食事介助
1)アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症では、後期になるまで重篤な摂食嚥下障害は出現しにくいため、基本は先行期~準備期における環境調節が中心となる。これはおもに食事の準備段階において記憶や実行機能を補助する介助(たとえば料理手順が書かれたメモの作成や自動消火機能付きの調理器の利用、介助ヘルパーの導入など)が有効である。場面の設定によっては自力での摂食が可能なため、食べなれた食事の提供や、注意障害に対する環境の整備が重要となる。
2)レビー小体型認知症
レビー小体型認知症(認知症を伴うパーキンソン病を含む)に対しては、認知機能の変動を伴うことから、投薬治療による症状の変化を観察しながら、食事に適した生活リズムを探してゆく。また、パーキンソンニズムによる食事時の姿勢の崩れもあるため、摂食姿勢の調節に注意する。障害されやすい視覚認知障害に対して食器、食物の配置にも注意を払うことが必要である。
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3)前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症に対しては、前述の実行機能障害に対する介助に加え、抑制障害による早食いの窒息リスクを防止するため、小さいスプーンや小分けした食器での配食や、窒息しやすい固形物を避けてミキサー状の食材や食物形態による提供を考慮する。
4)脳血管性認知症
脳血管性認知症に対しては、脳の損傷部位によって多彩な認知機能障害が出現し、認知症のみならず、脳血管障害の後遺症としての嚥下障害も高率に認められるため、その症状はより複雑なものとなる。よって出現している認知機能障害に対応した前述の食事介助を、組み合わせて行うことが必要となる。
Chapter9の確認事項
①認知症患者のタイプごとに、どのような食事介助を行うかを理解する。
参考文献
- 東嶋美佐子:間接訓練;先行期・準備期・口腔期,嚥下障害の臨床,第2版,日本摂食嚥下障害臨床研究会編,医歯薬出版,東京,pp220-224,2008.
- 池田学:日常生活における痴呆患者の食行動.神経心理学,21(2):98-109,2005.
- Kindell J著,金子芳洋訳:認知症の食べる障害,医歯薬出版,東京,pp1-3,2005.
- Priefer BA, Robbins J:Eating changes in mild-stage Alzheimer’s Disease:A Pilot Study,Dysphasia,12(4):212-221,1997.
- 品川俊一郎:認知症の食行動.老年精神医学雑誌,20(7):744-749,2009.
- 須藤紀子,鳥羽研二:各病態別栄養管理・ケアの現状 3)認知症.Geriat. Med,45(3):251-258,2007.
- 松井敏史,小川隆一,国重知子,森朱夏,松下幸生,横山顕,荒井啓行,樋口進,丸山勝也:認知症と摂食・嚥下障害,Geriat. Med,45(10):1277-1282,2007.
- 山田律子:認知症の人にみる摂食・嚥下障害の特徴とケア;認知症の病型別特性を踏まえて,認知症ケア事例ジャーナル,1(4):428-436,2009.