66.サルコペニア

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説明

サルコペニアとは、ヨーロッパのサルコペニアワーキンググループEWGSOPによって、2010年に「サルコペニアとは進行性、全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり、身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴う。」と定義された。その後、2018年に改定版であるEWGSOP2論文が発表され、「サルコペニアとは進行性、全身性に生じる骨格筋疾患で転倒、骨折、身体障害および死亡率といった有害な転帰の可能性増加と関連する。」と定義された。

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説明

サルコペニアの診断には、アジアのサルコペニアワーキンググループAWGSの診断基準を用いる。筋肉量低下を認め、筋力低下もしくは身体機能低下を認めた場合に、サルコペニアと診断する。筋肉量低下の目安は、四肢筋肉量を身長の2乗で除した骨格筋指数が、DXAで男性7.0 kg/m2以下、女性5.4 kg/m2以下、BIAで男性7.0 kg/m2以下、女性5.7 kg/m2以下である。また、下腿周囲長が地域在宅高齢者で男性34cm以下、女性33cm以下、入院高齢患者で男性30cm以下、女性29cm以下の場合にも臨床的に筋肉量低下ありと判断できる。筋力低下は、握力が男性26kg未満、女性18kg未満の場合である。身体機能低下は、歩行速度が0.8m/s以下の場合である。

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説明

サルコペニアの原因は、加齢、活動、栄養、疾患に分類される。加齢では、40歳以降、1年で0.5~1%の筋肉量減少を認め、地域在宅高齢者の約10%がサルコペニアである。活動は、ベッド上安静、閉じこもりがちの生活、病院での「とりあえず安静・禁食」で生じる。栄養は、エネルギーとたんぱく質の摂取不足であり、病院での不適切な栄養管理でも生じる。疾患には、急性炎症・外傷による侵襲や、がん・慢性臓器不全・慢性炎症による悪液質が含まれる。

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説明

サルコペニアの対応は原因によって異なり、リハビリテーション栄養の考え方が有用である。加齢の場合、レジスタンストレーニングとたんぱく質・分岐鎖アミノ酸の摂取の併用が効果的である。活動の場合、早期離床・早期経口摂取、「とりあえず安静・禁食」の回避が予防に重要である。栄養の場合、適切な栄養管理が治療であり、栄養改善にはエネルギー蓄積量を含む攻めの栄養管理を行う。疾患の場合、原疾患の治療が最も重要であるが、それと同時に栄養・運動・薬剤・心理など包括的対応を行う。

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説明

サルコペニアと摂食嚥下障害に関する共通理解を整理して、現時点でのエビデンスを示し、メカニズム、診断、治療、今後の展望に関する統一的見解を提言することを目的に、サルコペニアと摂食嚥下障害:4学会合同ポジションペーパーが作成された。日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会の4学会で合同して作成した。

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説明

サルコペニアと摂食嚥下障害の歴史は、以下の通りである。1992年に低栄養が摂食嚥下障害を起こすかどうかについての議論がなされ、2000年には老化と低栄養が摂食嚥下障害の原因になることを示唆する論文が書かれた。サルコペニアによる摂食嚥下障害(dysphagia due to sarcopenia)という用語は2005年に初めて見られ、「サルコペニアの摂食嚥下障害(sarcopenic dysphagia)」という用語に関する最初の報告は、2012年Kurodaらの論文である。その後、この分野では本邦の研究者が積極的に研究を重ね論文を発表し、世界をリードしている。なお、嚥下筋に一次性および二次性サルコペニアという病態や現象があるか否かも含めて本論文で論じている。用語に関しても「サルコペニアの嚥下障害」が多く使用されている現状はあるが、統一見解はない。

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説明

サルコペニアの摂食嚥下障害の定義は、以下の通りである。「サルコペニアの摂食嚥下障害」診断フローチャート論文では、「サルコペニアの摂食嚥下障害とは、全身と嚥下関連筋のサルコペニアによる摂食嚥下障害である。全身のサルコペニアを認めない場合には、サルコペニアの摂食嚥下障害と診断しない。神経筋疾患によるサルコペニアは、サルコペニアの摂食嚥下障害の原因に含めない。加齢、活動低下、低栄養、疾患(侵襲と悪液質)による二次性サルコペニアも、サルコペニアの摂食嚥下障害の原因に含む。」としてある。入院前には摂食嚥下障害のなかった高齢入院患者で入院後2日間以上、禁食となった患者を対象に、その後、摂食嚥下障害を生じた患者と生じなかった患者を比較した研究がある。その結果、26%に摂食嚥下障害を認め、摂食嚥下障害となった患者全員に、全身のサルコペニアを認めた。一方、全身のサルコペニアを認めない場合には、摂食嚥下障害の新規発生がなかった。

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説明

サルコペニアの摂食嚥下障害の診断として、第19回日本摂食嚥下リハビリテーション学会のシンポジウムでは、表の基準案が示された。その後、サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャートが開発され、信頼性、妥当性も検証された。

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説明

サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャートは、最初に全身のサルコペニアの有無を評価する。次に摂食嚥下機能の低下を評価する。次に、明らかな摂食嚥下障害の原因疾患の有無を評価する。最後に嚥下関連筋群の筋力評価として、舌圧を測定する。嚥下関連筋群の筋力低下は、舌圧が20mPa以上か未満かで評価する。舌圧低下のある場合には、サルコペニアの摂食嚥下障害の「可能性が高い」と判断する。一方、舌圧低下のない場合および舌圧測定が困難な場合には、サルコペニアの摂食嚥下障害の「可能性あり」と判断する。

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サルコペニアの摂食嚥下障害の有病割合と予後については、急性期病院の入院患者で、摂食嚥下リハビリテーション目的でリハビリテーション科に併診のあった患者を対象とした前向きコホート研究がある。AWGS基準で全身のサルコペニアと診断されたのは49%であった。サルコペニアの摂食嚥下障害の診断フローチャートで、サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性ありおよび可能性が高いと診断されたのは32%であった。サルコペニアの摂食嚥下障害では、サルコペニア以外が原因の摂食嚥下障害と比較して、退院時の摂食嚥下機能が有意に悪かった。これらより、急性期病院の摂食嚥下リハビリテーションでは、全身のサルコペニアやサルコペニアの摂食嚥下障害の可能性を認める患者が多く、予後が悪いといえる。

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説明

サルコペニアの摂食嚥下障害の治療について、3例の症例報告がある。これらの特徴は、高齢者、低栄養、ADL自立度低下、疾患(誤嚥性肺炎、がん)、重度の摂食嚥下障害である。全身のサルコペニアは明らかであり、原因である加齢、活動低下、低栄養、疾患をすべて認めている。3例とも、摂食嚥下リハビリテーションと同時に。約35 kcal/kg理想体重として体重増加を目指した栄養管理を実施した。その結果、約10㎏の体重増加、ADL改善とともに、摂食嚥下機能が改善した。そのため、サルコペニアによる摂食嚥下障害の治療には、嚥下関連筋のレジスタンストレーニングを含めた摂食嚥下リハビリテーションと栄養改善の併用が重要である。

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説明

サルコペニアの摂食嚥下障害の予防として、入院後2日以内に全身状態や摂食嚥下機能を評価して、早期リハビリテーション、早期離床、早期経口摂取を行うことが有用である。肺炎の入院高齢患者では、入院後2日以内に経口摂取を開始した場合、より早期に経口摂取で退院できる。誤嚥性肺炎で「とりあえず禁食」にすると、入院後2日以内に経口摂取開始した場合と比較して、肺炎治癒までの日数が長く、摂食嚥下機能が低下しやすい。「とりあえず安静」「とりあえず禁食」「とりあえず水電解質輸液のみ」という対応により引き起こされる医原性サルコペニアを予防することが、サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防に重要である。

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説明

サルコペニアの摂食嚥下障害の展望は、以下の通りである。根本的な問題として嚥下筋にサルコペニアが生じた場合の嚥下障害は何を持って判定するかが未確定である。咽頭期を念頭に置くと「嚥下筋の筋肉量が低下して、嚥下筋力が落ちた場合」に嚥下障害として臨床的に捉えられるのは「咽頭収縮力低下、食道入口部の開大不良などに伴う咽頭残留」ではないかと考えられる。この議論を深めて統一見解を出す必要がある。サルコペニアの摂食嚥下障害の予防や治療に関する介入研究も必要である。特に栄養改善を目指した栄養管理で、サルコペニアによる摂食嚥下障害を予防、治療できるかを明らかにすべきである。嚥下障害は多因子が複雑に関与する病態であり栄養管理以外の要因も十分配慮しなければならない。健常高齢者の嚥下筋の筋肉量と嚥下機能、および加齢による変化の評価も重要である。

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参考文献

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推奨図書

  1. 日本リハビリテーション栄養学会編:リハビリテーション栄養第2巻第1号:サルコペニアの摂食嚥下障害Update、医歯薬出版、東京、2018.
  2. 若林秀隆:高齢者の摂食嚥下サポートー老嚥・オーラルフレイル・サルコペニア・認知症、新興医学出版社、東京、2017.
  3. 若林秀隆、葛谷雅文:リハ栄養からアプローチするサルコペニアバイブル、日本医事新報社、東京、2018.
  4. 日本サルコペニア・フレイル学会、国立長寿医療センター:サルコペニア診療ガイドライン2017年版、ライフサイエンス出版、東京、2017.
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