75.構造の異常

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小児で口腔の構造上の問題によって摂食嚥下障害が生じる代表のひとつは口唇口蓋裂である。口唇~歯槽~硬軟口蓋に裂を有することや1-1.5歳時に行なう口蓋形成術後の合併症としての咬合の問題により、生後直後から成人に至るまで摂食嚥下機能上に多様な問題を持つことが多く、そのことが母親にとっての大きな心の悩みとなる。医療職、看介護職が、口蓋裂に伴う摂食嚥下機能の特性を知ることは重要である。

ここでの学習目標は、1)唇顎口蓋裂児の有する摂食(咀嚼)嚥下障害の様相を知り、2)それらへの対応のための概念を理解することである。

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口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)は、人種間で発現頻度が大きく異なることが知られている先天疾患である。は人種と発現頻度に関する60以上の論文を検討している(Vanderas1))。それによると、日本人では297-1170人に一人との結果が報告されているが、大まかには「500-750人に一人、アジア系、ネイティブアメリカンでは幾分高い」というのが臨床的である。

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口蓋裂の分類には種々あるが、摂食嚥下機能から見るタイプ分類としては、症候群の1徴として出現する場合(症候性syndromic cleft)とcleftだけが単独で発症する場合(非症候性nonsyndromic cleft)がある。症候性の場合には、身体他部位、神経筋系、心循環器系、呼吸器系、消化器系においても障害を有するため、口唇口蓋裂の治療だけでは摂食嚥下障害は解決せず、多様なチームアプローチが要る。
唇顎口蓋裂に伴う摂食嚥下障害は2つある。生後直後の哺乳障害と口蓋形成術の顎発育への影響による咀嚼障害である。裂型によって生じる摂食嚥下機能障害の程度は多様である。

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軟口蓋裂やロバンシークエンスを除く唇顎口蓋裂での生後直後の哺乳障害の原因は以下のような問題で生じる。すなわち、乳首が裂内に逃げることで舌による圧迫力が乳首に伝達されないこと、乳首周囲が陰圧にならないために、哺乳に必要なだけの高さの吸啜力・圧迫力が生じないことである。また乳首が裂に常時入り込んでいる場合、鼻腔粘膜に潰瘍が生じ、疼痛のために摂取量が低下することもある。

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症候群についての専門的研究者たち2)によると、ロバンシークエンスの3徴は、1)小顎症、2)舌の咽頭沈下、3)口蓋裂が必須の症候であるとしており、これらが哺乳障害、嚥下障害を、唇顎口蓋裂児よりも複雑にしている。

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ロバンシークエンス成立の主因である、小顎症の発症原因についても多様な意見があるが、物理的原因とすることが多い(Shprintzenら3))。物理的原因として考えられているのは、胎生期の胎児の子宮内での運動抑制である。母胎側の因子として、極端に小さい子宮や不足した羊水量等の問題、胎児側の因子として筋の低緊張や神経筋障害の問題がある場合、胎児は子宮内で正常に移動できない。その結果、胎児の頭部が胸部から離れることができず、下顎は低形成となる。小顎症のために咽頭方向に沈下した舌は、左右の外側口蓋突起の間に入り口蓋突起の癒合を阻害すると考えられている。そのため、口蓋裂は、硬軟口蓋裂か軟口蓋裂であり、その形状はU字型が多い。
ロバンシークエンスでの問題を重篤化するのは、次に述べる小顎症と呼吸障害である。すなわち、小顎症のために乳首に圧迫圧が伝わりにくく、舌の沈下により気道狭窄が生じることで、乳首の圧迫吸啜運動と呼吸運動の調律が同期しないことである。

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現在は、装置を用いた対応法が主たるものになっている。口蓋裂児用乳首あるいは床(哺乳床、Hotz床、等)を単独で使用もしくは併用する。口蓋裂児用乳首は複数の製品が市販されている。共通するのは、乳首のゴム厚を裂側で厚くすることで、裂隙に入り込まないようにしていることである。
床は、上顎の印象にもとづいて歯科用レジン樹脂で作成される。裂を覆うことで乳首が裂に入り込むのを防止することで通常の乳首でも使えるようになる。栄養チュ-ブを接着した床も使われることがある。最近は、唇裂手術(体重5000gr以上、生後3ヶ月程度)までの間に、患側と健側の口蓋歯槽部を本来の歯槽弓形態に誘導し裂幅を小さくすることで、唇裂手術の成績を向上させることを同時に期待するHotz床などの床装置も用いられるようになっている。
装置を使用するだけでなく、母親に対しての授乳指導も重要である。一般的には、①乳児を仰向けでなく、少し抱き上げる、②弾性のある哺乳瓶の使用、③舌、片側の口蓋に適合する乳首の使用、などの方法を指導する。

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口蓋裂治療の経験の乏しい医師が、裂により咽頭期誤嚥があると誤解し、胃瘻を造設したり、鼻腔栄養チュ-ブを留置することが過去にはよく経験された。しかしながら、嚥下や呼吸機能に関わる神経筋機能に問題を有さない非症候性口蓋裂児においては、経口摂取させないことで、1)圧迫-吸啜-嚥下の哺乳運動の発達を阻害する、2)舌の運動機能の発達を障害する、3)咽頭での違和感のために流涎が顕著になる、4)長期的には咽頭感覚の閾値の上昇による唾液誤嚥を惹起する場合もある。非経口的栄養法の適用には慎重さが要求される。

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一旦患児が哺乳のしかたを獲得すると、良好に哺乳するようになる。とくに、唇裂手術後の哺乳については、従来考えられていたような特殊な乳首を用いなくても、通常のスプ-ンを用いることで可能であると述べている(Peterson-Falzoneら4))。

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ロバンシークエンスでの哺乳障害は、小顎症に伴う舌の位置の問題によって生じる呼吸障害が原因と言え、対応の焦点は小顎症と呼吸障害にある。
一般に他の症候群と合併していないRobin Sequence単独例での小顎症は、成長に応じて遅れを取り戻すことが多いが、他の遺伝的要因や症候群の一症候として生じた場合には、この限りではない。
小顎症への対応として、最近は下顎骨のdistraction osteogenesis仮骨延長術が用いる方法が採られるようになっている5、6)。しかしながら、仮骨延長術では術野に歯胚が重なる場合もあるため、この方法を採用するか否かは仮骨延長術と他の方法との利得の長期的比較に立った検討が必要である。

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ロバンシークエンスでの気道閉塞は、1)沈下した舌と咽頭後壁の間で軟口蓋が挟まれて閉塞する、2)咽頭側壁が内側に膨隆して、正中で狭窄する、3)咽頭自体が絞約する場合である(Shprintzenら3))。舌尖を下口唇粘膜に縫合する「glossopexy舌固定術」は古くから行なわれた方法の一つであるが、これが有効なのは1)の場合だけである。2)咽頭側壁が内側に膨隆して正中で狭窄する、3)咽頭自体が絞約する場合には、多くの方法が同時に用いられる。1)姿勢制御、2)経鼻エアウエイ、3)気管カニュ-レの留置等が採られることが多い。

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気道確保のための侵襲的な介入(経鼻エアウエイ、気管カニュ-レの留置等)を行なった場合には、非経口摂取法(経鼻胃栄養チュ-ブ、胃瘻の造設等)が選択されることが一般的である。
しかしながら、生後直後からの非経口摂取により正常な哺乳運動や摂食機能の発達が阻害されることで呼吸と摂食嚥下機能の問題は長期間に難治性となる。また、チュ-ブの留置と不適切な口腔ケアによってデンタルプラ-クに汚染された唾液の喉頭侵入に続発する肺炎によりさらに問題は複雑になる。
呼吸障害への対応と同時に非経口的栄養法が選択される場合には、健常児で時系列的に辿る摂食機能の発達過程を学習させる必要がある。すなわち、口腔周囲のマッサ-ジや口腔ケアは必須である。口腔機能の発達を促す意味でも、経口摂取に向けた取り組みを計画する。この際、訓練前後の口腔清掃は、誤嚥性肺炎の予防のためにも必須である。

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口蓋形成術は1.0~1.5歳で行われる。その第一目的は、口腔鼻腔の軟口蓋運動によって分離することにより、音声言語機能を正常化しようとするものである。現在一般に広く用いられている粘膜骨膜弁後方移動術では、鋤骨や硬口蓋に、粘膜骨膜弁挙上に伴う骨露出面が生じ、長期的には上顎骨は劣成長となる。手術時期は、早すぎると顎発育を障害し、遅ければ構音機能に影響する。両方の平衡を採るために、ことばの表出開始直前に行なうことが合理的であるとされており、生後1歳から1.5歳に行なわれる。

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口蓋形成術後には劣成長となった顎骨のために、歯列狭窄や偽性下顎前突症が生じる結果、混合歯列期以後に咀嚼機能障害を有するようになる。口蓋裂術後例での術後の咀嚼障害には、歯科矯正治療ならびに外科的矯正治療が必要である。これらの治療には保険が適用され、また育成医療による公費支援があるので、口蓋裂例に関わる医療者は、患者保護者等への公費支援についての情報の開示が必要である。

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音声言語活動での鼻咽腔閉鎖強度は、アデノイドの退縮によって10歳ころに低下すると言われており、嚥下時の咽頭陰圧の形成不全の恐れが想像される。しかしながら、呼吸活動の変形である発音行動での鼻咽腔閉鎖機能と栄養摂取のための消化活動としての鼻咽腔閉鎖機能は、基本的に異なった神経筋機構で営まれる。また喉頭蓋による気管口の閉鎖が無い点でも発音活動での鼻咽腔閉鎖機能の低下は嚥下時の鼻咽腔閉鎖機能の指標にはならない。
一部の成書に、発音時の鼻咽腔閉鎖機能をもって、嚥下時の鼻咽腔閉鎖機能を推し量ることが可能であるかのような記載が散見されるが、鼻咽腔閉鎖機能の生理からは誤りである。
一般的に、口蓋裂例では、発音活動やblowingにおいて鼻咽腔閉鎖不全症であっても、嚥下時には完全閉鎖を示すため、咽頭での陰圧形成については問題なく、口蓋裂の問題だけで成長後に嚥下障害が発症することはない。

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参考文献

  1. Vanderas AP: Incidence of cleft lip, cleft palate, and cleft lip and palate among races: a review.Cleft Palate Journal, 25:171-173,1988.
  2. Gorlin RJ, Cohen MM Jr, Levin LS: Syndromes of the head and neck. OxfordUnversity Press, New York, 1990, 700-704.
  3. Shprintzen RJ: The implication of the diagnosis of Robin sequence. Cleft Palate-Craniofacial Journal, 29:205-209, 1992.
  4. Peterson-Falzone S., et al.: Dental management of Cleft Lip and Palate. Cleft Palate Speech, Peterson-Falzone S., Hardin-Jones M, Karnell M 編,Mopsby, St Louis,2001, 131-132.
  5. Denny A, Amm C: New technique for airway correction in neonates with severe Pierre Robin sequence.Journal of Pediatrics. 147(1): 97-101, 2005.
  6. Burstein FD, Williams JK: Mandibular distraction osteogenesis in Pierre Robin sequence: application of a new internal single-stage resorbable device.Plastic Reconstructive Surgery, 115(1): 61-69, 2005.
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