13.リスク回避のための基礎知識・環境整備

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説明

摂食嚥下障害患者へのアプローチを行う上で、安全性の確保は重要なことである。

摂食嚥下障害があれば、常に窒息や誤嚥が予想され生命が危険にさらされる。このようなリスクを回避するためには、摂食嚥下障害者個々のリスク要因を明らかにし、予防的アプローチを行うことが求められる。ここでは、リスク回避のための基礎的知識や環境整備のありかたについて解説する。

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説明

摂食嚥下障害がもたらす個々のリスク要因を明らかにすることがリスク回避のために最も重要である。リスク要因として、摂食嚥下障害者の個体要因とそれと関係する環境要因に大別することができる。

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説明

脳血管障害の急性期では、JCSの2桁以上の意識障害があれば経口摂取を中止する。また、 軽度の意識障害(傾眠状態)、意識レベルが変動しているときは、意識レベルが安定するのを待って経口摂取を実施することがリスク回避の観点から重要である。

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説明

経口摂取を安全に実施する上で、全身状態の把握、問診、スクリーニングテスト、VF、VE、その他検査をセッティングし、摂食嚥下機能を正確に評価することが重要である。適切な評価によって摂食条件と環境調整は規定されるため、結果的にリスク回避に繋がる。

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説明

喀痰や喘鳴などにより呼吸状態が悪い時は喀出力が弱くなり、誤嚥頻度が増加するリスクがある。また気管カニューレを装用している場合は、①喉頭挙上の制限、②カフによる頸部食道の圧迫、③気道感覚閾値の上昇、④声門下圧維持不能、⑤喉頭閉鎖における反射閾値上昇、等が起こり嚥下機能に悪影響を及ぼしている可能性に憂慮する。

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説明

咳反射は、気道内に侵入した異物を気道外へ除去するための声帯防御反応である。摂食嚥下障害者や高齢者の中には、咳反射が消失、減弱していることがあり、誤嚥しても咳・むせがない(不顕性誤嚥)場合があるので、呼吸切迫やチアノーゼなど、誤嚥に伴う、症状の注意深い観察が必要である。

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説明

高次脳機能障害(知覚、記憶、学習、思考、判断、情動を含めた精神機能の障害)によるコミュニケーション障害は、食事摂取量の低下、窒息リスク、誤嚥リスクとして影響を及ぼす。

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説明

不必要な絶飲食管理によって、廃用症候群を引き起こす。低栄養になると筋肉量は低下し、筋力低下による摂食嚥下障害が引き起こされる。また、低栄養は免疫力低下の原因となる。脱水に伴う唾液分泌機能の低下は口腔衛生不良や咽頭への食塊移送を困難にする。

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説明

細菌に汚染された唾液や食物を誤嚥することにより、肺炎発症のリスクが高くなる。夜間睡眠中には唾液誤嚥が発生する。口腔内の汚染に伴い、齲触、歯周疾患(歯肉炎・歯槽膿漏)、口内炎等が生じる。歯周疾患は、歯の脱落の原因となり、咀嚼による食塊形成を困難にする。経管栄養、PEGの患者においては、口腔使用頻度の低下に伴い、唾液分泌能低下が引き起こされるリスクがある。結果的に口腔内に細菌が繁殖する可能性がある。

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説明

1. 嚥下調整食:摂食嚥下機能に応じた適切な嚥下調整食の提供は、誤嚥リスク予防の観点から重要である。

2. 摂食姿勢:摂食嚥下機能に即した適切な姿勢調整が、効果的な嚥下と誤嚥や窒息の予防として重要である。

3. 直接嚥下訓練および食事介助方法:食品を用いる直接嚥下訓練および食事介助者の技能(skill)がリスク発生に影響を及ぼすことがある。

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説明

摂食嚥下障害の経過に関わらず、経口摂取が困難とされた場合に代替栄養法で栄養管理される。代替栄養法には経管栄養法や中心静脈栄養法などがあるが、いずれの方法においてもリスクを生じることがある。NG法、IC法では気管内誤挿入・誤注入、胃瘻(PEG)では投与速度が速いと下痢が生じやすくなる。

その他の代替栄養法である中心静脈栄養法(TPN)ではカテーテル感染に伴う敗血症や電解質異常、自己抜去による失血などのリスクがある。

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説明

薬剤性の副作用による摂食嚥下機能の低下により誤嚥、窒息のリスクを生じることがある。意識レベルや注意力の低下、唾液分泌の低下、運動機能の障害、粘膜障害などを生じる薬剤は注意が必要である。

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説明

摂食嚥下障害者に経口摂取を実施する場合、吸引器を必ず準備し、いつでも吸引できるようにしておく。緊急時のために、救急カートの準備をしておく。

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参考文献

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