25.摂食嚥下障害の評価(スクリーニングテスト)

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説明

スクリーニングテストは、患者群をふるい分ける際に用いられるものであるが、ここで説明されるスクリーニングテストは主に誤嚥の有無を判定するために用いられるテストを指す。このような場合、標準化された方法を用いることで、再現性や情報交換などに役立つ。また、スクリーニングテストが必要とする要件は、安全、簡便、迅速、低コストである。

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説明

スクリーニングテストの精度を表す指標には感度、特異度などがある。感度は実際に疾患があった患者のうち、つまりここでは実際にVFやVEなどで誤嚥が見られた患者のうちテストで誤嚥ありと判定された患者の率、特異度は精査にて誤嚥がない患者のうちテストで誤嚥なしと判定された患者の率を表す。テストで誤嚥ありと判定された患者のうち精査で実際に誤嚥があった患者の率は有病正診率、その逆は無病正診率という。また、精査とテストの結果が一致した割合を一致率という。

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説明

反復唾液嚥下テスト(RSST: Repetitive Saliva Swallowing Test)1)2)は被験者の喉頭隆起と舌骨に人差し指と中指の指腹をあて30秒間に何回嚥下できるかを測定する。3回未満/30秒であれば陽性、誤嚥ありと判定する。嚥下障害患者では嚥下の繰り返し間隔が延長すると報告され、また、感度は0.98,特異度は0.66と報告されている。

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説明

水飲みテスト3)は常温の水30mlを患者に飲ませて、その際の状態から患者の状態を把握するものである。このテストは経験的に行われてきた水の嚥下を標準化した点に功績が大きいが、感度や特異度などの情報がなく、量の問題から重症例に用いることが難しいとされる。

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説明

改訂水飲みテスト(MWST: Modified Water Swallowing Test)4)は3mlの冷水を嚥下させて誤嚥の有無を判定するテストである。口腔内に水を入れる際に咽頭に直接流れ込むのを防ぐため、舌背には注がずに必ず口腔底に水を入れてから嚥下させる。評点が4点以上であれば、最大で更に2回繰り返し、最も悪い場合を評点とする。カットオフ値を3点とすると誤嚥有無判別の感度は0.70、特異度は0.88と報告されている。

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説明

フードテスト(Food Test)4)は茶さじ一杯(約4g)のプリンを食させて評価するテストで、嚥下後の口腔内残留が評価の対象になっている点が改訂水飲みテストと異なる。カットオフ値を4点とすると、誤嚥有無判別の感度は0.72特異度は0.62と報告されている。

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説明

改訂水飲みテストおよびフードテストはいずれも結果が良好であれば最大で3回繰り返して、最低点を評点にするものである。よって、3回とも良好に嚥下できないと4点もしくは5点の評点とはならない。

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説明

嚥下前・後レントゲン撮影(SwXP: Pre and Post Swallowing XP)5)は4ml液体状バリウムの嚥下前後に側面の単純レントゲン撮影を行い、その像の比較および検査の際のエピソードにより評価する方法である。液体の誤嚥判別の感度は0.84、特異度は0.94と報告されている。

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説明

咳テストは不顕性誤嚥のスクリーニングテストである6)7)8)。刺激物をネブライザより噴霧し、経口的に吸入させて咳反射を誘発させる方法である。1.0w/v%のクエン酸生理食塩水を超音波ネブライザより吸入させて、30秒以内に1回でも咳反射が見られた場合を陰性と反転した場合、誤嚥がみられる患者から不顕性誤嚥を検出する感度は0.92、特異度は0.94と報告されている、その他、酒石酸を用いた方法や、ジェット式ネブライザを用いた方法も報告されている。

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説明

複数のテストを組み合わせて患者の状態を判別するフローチャートも報告されている4)。このフローチャートで使用する臨床的テストはMWST,FT,SwXPの3つで、ゴールが誤嚥の有無判別ではなく、食物を用いた直接訓練開始が可能か,またはVFによる精査が必要かであることに注意して使用する。

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説明

フローチャートを使用する際には、重篤な危険を避けるために4つの前提条件および3つのチェック項目を設けてある。ここに示す前提条件をクリアーしない症例は適応外とし、3つのチェック項目をクリアーしないものは修正した後に各臨床的テストを行う。

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説明

咳テストとMWSTを組み合わせたフローチャートも考案されている7)。このチャートのゴールも誤嚥有無判別だけではないことに留意する。

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説明

スクリーニングテストを使用する際には、それぞれのテストは大まかな状態を把握するまでのものであることを知った上で使う。つまり、あるテストで状態が不良であると判断された場合にも、別のテストでは良い結果が出る可能性もある。たとえば例1に示すような症例にいくつかのテストを行ってみると、唾液の誤嚥は困難であるも、食物の誤嚥は心配なさそうなことが想像される。また例2では、自発的な嚥下は可能であるも不顕性誤嚥の可能性が高いと考えられる。

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説明

テストとして用いる場合には、誰がどのようなタイミングで使用するかをある程度決めておくとよい。それにより、摂食嚥下障害への介入が行いやすくなる。

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参考文献

  1. 小口和代,才藤栄一,水野雅康,馬場尊,奥井美枝,鈴木美保:機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(1)正常値の検討,リハ医学,37(6):375-382,2000.
  2. 小口和代,才藤栄一,馬場尊,楠戸正子,田中ともみ,小野木啓子:機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(2)妥当性の検討,リハ医学,37(6):383-388,2000.
  3. 窪田俊夫ほか:脳血管障害における麻痺性嚥下障害-スクリーニングテストとその臨床応用についてー,総合リハ,10:271-276,1982.
  4. 戸原玄,才藤栄一,馬場尊,小野木啓子,植松宏:Videofluorographyを用いない摂食・嚥下障害評価フローチャート,摂食・嚥下リハ学会誌,6(2):196-206,2002.
  5. 水野雅康,才藤栄一:単純レントゲン検査による嚥下障害のスクリーニング 造影剤嚥下前・後レントゲン像とvideofluorography所見との比較,リハ医学,37(10) :669-675,2000.
  6. 若杉葉子,戸原玄,中根綾子,後藤志乃,大内ゆかり,三串伸哉,竹内周平,高島真穂,津島千明,千葉由美,植松宏:不顕性誤嚥のスクリーニング検査における咳テストの有用性に関する検討,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 12(2), 109-117, 2008
  7. Yoko Wakasugi, Haruka Tohara, Fumiko Hattori, Yasutomo Motohashi, Ayako Nakane, Shino Goto, Yukari Ouchi, Shinya Mikushi, Syuhei Takeuchi, Hiroshi Uematsu: Screening Test for Silent Aspiration at the Bedside, Dysphagia 23(4), 364-370, 2008
  8. Mitsuyasu Sato, Haruka Tohara, Takatoshi Iida, Satoko Wada, Motoharu Inoue, Koichiro Ueda: A Simplified Cough Test for Screening Silent Aspiration, Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 93, 1982-1986, 2012

推薦図書

  1. 戸原玄編集企画:訪問で行う摂食・嚥下障害のチームアプローチ,全日本病院出版会
  2. 植松宏監修:訪問歯科診療ではじめる摂食・嚥下障害のアプローチ,医歯薬出版
  3. 向井美惠,山田好秋編:歯学生のための摂食・嚥下リハビリテーション学,第1版,医歯薬出版
  4. 才藤栄一,向井美惠監修:摂食・嚥下リハビリテーション,第2版,医歯薬出版
  5. 植松宏監修:わかる摂食・嚥下リハビリテーションI 評価法と対処法,医歯薬出版
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