26.その他のスクリーニングテスト

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説明

この項では嚥下障害のその他のスクリーニング法として、成書や文献でよく目にし、臨床でも高い頻度で行われる検査法を取り上げる。他の評価法と同様に実際に臨床で使われる前に手技、判定法と判定精度、安全性、起こりうる有害事象とその対応法を熟知していることが求められる。

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説明

ここでは各種水飲みテスト(改訂水飲み検査は除く)、頸部聴診 、エバンス ブルー ダイ テストおよびパルスオキシメトリーについての解説を加える。

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説明

水飲みテストは最も準備しやすく、かつ生命維持に不可欠な水を検査食として嚥下する評価法であり、直接訓練の可否を決定する際に高い頻度で行われるスクリーニング法である。水は食生活や嗜好とは全く無関係で、世界中のいかなる場所や状況においても誰にでも適用しうる、普遍的な性状の唯一の検査食であるといえる。水は流れが速く、誤嚥しやすいものの誤嚥量が少量であれば他の検査食と比べ、有害事象の発生は少ない。喉頭や気管内の感覚が低下した高齢者などでは少量の水分の誤嚥では咳反射は惹起されず不顕性誤嚥になりやすいため、後述する頸部聴診を本法と併用することが望まれる。患者の状態から判断して誤嚥を起こす可能性が高いと予想される場合には水分量の少ない評価法が選択される。

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日本では窪田らが1982年に30mlの水を用いた水飲みテストを報告した。本法では水を飲み終わるまでの状態を観察して5点満点で判定する。また、水を飲んだ際に、すする、むせるなど何らかのエピソードがあれば記録する。ただし本法による誤嚥判定の感度や特異度などについては明らかではない。

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説明

飲水量を段階的に分けて評価する水飲みテスト、トロミ水を用いた水飲みテストあるいは様々な量の水を用いた水飲みテストが報告されている。

30mlの水分のうち、はじめに5mlをスプーンから2度飲ませて異常がなければ残りを嚥下させる方法も報告され、ムセと声の変化を誤嚥の判別に用いた場合、感度0.72、特異度0.67と報告されている。

現在まで10ml、50ml、3 oz (約90 ml) 、100 ml、150 ml など、異なる量による水飲みテストが国内外で報告されているが、被験者も高齢者、脳血管疾患、頭頸部癌術後患者など報告により異なり、判定基準や判定精度も様々である。

すなわち、改訂水飲みテストのように水の量、判定基準について多くの専門家のコンセンサスが得られたゴールドスタンダードとして確立された水飲みテストは現状では存在していない。しかしながら、改訂水飲みテストで用いる3mlの水では嚥下反射の惹起が困難な患者も少なくなく、また通常の“適度”な一口量は20ml~25mlとされ、経口摂取を制限されている患者がコップ半分程度あるいはそれ以上の量の飲水を日常的に行っている事例に訪問診療でしばしば遭遇することから、100ml程度の規定された量で、判定基準および判定精度について専門家のコンセンサスが得られた水飲みテストが確立されることが強く望まれる。

Simple 2-step Swallowing Provocation Test(以後SPT)は臥位の患者に対して経鼻的に5Frのカテーテルを上咽頭へ挿入し、まず0.4mlの水を注入し、嚥下の誘発を観察し、次いで2mlの水を注入し観察する方法で、注入後3秒以上反射がおこらない場合を異常所見とするものである。これは嚥下反射の惹起性に対するテストであり、誤嚥性肺炎との関連について、水のみテストとの比較が報告されている。ムセと湿性嗄声を異常所見とした10mlおよび30ml水のみテストでは、誤嚥性肺炎患者検出の感度がそれぞれ0.71、0.72、特異度が0.71、0.70であったのに対し、SPTでは0.4mlの水で感度1.00、特異度0.84、2.0mlの水で感度0.76、特異度1.00であったとしている。しかし、摂食中の誤嚥そのものとの関連は明らかとされていない。すなわちこの検査は嚥下時の誤嚥や喉頭侵入の有無をスクリーニングする判定法ではなく、誤嚥性肺炎のハイリスク者を検出するスクリーニング法であることを理解しておく必要がある。また0.4mlの水に対して嚥下反射を誘発しない臥位の患者にさらに2mlの水を注入する方法自体を推奨することはできないとする意見もある。

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頸部聴診は聴診器で嚥下音や呼吸音を聴診する方法で、誤嚥有無判別の感度は0.84、特異度は0.71、著明な喉頭侵入を含む誤嚥有無判別の感度は0.66、特異度は0.62とする報告もある。またVF検査時に記録した嚥下音と嚥下前後の呼吸音を聴覚的に判定し、誤嚥、喉頭侵入、貯留も含めた異常所見の有無について判別させたところ、VF所見との判定一致率は83%であったとする報告もある。

聴診器の接触子は膜型、ベル型のいずれを用いても評価可能だが、乳児用聴診器など小形のものを用いたほうが頸部では扱いやすく、また、嚥下時産生音の検出には輪状軟骨直下気管外側上皮膚面が適しているとされる。

健常例の嚥下では清明な呼吸音に続き、嚥下に伴う呼吸停止、嚥下音、嚥下後の清明な呼気音が聴診できる。異常がある場合には、嚥下反射の惹起前に咽頭へ食物が流れ込む音、喘鳴、咳(気息性の弱い咳は聴診で明らかとなる)、咳払い、湿性嗄声などが比較的高い割合で聴診できるとの報告がある。

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説明

スライドに、嚥下音、呼吸音の異常所見をまとめた。

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説明

聴診法の具体的な手技をスライドにまとめた。指示に従える患者とそうでない患者に対する頸部聴診手技の例であるが、嚥下前のクリアな呼吸音をしっかり確認し、この呼吸音と嚥下後の呼吸音を比較することが非常に重要である。

いずれの場合においても検査試料や一口量の変更や姿勢調節法などを適用しながら検査を繰り返し行うが、試料嚥下後に誤嚥が疑われた場合には、直ちに検査を中断し、速やかに排出処置(前傾姿勢とハフィング)や吸引処置を行う。

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気管切開患者に対する誤嚥のスクリーニングテストとして考案されたものがこれらのテストである.エバンスブルーは、血管内投与をして傷害細胞や血管透過性などを調べるために用いられた試薬で、気管内投与をしても生体に大きな影響を与えることのない色素と考えられるので使用されたと思われる。これ以外の色素を使用することの安全性は定かではないことに注意されたい。

原法のEvans Blue Dye Testでは4時間ごとに1%濃度のEvans blue dyeを舌に滴下し、気管孔からの浸出液が青く染まった場合を誤嚥ありとしている。これに対し、半固形物や液体に色素を混入して用いる方法がModified Evans Blue Dye Testである。感度、特異度は前者が0.80、0.62、後者が0.82、0.38と報告されている。

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過去には、嚥下後のSpO2の低下は誤嚥と関連があると報告されてきたが、現在では否定的な意見が多い。心肺機能に異常がなければ少量の誤嚥でSpO2が低下しないのはむしろ当然で、誤嚥のスクリーニングはできないと考えられる。

しかし、全身状態のモニターとしてのSpO2計測は非常に重要で、直接訓練中にSpO2が低下した場合には、多量の誤嚥など、無視することのできない何かが起こったと判断しなければならない。

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参考文献

・水飲み検査

  1. 窪田俊夫ほか:脳血管障害における麻痺性嚥下障害-スクリーニングテストとその臨床応用について-. 総合リハ 10: 271-276. 1982.
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  3. 横関恵美ほか : 急性期脳梗塞による嚥下障害における改訂水飲みテストと1%とろみつき水飲みテストの併用法の有用性について. 脳卒中, 39( 1) : 12-18, 2017.
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  5. Wu MC, Chang YC, Wang TG, et al. Evaluating swallowing dysfunction using a 100-ml water swallowing test. Dysphagia. 2004;19(1):43-47. Gordon C, et al.: Dysphagia in acute stroke. Br Med J (Clin Res Ed). 1987 Aug 15;295(6595):411-4
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  7. Wu MC,: Evaluating swallowing dysfunction using a 100-ml water swallowing test. Dysphagia. 2004 Winter;19(1):43-7.
  8. Adnerhill I, et al:. Determining normal bolus size for thin liquids, Dysphagia, 4: 1–3, 1989.
  9. Robbins JA, et al.: A modification of the modified barium swallow, Dysphagia, 2: 83–86, 1987.

・Simple swallowing provocation test

  1. Teramoto S, et al..: Detection of aspiration and swallowing disorder in older stroke patients: simple swallowing provocation test versus water swallowing test. Arch Phys Med Rehabil. 2000 Nov;81(11):1517-9.
  2. Kagaya H, et al.: Simple swallowing provocation test has limited applicability as a screening tool for detecting aspiration, silent aspiration, or penetration. Dysphagia. 2010 Mar;25(1):6-10.

・頸部聴診

  1. Frakking TT, et al.: The Use of Cervical Auscultation to Predict Oropharyngeal Aspiration in Children. : A Randomized Controlled Trial. Dysphagia. 31(6) : 738-748, 2016
  2. 平野 薫ほか:嚥下障害判定のための頸部聴診法の診断精度の検討. 日口外誌, 47(2) : 93-100, 2001
  3. 高橋浩二ほか : 頭頸部腫瘍患者の嚥下障害に対する頸部聴診法の判定精度の検討. 頭頸部腫瘍, 27(1) : 198-203, 2001
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  6. Nozue S et al: Accuracy of cervical auscultation in detecting the presence of material in the airway. Clin Exp Dent Res, 16(6) : 209-214, 2017

・エバンス・ブルーダイテスト

  1. O'Neil-Pirozzi TM, et al.: Simultaneous modified barium swallow and blue dye tests: a determination of the accuracy of blue dye test aspiration findings. Dysphagia. 18(1):32-8.2003
  2. Béchet S, et al : Diagnostic Accuracy of the Modified Evan's Blue Dye Test in Detecting Aspiration in Patients with Tracheostomy: A Systematic Review of the Evidence. Dysphagia, 31(6) : 721-729, 2016
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・パルスオキシメーター

  1. Wang TG, et al. Pulse oximetry does not reliably detect aspiration on videofluoroscopic swallowing study. Arch Phys Med Rehabil. 2005 Apr;86(4):730-4.
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参考文献

  1. 高橋浩二 監訳:Groher&Craryの嚥下障害の臨床マネジメント医歯薬出版 東京 2011
  2. 才藤栄一ほか監修, 摂食嚥下リハビリテーション第3版,  医歯薬出版 東京, 2016.
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