
説明
嚥下内視鏡検査では、嚥下機能の評価だけでなく、咽頭や喉頭内の分泌物貯留の状態、咽頭や喉頭内の構造・麻痺の有無などを観察することが可能である。このコースでは、下記5項目を学習目標として設定した。成人における正常・異常所見を学習した上で、小児に対する検査法の要点を学習することに配慮している。嚥下障害のメカニズムを理解し、その対応法を立案するためには、嚥下内視鏡検査で得られる画像所見を十分に理解できるようになることが重要である。
1)嚥下内視鏡で観察される構造・機能解剖が理解できる。
2)正常嚥下画像の特徴を理解すること。
3)異常嚥下画像を観察し、異常所見を指摘できること。
4)小児に対する嚥下内視鏡検査の観察点がわかること。
5)成人に対する嚥下内視鏡検査との相違がわかること。

説明
内視鏡観察の基本であるが、まず、内視鏡で得られる画像のオリエンテーションをつけること。この教材ではスライドの図29-1のように、上部が背側、下部が腹側、向かって左が患者の右側、向かって右が患者の左側となっている。したがって、舌根部や喉頭蓋は下方に位置する。ただし、カメラの設定によっては、上下左右反対の画像で観察する場合もある。カメラの設定とモニター画面を確認すること。

説明
主な嚥下内視鏡の観察点を解説する。図29−2のように、まず下鼻道を経由して、観察点1からは鼻咽頭(nasopharynx) を観察し、おもに軟口蓋や上咽頭筋の機能評価を行う。次にファイバーを中咽頭腔にすすめ、観察点2からは口腔咽頭(oropharynx)を観察し、舌根部や喉頭蓋谷、梨状窩、喉頭蓋の機能を評価する。さらに、喉頭蓋の後方を乗り越え、観察点3からは、喉頭前庭を観察でき、披裂や声帯などの機能を評価できる。

説明
図29−3は、それぞれの観察点から得られる画像を示している。スライド3と対比しながら、ファイバー先端の位置と観察可能な構造を理解していただきたい。詳しい解剖学的解説は順次実施する。

説明
図29−4は、右鼻腔から下鼻道を通過し上咽頭を観察している所見である。向かって下方に軟口蓋、左に上咽頭右側壁、右方に上咽頭左側壁、奥に上咽頭後壁が観察される。ここでは、主に軟口蓋の挙上や上咽頭筋の収縮による鼻腔咽頭閉鎖機能を評価する。図29-5は発声時での評価で軟口蓋の挙上だけでなく両側上咽頭側壁の収縮もみられる。空嚥下時には発声時よりも強い鼻腔咽頭閉鎖がみられる。空嚥下時の鼻腔咽頭閉鎖は、スライド9の正常者嚥下内視鏡画像の動画でより詳しく理解できる。

説明
中咽頭腔にファイバーの先端が到達し、下方には舌根部や喉頭蓋谷が観察される。中央に喉頭蓋、その両脇に梨状窩が観察できる(図29-6)。

説明
喉頭蓋を乗り越えると、喉頭前庭を観察できる(図29-7)。まず喉頭内(喉頭前庭)を観察し、分泌物の性状や貯留の程度を評価する。また、分泌物が呼吸にともなって喉頭内へ侵入したり気管内へ誤嚥しないかを観察する。次に、 喉頭蓋や披裂、仮声帯、声帯の構造や色調、浮腫の有無 などを観察し、Cystや肉芽、腫瘍などの有無についても留意する。さらに発声や息こらえをさせて、声帯や披裂の動きを詳しく評価する。なお、声帯麻痺はスライド15の動画で理解できる。
また、喉頭前庭は、図の点線で囲まれた領域であるが、そこへ食塊などが侵入することは喉頭内侵入(penetration)と定義されている。また、声帯を超えた場合は、 気管内誤嚥(aspiration)とよばれる。

説明
内視鏡検査では、嚥下の瞬間の観察はできないため、息こらえ時における喉頭閉鎖様子を観察することによってその機能を評価する。左図29-8:aは吸気時で喉頭が開大している様子である。披裂や声帯が両脇に大きく開いている。中央図29-8:bは喉頭が閉鎖する途中の様子である。声帯は中央に寄り、披裂は前内方に寄りながら声門が閉じかかっている。さらに右図29-8:cでは、披裂は喉頭蓋の後面に密着し、喉頭は完全に閉鎖される。披裂前方傾斜(arytenoids anterior tilting)と表現される。このような喉頭閉鎖が嚥下時にタイミングよく機能することによって、誤嚥を予防することが可能となっている。なお、この喉頭閉鎖は、患者に口を開けた状態で息を止めるように指示すると容易に観察できる。

説明
図29-9(動画)は、健常者の嚥下内視鏡画像である。空嚥下による鼻腔咽頭閉鎖の様子を観察する。軟口蓋の挙上や咽頭側壁の内側への移動に留意すること。また、喉頭蓋や喉頭蓋谷、梨状窩などの解剖を確認する。喉頭前庭の観察後、発声時の声帯の動き、呼吸による声門の開大の様子を観察する。後半では、牛乳を飲む様子を観察する。ホワイトアウトで嚥下中は観察できない。嚥下反射後に誤嚥や咽頭・喉頭内の残留を評価する。本例(管理者)では、咽頭内は牛乳で白くなるが、喉頭前庭には牛乳が侵入していないことを確認できる。

説明
嚥下障害として、次に掲げる4つの状態を提示した。嚥下障害を有する人の代表的な異常所見であり、それぞれの項目で動画にて解説する。
1)唾液誤嚥、
2)トロミ液誤嚥、
3)NG‐チューブ留置の弊害、
4)反回神経麻痺(Wallenberg 症候群)。

説明
急性期脳出血患者で、発症3日目での嚥下内視鏡所見である(図29-10:動画)。いわゆるノドの奥で「ごろごろ」といっている状態で、頻回に吸痰を行っている状況であった。内視鏡所見では、唾液が呼吸に伴い気管内に吸引される。喀出も不良であり、吸引と喀出を繰り返している。重度の意識障害であったが、意識改善にともない3週後には経口摂取が可能となった。

説明
アルツハイマー病で貧血を合併している患者である。全粥・刻み食を摂取しているが、食事中にムセはみられない。時々微熱がみられるとのことで、食事後に嚥下内視鏡検査を実施した(図29-11:動画)。まず、刻み食の残りが喉頭蓋谷や喉頭前庭に認められる様子が観察できる。次に牛乳プリンを摂食させると、食塊は右の梨状窩に到達し、あふれそうになってから嚥下反射が出現した。嚥下反射惹起が遅延している所見である。嚥下反射後には、咽頭や喉頭に残留せず、気管内にも認められない。しかし、飲むヨーグルトでは、同様に右梨状窩に到達後嚥下反射が生じるが、喉頭閉鎖が間に合わずに気管内に誤嚥した様子が観察できる。誤嚥後も全く喀出反射は出現せず、典型的な無症候性誤嚥(silent aspiration)といえる。このように嚥下内視鏡検査では、食塊の通過経路や嚥下反射の開始時期を判定できる。

説明
脳出血急性期で意識障害が遷延し、NG‐tubeでの栄養管理がなされていた。内視鏡で咽頭内を観察すると、tubeはとぐろを巻いており、さらにその周囲は分泌物などで汚染されている(図29-12:動画)。また、喉頭蓋は発赤・腫脹しており、喉頭内にも分泌物が貯留している。しかし、喀出反射はみられず、体に刺激を与えてようやく気道内に貯留していた痰が喀出された。この症例は、検査直後にtubeを抜去して点滴栄養のみに切り替え、意識障害の改善にあわせてその2週後に経口摂取を開始した。

説明
左延髄背外側梗塞でワレンベルグ症候群となった症例である。嗄声や嚥下障害を認める。発症後3年目の内視鏡所見である(図29-13:動画)。左声帯や披裂は麻痺しており、発声時も左声帯は動かない。右声帯が左声帯に寄る形で声門を閉じて発声する様子が観察できる。発症初期は、右声帯は中央までの内転にとどまっていたため、声門は開いたままであり、著しい嗄声で発声持続時間も3秒と短縮していた。現在は7秒まで延長している。

説明
成人・高齢者における嚥下内視鏡検査と同様に小児に対する嚥下内視鏡検査は、器質的異常の評価、嚥下の機能的異常の診断という診断的検査であり、代償的方法・リハビリテーション手技の効果確認を目的とした治療的検査でもある。一方で、嚥下障害を有する小児では、上気道(鼻腔・鼻咽腔、咽頭、喉頭)の狭窄・舌根後退、喉頭軟化症等の問題を伴い、また指示に従えない者が多いため治療的検査の点では限界もある。このコースでは、小児に対する嚥下内視鏡検査の観察点および成人に対する嚥下内視鏡検査との相違について解説する。

説明
小児では、挿入時の苦痛軽減と嚥下運動を阻害しないように、画質が荒くなるが軟性の細いファイバースコープを使用する。映像は、必ず記録し、検査時の啼泣、喘鳴を記録するために、音声の記録を同時に行うことが望ましい。「抱っこ」や按頭台の付いた座位保持椅子を使用し、安定した動きにくい姿勢で検査する。挿入時の苦痛軽減のためにファイバースコープに2%塩酸リドカインゼリーを塗布して挿入するが、細径のファイバースコープ使用の際には、必ずしも必要ではない。キシロカインスプレー(8%)を鼻へ噴霧することは、鼻腔粘膜への刺激が強いこと、麻酔作用が下咽頭にまで及ぶ危険があるため、適切ではない。下鼻甲介上方からの挿入アプローチと下鼻甲介下方からの挿入アプローチがあり、下鼻甲介上方から挿入する方がスムーズであることが多い。 頭部の急な動きに追従できるようにシャフト部を保持した手の1,2本の指(通常は小指と薬指)を患者の頬骨部付近に接触させておき、ある程度固定した位置関係を保ちながら観察する。検査中は、SpO2のモニターを行う。嚥下障害を有する小児では、発声、さまざまな嚥下手技、姿勢調節などの指示に従えない場合が多いため、観察を主体とした所見をとることが多い。

説明
鼻孔から内視鏡を挿入し、軟口蓋の動きを評価する。嚥下時、鼻咽腔閉鎖不全が認められる場合、食塊の逆流が認められる(図29-14)。指示に従えない小児の場合、発声による鼻咽腔閉鎖機能の評価は困難である。

説明
嚥下に問題のある障害児では、喉頭前庭や咽頭腔の狭窄があり、舌根後退を伴っていることも多い(図29-15)。本例は安静呼吸時に胸骨上切痕(suprasternal notch)の陥凹が認められ、姿勢は前傾、あるいは下顎を前方に牽引しないとSpO2値の低下を認めた症例である。呼気時にわずかに喉頭口が観察可能であるが、吸気時には喉頭蓋が吸引され咽頭後壁に接触している。

説明
舌根の後退(沈下)が認められる場合(図29-16)、喉頭前庭・下咽頭部の観察には、咽頭腔を広げるために下顎を前方に突出させる必要がある。

説明
喉頭前庭・下咽頭部の観察では、喉頭前庭、下咽頭部の器質的異常の有無、唾液の貯留を観察する。嚥下に問題のある障害児では、披裂の浮腫・喉頭軟化症などの問題を伴っていることがある(図29-17)。
指示に従えない小児の場合、発声や息こらえによる披裂の運動、声門の運動、喉頭閉鎖機能の評価は困難である。

説明
安静呼吸時に喘鳴が認められる児では、下咽頭・喉頭前庭に唾液の貯留が著しく認められ(図29-18)、呼吸と同調し吸気時に声門下に流入し、呼気時に唾液が吹き出す所見が認められることがある。このような場合、重度の嚥下障害が疑われるので、あえて、食物や水分を摂取させての検査は行わない。

説明
経鼻経管栄養法で、カテーテルを留置している場合は、咽頭におけるカテーテルの走行、太さの確認が必要な場合がある。カテーテルが太く嚥下時、喉頭蓋の動きを阻害している場合がある。

説明
日常の食形態はペースト食であったが、外部観察評価では口角の左右非対称の動き、下顎の側方臼磨運動が認められたため(図29-20:A)、煮た根菜(ニンジン)の経口摂取を嚥下内視鏡で観察した。体幹の角度45度、頸部伸展位(後屈)で、ニンジンが喉頭口に落下した(B)。呼気により食物は下咽頭に移動し嚥下された。頸部屈曲位にすると食物が口腔から落下することはなくなったが、食物は舌による押しつぶし、咀嚼もされずに丸呑みで嚥下されていることが判明した(C)。頭頸部肢位の重要性がわかる。また、外部観察による機能評価と実際の食物処理に乖離が認められた症例である。食物が咽頭へどのような形態で送り込まれているかを観察することにより、間接的に口腔機能を推測できる。

説明
嚥下内視鏡検査では、嚥下反射時には、ホワイトアウトとなって観察は不可能になる。ホワイトアウト後、喉頭蓋谷・梨状陥凹における食塊の残留の観察し、さらに内視鏡先端を喉頭前庭部に進め食塊の喉頭侵入や誤嚥の有無を観察する。
咽頭残留が認められた場合、何回の嚥下で残留がクリアになるかを観察することで咽頭の処理能力が評価できる。
誤嚥は嚥下後、食塊が声門下に侵入したことを直視できた場合に診断可能であるが、声門下気道の後壁は死角となり観察不可能である。誤嚥が疑われた場合は、成人・高齢者の嚥下障害では、誤嚥物を直視にて確認する他に咳をさせて排出される侵入物を確認することで判定するが、小児では指示に従えない場合が多いので、咳反射による喀出、呼気による排出、声門下の直視による観察所見で判定する。
嚥下後、喉頭前庭・喉頭蓋谷・下咽頭に食塊の残留が認められ(図29-31:A)、さらに内視鏡先端を喉頭前庭に進めると誤嚥が観察された(B、C)。

参考文献
- 太田喜久夫:摂食・嚥下障害リハビリテーション ビデオ内視鏡検査―鼻咽喉ファイバースコープを用いた嚥下機能評価法の実際.Modern Physician 26(1):33-37,2006
- Langmore SE.et al. Fiberoptic endoscopic examination of swallowing safty; a new procedure. Dysphagia2(4):216-219,1988.
- Bastian RW. Videoendoscopic evaluation of patients with dysphagia; an adjunct to the modified barium swallow. Otolaryngol Head Neck Surg.104:339-349,1991.
- Langmore SE ; Endoscopic and videofluoroscopic evaluations of swallowing and aspiration. Ann Otol Rhinol Laryngol 100 : 678-81,1991.
- 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:10.小児での検査のポイント(担当:北住映二).嚥下内視鏡検査の標準的手順,日摂食嚥下リハ会誌, 11(3): 389-402, 2007
推薦図書
- 藤島一郎監訳 Langmore SE編著:嚥下障害の内視鏡検査と治療 医歯薬出版株式会社
- 馬場尊、才藤栄一編:摂食・嚥下障害リハビリテーション 新興医学出版社
- Langmore,S.E. 編著(藤島一郎 監訳):嚥下障害の内視鏡検査と治療.医歯薬出版,東京,2002
- 金子芳洋監修、尾本和彦編:障害児者の摂食・嚥下・呼吸リハビリテーションーその基礎と実践―,医歯薬出版,東京,2005


