
説明
嚥下造影は、嚥下内視鏡とともに摂食嚥下リハビリテーションの領域で、スクリーニングテストの結果や、訓練中の状況把握、食材のレベル変更などの時に行う詳細な検査のひとつで、誤嚥の有無をはじめ、リハビリテーションに必要な多くの情報を提供する検査である。このため、摂食嚥下リハビリテーションを行うにあたり十分理解しておいて欲しい検査である。

説明
摂食嚥下障害をもつ患者の嚥下動態を把握することは、摂食嚥下訓練を行う医療者にとって必要不可欠である。嚥下造影は、X線透視により口腔咽頭の動きを観察することにより、嚥下機能を診断しようとする検査である。このためには、食品に造影性を与えることにより、食品の動きを見るとともに、食品の通過状態から間接的に口腔咽頭の軟組織の動態を観察するものである。また、咽頭・喉頭部は空気を含んでいるため陰性造影剤の役割を果たすので、食品に含有させたバリウムやヨードなどの陽性造影剤とともに、重要な観察項目となる。咽頭嚥下は、1秒以内と非常に早い運動であるので、動態の観察にはビデオ記録(30コマ/秒)が欠かせない。本検査は、あくまでも機能検査であり腫瘍などの疑いがある場合は必ず耳鼻咽喉科医等の専門家の診察を仰ぐ。

説明
嚥下造影検査の目的は、1の診断のために行う検査と、2の治療のための検査がある。目的を明確にし、その目的を達成するために十分な検査を行うことは言うまでもない。一方で本検査は被曝を伴う検査であり、被検者、検者とも被曝に対する配慮が必要である。治療のための検査では、代償姿勢(右向き嚥下、左向き嚥下、うなずき嚥下、体位変換など)や食品の物性変化(食材の変更やとろみの添加など)が適用される。3の訓練経過中に行う検査では、訓練効果の判定や、食事段階の変更、治療計画の見直しなどに重要な情報を提供する。

説明
検査には1.X線透視装置、2.動画記録装置、3.音声記録システム、4.検査用椅子、5.観察システムなどが必要である。

説明
X線透視装置には様々な装置があり、それぞれ特徴が異なる。多くは左図のような据え置き型である。古い装置では透視装置固定のための基盤(ベース)が床に出っ張っていることが多く、検査椅子や車椅子を使用する時障害となり、これを安定させるため床面を平らにするなど工夫が必要なことが多い。また、X線管球を支えるアームや胃透視用の胃を押さえるアームなどが、位置付けの邪魔になることもしばしばある。これらは検査の自由度に影響するので、装置や検査椅子を新たに購入する場合は、十分検討する必要がある。特に正面撮影をする場合、X線管球とテーブルとの間が狭いし、テーブルに検査椅子の台車があたったり、椅子を傾斜した状態での撮影が困難なことが多いので、現場での工夫が必要となる。被検者は、X線管球からできるだけ離して、かつ、イメージ増倍管(テーブル側にある)にできるだけ近づけて位置づけする。テーブルから離れると像が拡大し、十分な検査範囲が得られないことがある。
2.3.動画と音声の記録システムには、ビデオやDVDなどが用いられる。透視装置のモニタから画像を記録装置に入力する場合は、音声は別にマイクからアンプを介して入力する必要があることが多い。システムが完成したら必ず実際に試行してみて音声・映像ともに記録されていることを確認する。

説明
4.検査椅子は、国内でも何種類か販売されている。右はアメリカから輸入した物。仰臥位30度で検査することを想定する場合、X線管球とテーブルの間が狭いので装置にあたって撮影困難になることが多い。また、車椅子などで検査する場合は、正面撮影の時に椅子のフレームなどの金属が邪魔になることも多いので工夫が必要になる。
5.観察システムは、テレビモニタなどを用いると複数で観察することができる。コンピュータに取り込んで観察することも可能な場合が多い。時間情報は、ビデオによるものやコンピュータソフトによるものなど、利用可能であるが、正確な情報かどうかについては、使用しているシステムを検討する必要がある。日本のビデオ記録システムは、 NTSC(National Television System Committee、全米テレビジョン放送方式標準化委員会)方式で、基本的に走査線525本、1秒間に29.97フレーム(コマ)記録される。ちなみにヨーロッパのビデオはPAL(Phase Alternating Line、位相反転線)方式が使用され、走査線は625本、25コマ/秒で記録される。スローモーションやストップモーションの可能な機器で観察し、1コマ約1/30秒として時間情報も得ることができる。走査線については、最近のハイビジョン方式の一般化など、急速な発展を遂げているところである。

説明
嚥下造影をVF(Videofluorography of swallowing)と呼ぶのは、ビデオに記録されることが多いからである。記録速度は、ビデオに記録することにより、おのずと30コマ毎秒が確保される。しかし、デジタル式のX線透視装置では記録コマ数が少ない選択があるので注意をする。

説明
造影剤は、X線を吸収して他の部位と差をつける(見えるようにする)陽性造影剤と空気のようにX線を透過して他の部位と差をつける陰性造影剤に分けられる。通常、造影剤というと陽性造影剤をいう。X線は原子番号の大きいものほどよく吸収するので、バリウム(Ba:56)、ヨード(I:53)が用いられているガストログラフィンTMは胃透視の検査で良く用いられるものであるが、肺毒性が強いため使用しない。造影剤の味は、ガストログラフィンTMはすごくにがい。非イオン性のヨード製剤たとえばイオパミドールは、やや甘いようだが後味として苦味が残る。イオトロラン(イソビストTM)はすごく甘い。バリウム製剤は胃透視等で用いられるタイプは、のむヨーグルトのような状態にしてあるが、希釈して行くとだんだん味が粉臭くなる。このように、造影剤により特徴がある上、使用している状況により味が変わるので、検査者は自分で味見をしておくと良い。 ヨード過敏症は多くはないが、ショックがあるので問診等十分な情報を得るようにする。

説明
ヨード系においては、アレルギーによるショックが問題になるが、緊急事態が起こった場合対処できるようにしておくことが重要である。

説明
造影剤の副作用を具体的に示してある。使用する造影剤の注意事項などにはしっかり目を通しておく必要がある。

説明
造影剤の種類をしめした。ヨード系はイオン系と非イオン系があり、一般に非イオン系は肺毒性が少ないので、嚥下造影に用いられることが多い。
硫酸バリウムも、よく使用されるが、胃透視などで用いられる濃度では、お茶や水の検査にはならない。これはバリウムが胃壁に付着しやすいよう、粘性が高くどろっとした状態となっているためである。通常バリウムは100W/V%以上のものが多いので、飲料用水で2倍から5倍希釈して用いる。

説明
造影剤の誤嚥による死亡事故が報告されていることは、念頭に置いておく必要がある。

説明
造影剤の肺毒性に関する実験結果が報告されている。この実験結果により現在非イオン性造影剤が嚥下造影に用いられる根拠となっている。

説明
一般に、ほとんどの食品は造影性を持たないためX線検査で見ることができない。このため検査食には、造影剤を添加する必要がある。 イオパミドールやイオヘキソールなどの非イオン性造影剤はジェネリック製品が出ており、価格の面でこちらが用いられることが多い。

説明
造影剤加検査食の一部を示した。バリウムゼリーは多くの病院で使用されている。さらに多くの具体的レシピが日摂食嚥下リハ会誌や日摂食嚥下リハ学会のホームページ上にある嚥下造影の検査法(詳細版)より入手できるので参考にされたい。

参考文献
- Katayama H, Yamaguchi K, Kozuka T, Takashima T, Matsuura K, Nakata H, Tanabe M, Brunger C.Full-scale investigation into adverse reaction in Japan. Risk factor analysis. The Japanese Committee on the Safety of Contrast Media.Invest Radiol. 1991 Nov;26 Suppl 1:S33-6; discussion S40-1.
- Gray C, et al: Aspiration of high-density barium contrast medium causing acute pulmonary inflammation -Report of two fatal cases in elderly women with disordered swallowing-. Clinical Radiology, 40:397-400,1989.
- Trulzsch DV, et al: Gastrografin-induced aspiration pneumonia: a lethal complication of computed tomography. South Med J, 85:1255-1256, 1992.
- 江畑智希 他:ガストログラフィンによる嚥下性肺炎の1例.八千代病院紀要, 13:10-11, 1993.
- MacAlister WH,et al: The effect of some contrast agents in the lung: An experimental study in the rat and dog. Am J Radiol,140: 245-251, 1983.
- Ginai AZ, et al: Experimental evaluation of various available contrast agents for use in the upper gastrointestinal tract in case of suspected leakage. Effects on lungs. Brit J Radiol, 57: 895-901, 1984.
- Miyazawa T,et al: Effect of water-soluble contrast medium on the lung in rats comparison of iotolan, iopamidol, and diatrizoate. Invest Radiol, 25: 999-1003,1990.
- 嚥下造影の標準的検査法(詳細版)日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討会案作成に当たってー嚥下造影の標準的検査法(詳細版)-,日摂食嚥下リハ会誌,8:71-86, 2004.


