
説明
摂食嚥下障害の重症度分類はこれまでいくつか考案されているが、ここでは本邦で広く用いられている臨床的重症度分類と摂食嚥下能力グレード/摂食嚥下状況のレベルについて解説する。これらは過度に複雑でないため、患者の状態をチームで共用するときや、他医療機関と情報を共有するときにも便利である。

説明
摂食嚥下障害臨床的重症度分類1-4)はDSSと略され、7段階の順序尺度(順序を持つが等間隔ではない尺度のこと、DSS 1と2の差は、DSS 2と3の差と等しくない)である。DSSは臨床的に重症度判定を行うため、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査が行えない医療機関でも判定可能であるが、そのような検査が行えれば判定の精度は向上する。DSSが決まれば、可能な食形態、経管栄養の有無、摂食嚥下訓練の必要性などの対応方法を知ることができる。

説明
DSSは1から7まで7段階に分けられ、1が最重症、7が正常範囲である。臨床的に誤嚥のあるものは1から4の4段階に、誤嚥のないものは5から7の3段階に分けられる。

説明
DSSに対応する食事である。DSS 7は常食可能であり、DSS 6では軟飯・軟菜食など軟らかめの食事を必要とすることが多い。DSS 5は咽頭期にはあまり障害はないため、咀嚼があまり必要でないもの、咽頭への送り込みが楽である食事が考慮される。DSS 4では各種の誤嚥防止方法が有効であるため食形態も様々であり、常食が可能な場合もある。DSS 3では水分に増粘剤が必要になる。DSS 1と2では経管栄養ないしは経静脈栄養が必要とされる。

説明
DSS 1から3では胃瘻が検討される。DSS 5では原則経管栄養は不要であるが、経口摂取量が少ない、または他の医学的要因により経口摂取ができない場合は胃瘻が検討されることもある。直接訓練はDSS 7では必要ない。DSS 3から5では一般の医療機関で直接訓練が可能である。DSS 2は誤嚥のリスクが高いので、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査、さらには言語聴覚士による専門的な訓練が行える施設において初めて、食物の形態や体位などに注意して慎重に直接訓練が可能である。DSS 1では直接訓練は専門医療機関においても不可能である。間接訓練はDSS 6以下のすべてのレベルに適応がある。

説明
DSSの判定にはまず、臨床的に誤嚥があるかないかを判断する。誤嚥なしと判断すれば、DSSは5以上となる。高齢者に多い義歯の使用ではDSS 6となる。先行期、準備期、口腔期中心の障害はDSS 5である。臨床的に誤嚥が疑われる場合にはDSSは4以下となる。味噌汁のような固形物と液体の混合物で誤嚥が疑われるのはDSS 4、水分摂取で誤嚥が疑われる場合はDSS 3である。DSS 1と2では固形食でも誤嚥を認めるが、DSS 2では医学的には安定している。DSS 1は常に唾液も誤嚥していると考えられ、医学的にも安定していない。

説明
DSSは症例の重症度の評価であるので、実際にどのような食事を行っているかは反映しない。すなわち、実際の評価の場合、「水分誤嚥であるが常食を食べていて問題だ。」とか、「軽度問題であるのに経管栄養を行っている。」ということがある。したがって、重症度の評価とは別に、実際の食事の状況を評価する必要がある。このために摂食状況スケールがある。これは食事が調整食かや、経口摂食と経管栄養のカロリー量の比較で評価する手法であり概念的にも理解しやすい。さらに、重症度に見合った摂食状況でなければ、医学的な問題を生じる。このような状況にあるかどうかを記載するものが医学的安定性の項目である。

説明
摂食嚥下能力グレード5、6)は患者の摂食嚥下の「できる」能力を評価し、摂食嚥下状況のレベル7-9)は実際に「している」状況を評価する。摂食嚥下能力と状況が一致していれば、グレードとレベルは同一になるよう設定されているが、現実には患者以外の要因により、レベルとグレードが一致しないことも珍しくはない。

説明
摂食嚥下能力グレードは10段階の順序尺度であり、グレード1が最重症、10が正常である。グレード1から3は食事としての経口摂取は不可であり、グレード4はお楽しみとしての経口摂取、グレード5以上で初めて1食以上の経口摂取が可能になる。グレード7以上では補助栄養が必要なくなる。摂食介助が必要なときはAをつけて、例えば7Aのように表示する。

説明
摂食嚥下状況のレベルは10段階の順序尺度であり、レベル1が最重症、10が正常である。レベル1から3は食事としての経口摂取は行っていない。レベル4から6は代替栄養が必要、レベル7以上では3食経口摂取しており代替栄養は不要の状態である。

説明
摂食嚥下能力グレード2では基礎的嚥下訓練すなわち間接訓練のみが可能であり、グレード3以上では摂食訓練すなわち直接訓練が開始可能である。摂食嚥下状況のレベル3では訓練としての経口摂取は行うが、食事としての経口摂取は行っていない。レベル9とレベル10の違いは摂食嚥下障害を示唆する何らかの問題があるかないかである。

参考文献
- 才藤栄一:平成11年度厚生科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究」総括研究報告書.摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究.平成11年度厚生科学研究費補助金研究報告書; 1999. p. 1-17
- 馬場 尊,才藤栄一:摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションの適応,臨床リハ,9(9): 857-863, 2000.
- 才藤栄一:摂食・嚥下障害の治療戦略,リハ医学,41(6): 404-408, 2004.
- 加賀谷 斉,岡田澄子,才藤栄一:摂食・嚥下障害のリハビリテーション,呼吸器科,10(3): 230-236, 2006.
- 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害, 医歯薬出版,東京,1993,p72.
- 藤島一郎,高橋博達:摂食訓練の展開,総合リハ,32(3): 257-260, 2004.
- 藤島一郎,大野友久,高橋博達,他:「摂食・嚥下状況のレベル評価」簡単な摂食・嚥下評価尺度の開発,リハ医学,43: S249, 2006.
- Kunieda K, Ohno T, Fujishima I, et al. : Reliability and Validity of a Tool to Measure the Severity of Dysphagia: The Food Intake LEVEL Scale. Journal of Pain and Symptom Management 2012 [Epub ahead of print].
- 藤島一郎:チームアプローチの重要性,才藤栄一,向井美惠(監修),摂食・嚥下リハビリテーション(第2版),医歯薬出版,東京,2007,p114-116.


