37.唾液の基礎知識

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唾液の作用

唾液にはさまざまな作用がある。

1.消化作用  唾液中に含まれるアミラーゼによってデンプンはマルトースに分解される。

2.潤滑作用 唾液は口腔粘膜を湿らせることで、咀嚼、嚥下、発語などの関する運動を円滑にする

3.食塊形成作用 食べ物を湿らせることで、食物を粉砕しやすくし食塊形成を容易にする

4.溶解作用 食べ物の中の味物質を溶解することで味覚を促進する

5.自浄作用 食物を口腔内から洗い流す

6.抗菌作用 唾液中に存在する抗菌物質によって微生物に抵抗する

7.緩衝作用 口腔内を中性に保つ

8.歯の保護作用 唾液タンパクによって歯の表面を守る。カルシウムやリン酸イオンの濃度を高め、歯の溶解を防ぐ

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唾液分泌のメカニズム

ヒトは、1日に約1から1.5リットルの唾液を分泌する

咀嚼時や会話時に唾液分泌量は増加する

刺激時唾液と安静時唾液がある

安静時唾液は、刺激がなくても少しずつ口腔内に分泌されて口腔粘膜を潤している

刺激時唾液は、咀嚼や会話、味覚などの刺激によって増加する

唾液は三大唾液線(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と小唾液線(口唇腺、頬腺、舌腺、口蓋腺、臼後腺)がある

耳下腺からはアミラーゼを含んだ漿液性の唾液が、舌下腺からは粘性の多い唾液が分泌される

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唾液減少症とは

唾液減少唾液の減少した状態、唾液分泌の阻害、減少によりした状態をいう。

原因として、

1.加齢によるもの

加齢によって唾液分泌量が変化するかは、最近では諸説ある。加齢による唾液腺の組織学的変化は認められ、それによる影響も疑われている。しかし、最近では、安静時唾液においては加齢による減少は見られても、刺激時唾液による加齢の影響は少ないという見解が多く出されてる。

2.疾患によるもの

シェーグレン症候群などの唾液腺の疾患によるもの、糖尿病や甲状腺機能亢進症などのホルモン・代謝系の異常によるもの、脱水や腎疾患などによる体液・電解質異常によるもの、ストレスなどによる神経性要因などがある

3.薬剤の副作用によるもの 薬剤による影響は多く知られている(別スライド)

4.その他

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口腔乾燥症とは

口腔粘膜の乾燥や保湿度の低下した状態をいう。唾液分泌が正常でも、口呼吸などによっても口腔乾燥が起こる。

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口腔乾燥の原因

疾患によるもの

シェーグレン症候群等の膠原病

 ・涙腺、唾液腺を標的とした臓器特異的自己免疫疾患で、目の渇き(ドライアイ)や口腔乾燥(ドライマウス)が主症状

 ・30~60歳の女性に好発する

 ・唾液腺・涙腺を中心とした外分泌腺に限局する一次性(原発性)と、関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)など他の膠原病変に合併する二次性(続発性)に大別される

糖尿病

 ・糖尿病では糖が尿中に排泄されるため、糖を含んだ尿は浸透圧が高くなり、多量の尿が排泄される(多尿症)

 ・脱水症状とともに口腔乾燥症状が発現する

尿崩症

 ・下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン不足、または腎臓がこのホルモンに反応しないために尿量が異常に多くなる病気

 ・多尿により脱水状態になり、口渇を訴える

甲状腺機能亢進・低下症

 ・甲状腺機能亢進症では、代謝が活発化し、心機能亢進、交感神経興奮が高まって動悸、多汗、易疲労感などとともに口渇が生ずる

 ・甲状腺機能低下症では、新陳代謝が低下し、全身の浮腫が生じて、口渇が生ずる

唾液腺疾患

 ・肉芽腫性病変として、耳下腺にサルコイドーシス、梅毒、結核などがまれにみられる

 ・全身性アミロイドーシスでは、導管や腺房周囲の間質にアミロイドが広範囲に新着し、実質の圧迫萎縮をきたす

 ・ウイルス性疾患として、ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、サイトメガロウイルスによる巨大細胞封入体症などがある

発熱・熱病

 ・発熱時には脱水傾向となることから、口渇になりやすい

うつ病・・・など

 ・抗うつ剤の副作用だけでなく、うつ病自体の身体症状として口腔乾燥が発現することも多い

機能低下に関連したもの

義歯不適による機能低下 

 ・義歯不適により咀嚼機能、嚥下機能が不全となることにより、刺激唾液の分泌が減少することがある

麻痺による機能低下

 ・口腔内に麻痺があると麻痺側の器官を動かさなくなり、それにより機能低下となり、刺激唾液の分泌が減少する

口呼吸など

 ・習慣的に開口状態であると、口呼吸となりやすく、そのため口腔内が乾燥する

疾患の治療に関連したもの

放射線治療

 ・線量により、唾液腺細胞の変性、消失がみられる

 ・一般的に、放射線照射30~60Gyで唾液腺は30~50%減少する

 ・漿液性の唾液腺(耳下腺)が影響を受けやすい

薬物性口腔乾燥症

 ・降圧剤や睡眠剤など多くの高齢者が服用している薬の副作用として口腔乾燥がある

 ・長期間の服用により影響がでてくる

唾液腺の外科処置

 ・口腔がんなどにより、唾液腺が切除されたことによる唾液分泌量の減少

その他

生活習慣・生活環境

 ・喫煙、アルコール摂取、間食なども口腔乾燥の要因となりうる

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薬剤と唾液分泌

唾液分泌は多くの薬剤によって影響を受ける

1.中枢神経または末梢神経とその受容体に作用するもの

 1)抗コリン薬

  ・鎮痙薬(アトロピン、スコポラミン)

  ・抗パーキンソン病薬(ビペリデン、トリヘキシフェンジル)

  ・消化性潰瘍治療薬(スコポラミン、プロパンテリン、チメピリジウ、エチルピペリナート)

 2)精神神経用薬

  ・統合失調症治療薬(クロルプロマジン、フェルナジン、ハロペリドール、スルピリド)

  ・うつ病治療薬(イミプラン、アミトリプチン、マプロチリン、トラゾドン)

  ・抗不安薬(トリアゾラム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、クロキサゾラム、オキサゾラム、プラゼパムなど)

 3)鎮静、催眠薬(フェノバルビタール)

 4)抗ヒスタミン薬(H1拮抗薬としてジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、ジフェニルピラリン、ホモクロルシクリジン、クロルフェニラミン、H2拮抗薬としてファモチジン、ニザチジン)

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薬剤と唾液分泌

唾液分泌は多くの薬剤によって影響を受ける

2.電解質や水の移動に関与するもの

 1)降圧薬

  ・利尿薬(フロセミド、スピロノラクトン、トリアムテレン、アセタゾラミド、D-マンニトール)

  ・カルシウム拮抗薬(ニフェジピン、ニカルジピン、ベラパミル、ジルチアゼム)

 2)気管支拡張薬(エフェドリン、サルブタモール、ツロブテロール)

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唾液検査の実際

唾液検査においては、

1.自覚症状

2.臨床診断基準(次スライド)

3.口腔乾燥状態の評価

 1)唾液湿潤度検査紙 

 2)口腔水分計

 3)安静時唾液分泌量測定法

   吐唾法、ワッテ法  

 4)刺激時唾液分泌量測定法

   ガムテスト、パラフィン法

   サクソン法 

がある。

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臨床診断基準(柿木、厚生労働省長寿科学研究事業、1999)

高齢者や障害者においては自ら口腔乾燥感を訴えられない場合も多く、唾液分泌検査においては、簡便で臨床的所見と関連のある臨床診断基準が必要になる。

臨床診断基準(柿木、厚生労働省長寿科学研究事業、1999)

0 : 正常(0度)  :口腔乾燥や唾液の粘性亢進はない      

1 : 軽度(1度)  :唾液が粘性亢進、やや唾液が少ない。唾液が糸をひく

2 : 中程度(2度) :唾液が極めて少ない。細かい泡がみられる

3 : 重度(3度)  :唾液が舌粘膜上にみられない

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1)唾液湿潤度検査紙による方法

湿潤度検査紙は、水分などの液体成分の貯留度を測定するために開発されたものである。口腔粘膜上に貯留している唾液が単位時間当たり検査紙に吸湿される量を測定する。

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3)安静時唾液分泌量測定法

座位で安静にした状態で分泌されてくる唾液を吐きだす方法(吐唾法)

歯科用のロールワッテなどを口腔前庭部に置き唾液で湿潤させ測定する方法(ワッテ法)   

4)刺激時唾液分泌量測定

小さなガムやパラフィン片を一定時間咀嚼し、分泌される唾液量を測定する(ガムテスト、パラフィン法

ガーゼを口腔内で咀嚼してもらい、ガーゼが吸収した唾液量を測定するサクソン法 

写真は、パラフィン法を示す。

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唾液分泌量が低下すると?

唾液分泌不全が摂食嚥下機能に与える影響について

唾液分泌量が低下すると?

1.自浄作用が低下するため口腔粘膜や咽頭粘膜に食物残渣が停滞する

2.口腔粘膜が義歯などによって傷つきやすくなる

3.食塊を湿潤させることができず、咀嚼機能が低下する

4.乾燥した粘膜同士がくっつきやすくなるために舌の口腔器官の運動が制限される

5.味覚が障害される

6.プラークの付着性が増し、除去されにくくなるためにう蝕が多発する

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嚥下障害が起こると

1.唾液を嚥下することが出来ないために、唾液誤嚥が起こる

2.水分摂取が制限されることによって脱水になり、唾液分泌が抑制される

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原因療法

1)薬剤の副作用を除去・軽減(薬剤の副作用によるもの)

2)唾液分泌改善薬(唾液分泌自体の減少によるもの)

3)水分補給(脱水、水分摂取不足によるもの)

4)人工唾液(唾液分泌自体の減少によるもの)

5)口腔のリハビリテーション(口腔機能低下によるもの)

6)生活習慣・体質の改善(悪習慣によるもの・体力低下によるもの)

対症療法

1)口腔の保湿;保湿剤、人工唾液などの使用

2)口腔ケア;食前の口腔ケアも重要

3)粘膜痛や違和感への対応;薬剤の処方、保湿による疼痛緩和

4)口腔機能障害への対応;咀嚼困難、嚥下困難な場合には、食形態の適正化など

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参考図書

  1. 安細敏弘、柿木保明編集:今日からはじまる!口腔乾燥症の臨床 この主訴にこのアプローチ、医歯薬出版、2008.東京
  2. 日本老年歯科医学会編、老年歯科医学用語集、医歯薬出版、2008.東京

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