40.小児の口腔ケアのポイント

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説明

(はじめに)
小児の歯の萌出は、身体の成長とともに変化していく時期である。特に、摂食嚥下障害を伴う障害児の口腔内は、定型発達児とは異なる事が多く介助が必要な場合が多い。したがって小児の口腔の特徴を十分理解したうえで適切な口腔ケアを実施する事が大切である。

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説明

①小児の口腔ケアの必要性を理解する
小児の口腔ケアは、口腔内にとどまらず肺炎の予防など全身の健康に関与するものである。小児期は、歯の萌出や永久歯との交換など口腔の形態、環境の変化が起こる時期である。そのため口腔ケアに使用する器具は各時期や口腔形態に適したものを選択する事で清掃効果を向上させ、ケアの時間を効率化することが出来る。また、摂食嚥下障害を伴う重度の障害児の場合には、口腔ケア実施時の姿勢や開口、歯ブラシによる刺激で全身の緊張や呼吸困難などを伴う事もあるのでケースによっては、モニタリングを行いながら実施する事も考慮する。

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説明

①乳歯の萌出時期を理解する②永久歯の萌出と交換の時期を理解する
乳歯は、一般的にアルファベットで呼ばれており、乳歯列完成で20本となる。永久歯は、数字で呼ばれており、親知らず(智歯)を抜いた永久歯列完成で28本となる。最初に萌出する永久歯は、6(第一大臼歯)であり、同じ頃に乳中切歯が動揺し始めて永久歯に交換する。交換期の時期は、咀嚼機能や発音機能が低下しやすい時期なので摂食指導や食形態に配慮が必要である。ダウン症候群など障害の中には萌出時期が定型発達児よりも遅れる事がある。

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説明

①口腔ケアの必要性を理解する②実施時のリスク管理を理解する
口腔ケアは、口腔内を清潔に保つために毎食後実施する事が望ましい。しかし実際には不可能なことが多い。そのため、睡眠中は唾液の分泌が減少し、口腔内細菌の増殖が多くなるため就寝前には十分な口腔ケアが必要である。経管栄養摂取児は、注入前に口腔ケアを実施する事で唾液の分泌を促進するとともに覚醒にもつながる。頻回の嘔吐は、胃酸によって、エナメル質の脱灰や拒食につながることがあるので実施時間や姿勢に配慮する。

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説明

小児の口腔ケアに用いる清掃器具の種類と用途を理解する
口腔ケアは、口腔内を清潔にするだけではなく感覚の導入や感覚に慣らしていく目的がある。乳児期前半は、手や指で口腔周囲や口腔内に触れられることに慣らす時期である。下顎乳前歯が萌出し始めたら、シリコン製の歯ブラシを口に入れたり、ガーゼ、ウエットティッシュタイプの物でふき取ったり少しずつ歯磨きに慣らしていく。ただし、子ども自身が歯ブラシを口にするときは必ず見守りが必要である。歯ブラシは、基本的にはまっすぐなハンドルで狭いところにも入りやすいヘッドの小さめの物が良い。歯ブラシは、毛先が広がると清掃効果が著しく低下するので早めに交換する。電動ブラシや音波ブラシは、歯面に当たれば清掃効果は高いものの、振動や音によって拒否する場合がある。感覚が鈍麻な小児に対しては、電動・音波ブラシを感覚刺激の導入も含めて用いる事がある。

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説明

清掃補助用具の種類と用途を理解する
歯の本数が増えてくると、歯の間や萌出直後の低位の歯などは歯ブラシだけでは十分に清掃ができないため清掃補助用具を用いる。デンタルフロスは、指を咬まれないようにホルダータイプの方が使いやすい。舌苔や分泌物が多量に貯留している場合には、舌ブラシやスポンジブラシを適宜使用するが、噛み込んでスポンジが取れないように注意が必要である。いずれの清掃器具もそのまま使用すると毛先やスポンジが固く粘膜を傷つける恐れがあるので、一度水にくぐらせた後、良く水気を取ってから開始する。

フッ素ペーストは、日常の使用でう蝕予防に有効である。特に、乳歯や萌出直後の歯には、フッ素がとりこまれやすい。うがいが出来ない場合には、洗口が不要なペーストタイプやスプレータイプを用いると良い。

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説明

小児の口腔ケアを実施する際のポジショニングを理解する
通常、幼児期前半までは子どもの口の中が良く見えるように寝かせ磨きが推奨されているが、障害児の場合にはこの限りではない。寝かせ磨きを嫌がる場合には、座位や立位で介助磨きを行う事もあるが、この時は介助者が後ろから子どもの顎を非利き腕で支えながら磨く。

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説明

①口唇の排除方法を理解する②口腔内の観察の重要性を理解する
口腔ケアを実施する前に、口唇や頬を指で把持して口腔内の汚れや口内炎や傷、動揺歯の有無や程度を確認する。口内炎や粘膜に傷が存在すると口腔ケアの拒否につながると共に早期治療につながる。口腔周囲筋がかたい場合には、ストレッチの効果も期待できる。過敏の存在は、口腔ケアの拒否につながるため歯磨きを行う前に感覚に慣らすために口腔周囲に触れる事も重要である。

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説明

小児の基本的な歯磨き方法を理解する
低年齢児の上唇の裏側には上唇小帯が見られる。ここに歯ブラシの毛先が当たると痛みを伴い、歯磨きの拒否につながることがある。このような場合の歯磨きは、上唇小帯の上に介助者の指を置いて歯ブラシの毛先が当たらないようにガードする。歯磨きの順番は、奥歯(臼歯)から手前に毛先がしなる程度の細かい動きで磨いていく。歯の表面を磨いたら歯の裏側を磨くがいずれの部位も操作する反対の指で口唇や頬粘膜を排除しながら磨く。裏側を磨く時には、下顎をしっかり下げて開口させるが、開口により呼吸を止めたり、呼吸困難になったりする場合があるので様子をみながら実施する。歯磨き終了後に水を使って専攻する場合には、誤嚥予防のために頭部を前傾にするか吸引しながら実施する。

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説明

①口腔ケアを拒否する原因を理解する②過敏がある場合の口腔ケアの方法を理解する
口腔ケアを拒否する原因には、過敏や心理的拒否の他に咬反射に大別される。過敏が存在する場合には、日常の中で過敏の存在部位の脱感作法につとめる。過敏が強く歯ブラシの刺激を受容できない場合には、刺激の弱いスポンジブラシや軟毛ブラシを使用して徐々に感覚に慣らしていく。心理的拒否によって口腔ケアを拒否している場合には、介助者を変える、10カウントで終了の目安をつける、好きな音楽や画像を見ながら磨く、好む歯磨き粉の味を付けるなど、反応には個人差があるので何に興味をひくかを観察する必要がある。1度に全てを磨こうとせず回数を分けたり、少しでもできたことに称賛したりする事で自信につながる場合もある。咬反射によって歯ブラシを咬み込んだ場合には、無理に歯ブラシを引き抜かないで力が抜けた時に外す。指で開口保持が困難な場合には、開口器を使用する場合もあるが、噛み込みが強すぎる場合には、歯が動揺したり破折する場合があるので注意が必要である。

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説明

①口蓋のケアの必要性を理解する②特殊な口蓋のケアの方法を理解する
口蓋は、成長とともに変化するが、狭口蓋の場合には隙間に食物残渣が残り除去が困難である。このような場合には、スポンジブラシを用いるか、図10のように狭い場合には、毛足の長い軟毛ブラシを用いてやさしくかき出すようにする。刷掃し過ぎて口蓋を傷つけないように注意が必要である。汚れがかたくなっている場合には、保湿剤を用いて軟化させてから少しずつ除去していく。

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説明

①乳歯の交換期の口腔ケアを理解する②誤嚥の危険性の高い小児の交換期の口腔内を理解する
前歯部の交換期は、乳歯と永久歯が一時期重なってはえるので前後の歯の間に汚れが貯まりやすいものの、動揺している歯を磨く事は難しい。動揺が軽度の場合には、指で上から歯を固定すると歯ブラシを動かしやすい。また、抜けた歯を口腔外に自ら出すことが困難と想定される場合には、抜去歯の誤飲のリスクを軽減するために歯科に抜歯時期の判断を仰ぐことも検討する。

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説明

①歯肉肥大の原因を理解する②歯肉肥大に対するケアの方法を理解する
抗てんかん薬の副作用によって歯肉が肥大することがある。副作用による歯肉肥大は指で触れると硬いが清掃が不十分であるとその上に歯肉炎を併発している事がある。歯肉炎の見極め方は、触ると歯肉が柔らかい、容易に出血する事で判断が出来る。歯ブラシの毛先が当たりずらい場合には、タフトブラシや仕上げ磨き用の小さなブラシを用いる。肥大のボリュームや部位によっては、呼吸の通路を阻害する、日常のケアの限界を越える、咬合を阻害するなどが起きる場合があるので、判断に困った場合には歯科に相談をする。

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参考文献

  1. 日本小児歯科学会:日本人小児における乳歯・永久歯の萌出時期に関する調査研究、小児歯科学雑誌、26(1):1-18,1988.
  2. 遠藤眞美:障害者の歯と口腔のケアと健康管理.障害者歯科学.永末書店.東京.pp.116-123.2014.
  3. 小坂美樹:口腔ケア.写真でわかる重症心身障害児(者)のケア.インターメディカ.pp.142-157,2015.
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