

説明
摂食嚥下のプロセスの中で咽頭期の障害は誤嚥に直接結びつき、摂食嚥下障害の中核的な問題である。
咽頭期の問題として以下の点が挙げられる
1)嚥下反射が惹起されにくい
2)嚥下反射による運動が不十分
これらの結果、食塊の咽頭移送と嚥下反射惹起の時間的なずれ、咽頭の食塊残留、誤嚥(嚥下前・中・後)が生じる。

説明
Thermal tactile stimulationは嚥下反射が惹起しやすくなることを目的とし、口腔の後方(特に前口蓋弓)を冷却した刺激子で軽く圧をかけながら刺激する方法である。
Thermal tactile stimulation以外にもThermal stimulation, Tactile Thermal Applicationなどの用語が用いられ、日本語では冷圧刺激法、寒冷刺激法、前口蓋弓冷圧刺激法、また“のどのアイスマッサージ”などが用いられている。

説明
作用機序:前口蓋弓をはじめとした口腔後方部に対しての温度覚、触圧覚の刺激により嚥下反射惹起が促通される。刺激子が凍らせた綿棒のような場合には刺激時に解けた少量の冷水、味覚がさらに刺激として加わる。刺激の種類は単一よりも複合的なものの方が効果的である1)2)。神経生理学的な作用機序としては不明な部分も多いが、これらの刺激により感覚受容器の感受性が高まり嚥下反射が惹起されやすくなる。もしくはこれら末梢からの複合的な感覚入力が嚥下中枢の閾値を低下させる、と想定されている。
適応:嚥下反射惹起までに時間がかかる患者に対して適応がある。間接訓練のみで食物の使用には至っていない症例も、また直接訓練を開始している症例も対象となる。

説明
患者に開口してもらい、冷却した刺激子により前口蓋弓基底部から中央に向け、数回、軽く圧を加えながら刺激する。刺激後は閉口し、指示に従える場合は空嚥下を促す。嚥下反射惹起後、次の刺激を行う。
直接訓練と組み合わせて使用する場合は、冷圧刺激を行った直後に食物を口に取り込ませ嚥下を促す。
原法では、刺激部位は前口蓋弓とされている。しかし前口蓋弓以外にも奥舌、軟口蓋、咽頭後壁で同様な反応が生ずる。一施行の刺激回数2)や訓練頻度、訓練期間6)による効果の差は実証的なデータとしては明らかではない。患者の反応をみながら刺激部位、刺激回数などを調整する。

説明
原法では冷却した間接喉頭鏡(小児用 size 00)を刺激子として使用するとされている。その他にも刺激子として柄の長い金属製の小さなスプーンやスポイドに水を入れ凍らせたものも同様に使用可能である。または綿棒に水、レモン水等を含ませたものを凍らせて使用する場合もある。

説明
口蓋弓を刺激するため催吐反射(gag reflex)が亢進していると実施できない場合がある。また咬反射が強い場合には、刺激子を咬み込み、けがにつながる恐れがある。両者とも刺激の与え方を段階的に調整する。咬反射が強い場合は、刺激子の柄に柔らかい緩衝材を巻き付けるなどの工夫が必要である。
誤嚥リスクが高く、唾液誤嚥がある重症例では、練習中に唾液を誤嚥する可能性が高い。このため開始前に口腔ケアを行い口腔内の衛生管理に努める。また凍った綿棒を使用する場合には咽頭内に過剰な水分が流入しないよう配慮が必要である。

説明
Thermal tactile stimulationには即時効果が認められている4)、5)。嚥下反射の遅延が見られる症例では、刺激直後に咽頭期嚥下の開始が早くなる。しかし長期的な施行により嚥下反射の反応時間が短縮するという明確な根拠はみられない5)、6)。

説明
Shaker (シャキア)訓練:医師Reza Shakerによって考案された間接訓練。
咽頭期障害を呈する患者の中には舌骨・喉頭の前上方への挙上が不十分で、そのことにより食塊の咽頭部への貯留、誤嚥を引き起こすタイプがある。このような問題に対して舌骨・喉頭の挙上に責任をもつ舌骨上筋群を強化し、食道入口部の開大を得ることで咽頭下部の残留、誤嚥を改善させようとする訓練法である7)、8)。
舌骨上筋群の強化のために頭部の挙上をおこなうことから、head raising exercise(頭部挙上訓練)とも呼ばれている。

説明
作用機序:咽頭から食道への食塊の移送は、咽頭の収縮により食塊が下方へ押し出されることとそれと同期して食道入口部が開大することによって行われる。食道入口部(輪状咽頭筋)は嚥下反射が惹起すると弛緩する。これに加えて舌骨・喉頭が前上方へ移動することによって輪状咽頭筋が他動的に伸長され食道入口部が開大する。喉頭の前上方への運動に責任をもつ筋群は舌骨上筋群のオトガイ舌骨筋、顎舌骨筋、顎二腹筋(前腹)や甲状舌骨筋である。これらの筋群は舌骨・喉頭が固定されている場合には頭部の前屈に作用する。このため背臥位からの頭部挙上運動を行うことでこれらの筋群の強化をはかることができる。

説明
仰臥位をとり、足をあげないようにして頭部を挙上する。このとき自分の足先をみるようにし、舌骨上筋にのみ力が入るようにする。
A 等尺性運動(isometric exercise):頭部挙上で1分間保持、その後1分頭を下ろして休憩、これを3セット行う。
B 等張性運動(isotonic exercise):頭部の挙上・下制を30回繰り返す。

説明
適応:舌骨・喉頭の挙上に問題があることで食道入口部開大に影響のある症例、原疾患として脳血管障害(テント上、脳幹)、放射線治療後、高齢者の廃用性の障害などがあげられる。適応を決める場合にはVFなどで舌骨・喉頭挙上不全とそれに伴う入口部開大不全が確認されていることが必要である。
禁忌:頸椎症、気管カニューレ装着例などで頸部の運動に制限がある場合は禁忌、運動負荷がかかるため高血圧、心臓病などを合併する場合には理学療法と同様のリスク管理が必要となる。
効果:Shakerらによる研究では27名の患者をランダムにShaker法実施群と非実施群(偽練習群)に割り付け、実施群に有意な改善(食道入口部の開大、喉頭の移動、機能的な嚥下評価)が見られたとしている7)、8)。

説明
Shaker exerciseと同様に喉頭挙上、入口部の開大を促進するために、舌骨上筋群の強化を意図した練習方法が提案されている。
1)徒手的頸部筋力増強訓練
目的:徒手的に抵抗負荷を加えながら頭部前屈を行うことで頸部筋群の筋力増強を図る
方法:治療者は坐位をとる患者の後方に位置し患者の額に両掌をあて後方へ引く、この負荷に拮抗して等尺性運動、もしくは等張性運動を行わせる。
根拠:杉浦等は2名の頭頸部腫瘍術後患者に実施、舌骨挙上改善、誤嚥の減少を認めた9)。
禁忌:頸椎症の既往、カニューレの挿管など頸部への負荷が望ましくない症例
2)Chin tuck against resistance(CTAR) exercise
目的:抵抗負荷を加えながら頭部前屈を行うことで舌骨上筋群の筋力増強を図る。
方法:顎と胸骨の間にゴムボールを挟み,ゴムボールを顎と胸骨で締め付けるように教示する 。
根拠:CTAR exercise と頭部挙上訓練を比較し,CTAR による舌骨上筋群への刺激がより特異的であったと報告されている10)。
3)jaw opening exercise
目的:開口運動により舌骨上筋の活動を強化する。
方法:最大開口位を10秒間保持し10秒間休憩する。1セットの練習でこれを5回繰り返し、1日2セット実施する11)。
根拠:Wada 等は8人の嚥下障害患者を対象に1ヶ月実施、舌骨の上方移動距離、食道入口部の開大率、咽頭通過時間が有意に向上した。
禁忌:顎関節の脱臼の既往のある患者には禁忌

説明
生体に電流を流すことにより生じる神経・筋の興奮を通じて関連する運動機能を強化しようとするもので、摂食嚥下障害に対しても何種類かの方法が提唱され商用化されている。
1)舌骨上筋群に対する治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation, TES)
電気刺激を用いて舌骨・喉頭挙上に関連する筋を刺激し、当該筋の筋力強化をはかるものである。
適応:脳血管障害などにより舌骨・喉頭挙上に問題のある患者
方法:舌骨上筋群(顎二腹筋前腹 / 顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋)または甲状舌骨筋群直上の皮膚表面に電極を貼付して電気刺激する。安静時に電気刺激する方法と嚥下反射のタイミングに合わせて電気刺激する方法がある。
禁忌:活動期腫瘍の患者、ペースメーカなどの電子機器を埋め込んでいる患者には注意が必要。
効果:本法の導入により効果が得られたとする一定の報告がある12)。一方、深部にある舌骨上筋への刺激は難しく、解剖学的な位置関係から電気刺激が舌骨下筋にも作用しやすいなどの問題も指摘されている13)。
商用機器では筋電計との組み合わせでバイオフィードバック機能が付加されたものもある。

説明
頸部干渉波刺激(IFC:Interferential Current)装置
体表から嚥下関連神経を低周波の干渉刺激を用いて感覚閾値レベルで刺激する。これにより嚥下反射閾値を低下させ嚥下反射惹起の改善を目的としたものである。
適応:脳血管障害、神経筋疾患など中枢性の嚥下障害患者
効果:脳卒中やパーキンソン病による嚥下障害例に対して、即時効果として咽頭期嚥下機能が向上したとする報告や14)ランダム化比較試験により摂取量の増大や咳嗽反応の改善がみられたとする報告がある15)。

参考文献
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- Rosenbek JC, Roecker EB, Wood JL, Robbins J: Thermal application reduces the duration of stage transition in dysphagia after stroke, Dysphagia 11(4): 225-33, 1996.
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- 杉浦淳子, 藤本保志, 安藤篤, 他 “頭頸部腫瘍術後の喉頭挙上不良を伴う嚥下障害例に対する徒手的頸部筋力増強訓練の効果 “日本摂食・嚥下リハ学会誌12(1):69-74,2008.
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- Sugishita S, Imai T, Matui T, et al: Effects of Short Term Interferential Current Stimulation on Swallowing Reflex in Dysphagic Patients, International Journal of Speech & Language Pathology and Audiology 3:1-8,2015.
- Maeda K, Koga T, Akagi J: Interferential current sensory stimulation through the neck skin improves airway defense and oral nutrition intake in patients with dysphagia : a double-blind randomized controlled trial, Clin Interv Aging,12:1879-86, 2017.
推薦図書
- Logemann, J.A. Evaluation and treatment of swallowing disorders 2nd 210-214, Pro-ed, 1998(道健一 道脇幸博/監訳.“Logemann摂食・嚥下障害” 医歯薬出版株式会社 2000)
- 日本嚥下障害臨床研究会編 “嚥下障害の臨床 第2版”:229-234医歯薬出版株式会社, 2009
- 聖隷三方原病院嚥下チーム “嚥下障害ポケットマニュアル”: 59-122 医歯薬出版株式会社, 2003
- 監修 才藤 栄一 上田耕一郎 “摂食・嚥下リハビリテーシヨン 第3版 医歯薬出版株式会社, 2016


