
咽頭期における嚥下障害への間接的なアプローチは、誤嚥のリスクがないという点で有用だが、その適応や方法、リスク管理を踏まえて安全に実施する必要がある。ここでは、チューブ嚥下訓練、バルーン法の意義や実施方法について解説する。

説明
チューブ嚥下訓練とは、繰り返しチューブを嚥下することにより、嚥下反射の惹起性を改善させ、喉頭挙上のスピードおよび挙上距離を改善させる。また、舌による送りこみ運動、嚥下運動の協調性を改善する効果も期待できる。対象は、嚥下反射の惹起性、嚥下運動の協調性に問題のある場合。誤嚥のリスクが高く、直接訓練が困難な場合。催吐反射や咳反射が強い場合は実施困難である。

説明
12~16Fr程度のフィーディングチューブを経口的に挿入する。gagがあって経口的にできないときは経鼻的に行うこともあるが、その場合は12Frの細めのチューブを使用する。先端が食道入口部を過ぎて20cmほど挿入したところで、チューブの先端が食道入口部から咽頭腔へ逸脱しない程度で嚥下動作に同期させながらチューブの出し入れを行う。また、口腔期の送り込みを目的とした場合には、チューブを舌上に置き、舌で咽頭へ送り込んで嚥下させる。導入時には訓練者が用手的に挿入し徐々に自力で嚥下できるようにする。

説明
口腔から挿入するときにgagが強い場合は、舌でチューブをなめることから開始し、徐々に刺激に慣らす。どうしても困難な場合は無理に実施しない。導入時には、VFやVEで安全に食道へ挿入可能かどうかを確認し、カテーテル先端が食道入口部に達する長さを口角付近にしるしをつけておくとベッドサイドで実施しやすくなる。間欠的経管栄養法、バルーン法でも同じ効果がある。

説明
バルーン拡張法(=バルーン法)とは、バルーンカテーテルを用いて食道入口部(上部食道括約筋upper esophageal sphincter:UES)を機械的に拡張し、食塊の咽頭通過を改善する手技である。 対象としては、球麻痺や輪状咽頭嚥下障害など食道入口部開大不全のある症例に用いられる。

説明
バルーン法の適応については、初回のVF(=嚥下造影)で症例ごとに判断する。球麻痺の急性期の場合は、めまいや嘔吐などの初期症状が落ち着いてから実施する。局所の炎症所見がない、腫瘍など外部からの圧迫所見がない、全身状態が良好であることを前提条件として、 ①食道入口部の通過障害があること。②代償法で改善が得られないこと。③バルーン法の実施に耐えられることとする。

説明
VFで、食道入口部の開大不全や咽頭収縮の低下、喉頭挙上不全、嚥下反射惹起不全などの咽頭期障害の症状を同定する。特に梨状窩への食物残留や咽頭通過側についても観察する。また、嚥下内視鏡で唾液の貯留がみられたり、声帯や披裂部の動き、咽頭収縮についての左右差などは内視鏡で確認する。咽頭残留や咽頭通過の左右差がある場合には、代償法が効く場合があるため、横向き嚥下や一側嚥下で通過側に食物を誘導し、咽頭通過改善の有無をみる。それでも十分な効果が得られない場合に、バルーン法を実施し、その効果や実施に耐えられるかを評価する。その際は、迷走神経反射によるショックや咽頭の組織損傷のリスクもあるため、初回は医師が行うか、その立ち会いのもとで実施する。

説明
姿勢は挿入が可能であれば座位でも構わないが、30度~60度リクライニング位で頸部がリラックスした状態の方が挿入しやすい。頸部はやや前屈位とし、サチュレーションモニターで血中酸素飽和度を測定、呼吸状態に留意する。痰や唾液が口腔や咽頭に貯留している場合は自己喀出もしくは吸引する。チューブ挿入前に、アイスマッサージ刺激で、口腔内を湿潤させ空嚥下を促す。カテーテルは氷水で濡らし滑りを良くしておく。

説明
左咽頭へ挿入する場合は、顔を右に向けて、カテーテルを右口角から左咽頭を狙って斜め下方向に挿入する。16~18cmほど進めて先端が食道入口部に達し先当たりしたら、カテーテルを軽く押しながら嚥下してもらいカテーテルを食道内へ進める。発声が可能であれば、声を出すことで食道に挿入されたかどうかを確認可能である。

説明
球状バルーンによる間欠的拡張法は、食道までカテーテルの先端を挿入(約25cm)後、シリンジで約5cc空気を入れて拡張し、抵抗があるまでカテーテルを引き抜く(輪状咽頭筋部下端に位置する)。その後、一度シリンジの空気を抜いて、カテーテルを数mm引き抜き、再度空気を入れて抵抗があるまでゆっくり輪状咽頭筋部を拡張する。20秒ほど拡張した後、空気を抜いて、再度カテーテルを5mm引き抜く。それを、チューブが抜けるまで行う。

説明
この手技では、バルーンの径を調節可能であり、食道入口部も時間をかけて拡張できる。ただし、バルーンが球状で位置がずれやすいため、手技に慣れが必要である。カテーテルに目盛りをいれておくと位置ずれしにくい 。特に抵抗の強い部分について時間をかけて拡張する

説明
球状バルーンによる嚥下同期引き抜き法・単純引き抜き法では、カテーテルを食道内へ挿入後、バルーンを4~5cc拡張し、嚥下と同時に引き抜く。引き抜く引際に、カテーテルは通したい方向に引き、頸部はそれとは逆方向に回旋する。単純引き抜き法とは、嚥下と同期させることが困難な場合に、バルーンをそのまま引き抜く方法を指す。
この手技は、簡便で患者自身が行い易く、手の機能低下が軽度であれば自力で実施可能である。喉頭挙上を助ける効果や喉頭挙上と食道入口部開大のタイミングを合わせる訓練にもなる。ただし、一回の拡張時間が短く効果を出すには回数行う必要がある。また、継続して実施する場合は、やや抵抗がある状態を保てるよう、適宜拡張する空気量を確認する。

説明
球状バルーンによるバルーン嚥下法では、挿入前に3~4ccの空気でバルーンを拡張しておく。カテーテルを口腔から挿入して、つかえたところで軽くカテーテルを押しながら嚥下する。この手技は、誤嚥の危険がなく飲み込む訓練ができるが、ある程度訓練が進みバルーン拡張が可能になってからでないと実施は難しい。

説明
筒状バルーン(ダブルバルーン14Fr、16Fr)による持続拡張法の手技は、まずカテーテルを食道内まで挿入し、VFでバルーンの位置を確認した後、内層(固定用)バルーンに空気を2−3ml程度注入して膨らませ、狭窄部(食道入口部)まで引き上げる。バルーンは、食道入口部開大不全では同部でアンカーされる。次に外層(拡張用)バルーンに10−20mlの空気を注入して狭窄部を拡張する。輪状咽頭筋部の静止圧が高く、球状バルーンでは位置ずれしやすい症例や外の方法では効果が不十分な症例に用いることが多い。持続的に拡張でき、位置ずれしにくいが、球状バルーンに比して高価である。

説明
バルーン法のプログラムとしては、原則として、1日3回、1回約20分実施する。食前もしくはIOCによる注入前に実施すると効果的である(食物の咽頭通過やチューブの挿入が容易となるため)。手技選択については、間欠的拡張法と引き抜き法はほぼ全例に行い、嚥下法と持続拡張法は症例に応じて実施する。球状バルーンに注入する空気の量は、開始時は4ml(直径約1.5cm)からはじめて徐々に量を増やし、最高10ml(直径2.3cm)程度とする。通過障害の強い側を重点的に拡張するが、訓練としては左右両側の輪状咽頭筋部について実施する。バルーン法開始後しばらくは医師、言語聴覚士、看護師が行い、徐々に 本人、家族や介護者へ指導する。バルーン法の終了については咽頭通過の改善に合わせて検討する。

参考文献
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- 北條京子,藤島一郎,大熊るり,小島千枝子,武原格,柴本勇,田中里美:輪状咽頭嚥下障害に対するバルーンカテーテル訓練法-4種類のバルーン法と臨床成績.日摂食嚥下リハ会誌,1:45-56,1997.
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- 小野木啓子・他:嚥下障害に対するバルーン法の即時効果Jpn J Compr Rehabil Sci Vol 5:93-96,2014


