54.体位・頭頚部姿勢の調整

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教育目標

  • 直接訓練で用いる姿勢調整法の意義を理解する
  • 代表的な体位・頚部姿勢調整の方法と効果を理解する
  • 体位・頭頚部姿勢調整の注意点を知る
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体位・頭頚部姿勢調整1)

食物が口腔、咽頭を通過する際は、常に重力の影響を強く受け、高低の差があれば低い方に流れ、口腔や咽頭に角度がつけばゆっくりと流れる。これを利用し、通過速度を調整することで、誤嚥や咽頭残留の防止を図る。また姿勢を調整することで、空間を狭くしたり広くしたり空間を操作できる。これを利用して食物を口腔・咽頭の機能の良い側へ誘導し、誤嚥や咽頭残留の防止を図る。苦痛が少なく、複雑な手続きを要しないため、認知機能に障害がある場合にも比較的容易に実施可能であるという利点があり、かつ効果が高い。

しかし、適応を誤り不適切な方法を用いると嚥下状態を悪化させる危険あるため、十分な評価を行った上で、個々の患者に最も適した方法を用いることが大切である。

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代表的な体位・頚部姿勢調整法

様々な体位・頚部姿勢調整法が紹介されているが、ここでは代表的なものを紹介する。

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体幹角度調整(リクライニング位)

主な対象者:対象となる患者は多く、誤嚥がある場合には一度は試す価値のある方法である。一般に、摂食・嚥下障害が重度なほど、30°程度の低い角度の方が誤嚥が少ないが2、 3)、咽頭や背部の構造的個人差や病変、その他様々な要因によって適した角度が異なるため、個別に十分評価を行って適切な角度を設定する。

方法:ギャッジアップ可能なベッドまたはリクライニング車いすを用い、体幹を後方へ倒す。このとき、体幹および頚部がリラックスでき、また体がずり落ちて姿勢が崩れないように股関節および膝関節が軽度に屈曲させること、頭頚部が過伸展しないように枕で調整すること、背部が背もたれに接し左右へ傾いていないことが大切である。

注意点:口腔内の送り込みを助ける作用があるが、水分は素早く咽頭まで落ちてしまい、かえって誤嚥を招くことがある。

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リクライニング位と座位の利点・欠点

リクライニング位と座位の利点・欠点を表に示した。姿勢選択の参考にされたい。

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体幹側傾・側臥位3)

側傾よりも側臥位の方が、食塊を一側へ集める効果は高いが、患側を下にすることもあり、その場合は痛みや疲労の原因になりやすい。クッション等を用いることや、手や足の位置に十分配慮が必要である。

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体幹側傾・側臥位

主な対象者:多くの場合、食塊は咽頭の非麻痺側を通過しやすいが、麻痺側を通過しやすい場合もある。 VF検査正面像で食塊が通過しやすい側を確認することが望ましい。

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頭部回旋法(Head rotation、 横向き嚥下)

頚部回旋法の意義:頚部を回旋することで、非回旋側の咽頭腔が広くなり、食道入口部の圧が低くなることが報告されている4-5)

方法:咽頭残留の防止、食道入口部の通過改善を目的とする場合には、あらかじめ咽頭機能の悪い側に頭部をひねり(回旋し)、嚥下する。咽頭残留を除去する目的で行う場合には、嚥下後に残留のある側と反対側に回旋させて嚥下する。

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Chin down(頭部屈曲位、頚部屈曲位、複合屈曲位)6)

Chin downは頭部屈曲位、頚部屈曲位、複合屈曲(頭部屈曲+頚部屈曲)、頚部屈曲頭部伸展位等いくつかの肢位の総称であり、それぞれ効果が異なる7)。そのため、患者の病態を十分の評価し使い分けが必要である。VF等で効果を確認し適した肢位を用いることが望ましい。

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Chin down(頭部屈曲位、頚部屈曲位、複合屈曲位)

主な対象者:頭部屈曲位では、中咽頭が狭まるため、咽頭収縮が低下し咽頭残留がある場合に適している。頚部屈曲位と複合屈曲位では、逆に咽頭腔が広がる傾向があるため、頚部の緊張が高い場合、嚥下前誤嚥が生じる場合に適している。部屈曲頭部伸展位(頚部前屈突出位)3)では、食道入口部の圧を減じる傾向があるため、嚥下前誤嚥が生じる場合、食道入口部通過が不良の場合が良い適応である。

方法
頭部屈曲位:二重顎になるように上位頚椎のみを屈曲させる。
頚部屈曲位:下を向くように下位頚椎を屈曲させる。
複合屈曲位:頭部と頚部を同時に屈曲させる。
頚部屈曲頭部伸展位:顎を突き出すように頭部を伸展させ、頚部は屈曲させる。

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頭頚部伸展位5)

主な対象者:頭頚部伸展位は、口腔期には有効であるが咽頭期では誤嚥を増悪させるリスクが高いため、対象は比較的限定される。舌癌術後や舌に重度運動麻痺がある患者のうち、認知機能が保たれており、送り込みの間息止めが可能で、かつ嚥下の歳に頚部を正中に戻すことが可能な場合のみが適応となる。

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リクライニング位+頭部回旋8)

リクライニング位+頭部回旋の意義
リクライニング位のみでは誤嚥防止効果が不十分な場合、頭部回旋を組み合わせて食塊を非麻痺側に集め嚥下することで、咽頭残留、誤嚥を防止する。

方法

  • リクライニングの角度が45°以下の場合、頭部回旋をすることで回旋側(麻痺側)が低くなり食物が麻痺側へ誘導されてしまう。これにより、誤嚥を増悪させる場合がある。
  • リクライニング位と頭部回旋を組み合わせる場合には、頭部ではなく体幹回旋と組み合わせ、健側に体幹を回旋し、頭部は正中にして、食塊が麻痺側へ流れるのを防止するとよい。
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基本的な姿勢

通常、我々は座位で食事を摂取する。この姿勢が食事の際の最も基本的な姿勢である。嚥下機能の改善にともなって徐々に姿勢調整法を廃し、座位に近づけていく。姿勢の異常は誤嚥や咽頭残留を増悪させるため、座面の高さや骨盤の角度等に留意をして安定した姿勢をつくる。

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姿勢調整のポイントと椅子

姿勢調整は、個々の患者の状態に応じて、誤嚥を防ぐことができる最も安全な姿勢を評価すること、評価で推奨された姿勢調整を実際に練習や食事場面で正確に反映させることがポイントとなる。Swallow Chair(東名ブレース)は、姿勢調整にみられる作業の複雑性や煩雑性や疲労や不快感の問題を解決するために作成され、検査・練習・食事場面で一貫して使用でき、短時間に簡単に快適な姿勢調整を実現できる9)

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参考文献

  1. 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会: 訓練法のまとめ. 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会誌 13: 31-49, 2009.
  2. 才藤栄一, 木村彰男, 矢守茂: 嚥下障害のリハビリテーションにおけるvideofluorographyの応用. リハビリテーション医学 23: 121-124, 1986.
  3. 藤島一郎: 摂食・嚥下障害のリハビリテーションアプローチ. 脳卒中の摂食・嚥下障害, 2 ed. 東京: 医歯薬出版, 1993, pp 87-135.
  4. 唐帆健浩, 大前由紀雄, 田部哲也: 頸部回旋による咽頭の形態的変化及び嚥下機能の変化. 日本気管食道科学会会報 48: 242-248, 1997.
  5. Nakayama E, Kagaya H, Saitoh E et al: Changes in pyriform sinus morphology in the head rotated position as assessed by 320-row area detector CT. Dysphagia 28: 199-204, 2013
  6. Logemann JA: Evaluation and treatment of swallowing disorders, 2nd ed. Austin, Tex.: PRO-ED, Inc., 1998.
  7. Okada S, Saitoh E, Palmer JB, et al: What is the “Chin down” posture? - A questionnaire survey of speech language pathologists in Japan and the United States-. Dysphagia 22: 204-209, 2007.
  8. 太田喜夫, 才藤栄一, 松尾浩一郎: 体位効果の組み合わせにおける注意 頸部回旋がリクライニング姿勢時の食塊の咽頭内通過経路に与える影響について. 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 6: 64-67, 2002.
  9. Inamoto Y, Saitoh S, Shibata S et al.: Effectiveness and applicability of a specialized evaluation exercise – chair in posture adjustment for swallowing. Jpn J Compr Rehabil Sci 5: 33-39, 2014
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