

説明
食事場面の直接訓練には食具の選択と使用法が重要なポイントとなる。この際の視点として、食具は①残存機能を有効に活用し損なわれた機能を補うための代償的摂食法を行うためのツールである。②損なわれた機能を鍛える機能訓練のためのツールである。

説明
嚥下障害患者にとって適切なスプーンとは
- 取り込み時に口唇が閉じやすい
- 食物を舌背や奥舌にきちんと置きやすい
- 一口量が多すぎない
- 押しつぶしや送り込みにスムーズに移行できる
というものであり、すなわちそれは、掬う部分が小さくて、平たくて、薄いという形状で、さらに自力摂取や食事介助しやすいものとしては柄の持ちやすい形状という条件が加わる。それらを満たすものとして嚥下K-スプーン®が開発された。嚥下K-スプーンは柄の先端にK-pointを触るための端子を備えつけたものだがこのカーブが持ちやすさにもつながっている。自力摂取する際の食具の工夫は別の項にゆずる。

説明
ここからは嚥下の各期の障害に応じた直接訓練の工夫について述べていく。
1.先行期の障害
<スプーンを手渡す方法、スプーンを持った手を介助する方法>
介助で入れられた食べ物をそのまま口にため込んで行動が止まってしまい、送り込みや嚥下に移行することが困難なことがある。嚥下失行も同様な症状を呈するが、嚥下失行は「飲も込もうとしてもどう飲み込んだらいいのかわからない」という明確な意図があるときとすべきである。認知障害による場合は、介助で口に入れるよりも、食物をすくったらスプーンを手渡し自分で口に入れるよう促す方法が有効である。スプーンを持たせても口に運ぼうとしない時はスプーンを持った手を支えて口に入れるような介助が有効である。この作用機序としては、習熟動作を用いることにより認知機能が高まり、スムーズな摂食行動を促すと考えられる。この時、図のようにスプーンがまっすぐ口に入るような持たせ方にすると、食物は舌背にきちんと置かれ、その後の嚥下までがスムーズに行われる。柄の長いスプーンを使えば、介助者は柄の先端を持って口に入れる介助をすることができる。また次々口に運んで安全なペースが守られなかったり、口にためて何口かを一気に飲み込むために嚥下時の食塊量が多くなるようなときは、2本のスプーンを使い口の中の食物を飲み込んでから次のスプーンを渡すようにするとペースを守ることができる。

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ここからは嚥下の各期の障害に応じた直接訓練の工夫について述べていく。
1.先行期の障害
<スプーンを手渡す方法、スプーンを持った手を介助する方法>
介助で入れられた食べ物をそのまま口にため込んで行動が止まってしまい、送り込みや嚥下に移行することが困難なことがある。嚥下失行も同様な症状を呈するが、嚥下失行は「飲も込もうとしてもどう飲み込んだらいいのかわからない」という明確な意図があるときとすべきである。認知障害による場合は、介助で口に入れるよりも、食物をすくったらスプーンを手渡し自分で口に入れるよう促す方法が有効である。スプーンを持たせても口に運ぼうとしない時はスプーンを持った手を支えて口に入れるような介助が有効である。この作用機序としては、習熟動作を用いることにより認知機能が高まり、スムーズな摂食行動を促すと考えられる。この時、図のようにスプーンがまっすぐ口に入るような持たせ方にすると、食物は舌背にきちんと置かれ、その後の嚥下までがスムーズに行われる。柄の長いスプーンを使えば、介助者は柄の先端を持って口に入れる介助をすることができる。また次々口に運んで安全なペースが守られなかったり、口にためて何口かを一気に飲み込むために嚥下時の食塊量が多くなるようなときは、2本のスプーンを使い口の中の食物を飲み込んでから次のスプーンを渡すようにするとペースを守ることができる。

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<赤ちゃんせんべいを用いる方法>
認知が不良で、食べ物をそのまま口にため込んで行動が止まってしまうが、咽頭期の障害は比較的軽度な症例に対して赤ちゃんせんべいを一かけら口唇にはさんで取り込ませると、赤ちゃんせんべいを口腔内にたぐり寄せ咀嚼する運動によりため込んでいた食塊が咽頭へ送られ、嚥下反射誘発部位に達するとためていた食塊はせんべいとともに嚥下される。赤ちゃんせんべいを利用する理由は、万が一咀嚼と嚥下がなされない場合も泥状物に変わり安全だからで、同じ食感をもつものであれば他の物でもよい。

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2)口への取り込み障害に対して
<咬反射による開口障害への対応…K-point刺激法>
両側の皮質延髄路の損傷の結果起こる仮性球麻痺患者で、あくびの時は口を開くことができるが(顎関節の問題はない)摂食時にスプーンや食べ物が口に触れると反射的に噛みこんでしまうような咬反射による開口障害に対して 、手袋をはめた指またはKスプーンを頬と歯列の間に挿入し、臼歯の後ろ側からK-pointを軽く圧迫刺激すると反射的に開口が促され、刺激を外すと咀嚼様運動に続き嚥下反射が誘発される。 K-pointの部位は図に示す通りである。指を挿入する場合は爪の部分がK-pointにあたる。咀嚼様運動とは、舌の臼歯上への送り込みや下顎の回旋運動を伴う咀嚼運動とは違い、下顎の上下運動を主体とする自動運動であるので、この手技で食べさせるものは丸のみ可能な食物であることに注意。

説明
<口唇を閉じない人への対応>
①麻痺のため下顎の挙上と口唇閉鎖が困難な人に、取り込み時に下顎の固定と口唇閉鎖を介助する。 取り込んだ後嚥下するまでこの介助を外さない方が口腔内圧を高めたまま嚥下に移行することができる。嚥下は下顎を介助している指で感じることができる。
②随意的な口唇閉鎖が困難な人で口唇に軽く触れたときに吸啜反射が起こる場合は、これを利用して口唇閉鎖を促す方法。食べ物を口腔内に入れたときにスプーンのへこみ部分で上口唇を刺激し、吸啜反射で口唇が閉鎖されるタイミングでスプーンを抜くと送りこみから嚥下にスムーズに移行することができる。

説明
2.準備期・口腔期の障害
1)咀嚼と食塊形成の障害に対して
スライスゼリーの丸のみ法:ゼリーを砕かず丸のみすることにより食塊形成を補い、スライス型に切り取ることにより、咽頭を通過しやすく、梨状窩にもフィットしてとどまりやすくなる。この結果、タイミングのずれや嚥下反射の遅れによる残留や誤嚥を防ぐ。薄いスプーンでゼリーに割面を入れ、そこから2~3mm向こうにスプーンを入れて手前に引くとスライス型のゼリーが切り取られる。「噛まずにそのまま丸のみしてください」と指示する。

説明
2)咽頭への送り込み障害に対して
食べ物を咽頭に送り込むことの障害に対し、上を向いて口を開けたまま落とし込むと直接咽頭に落ち、喉頭挙上や咽頭内圧が高まらず、誤嚥が起こりやすくなる。
方法:①薄くて浅いスプーンを用いて、スプーンを舌背に置いたら口唇を閉じ、舌でスプーンを口蓋に押し付けるように促し上に向かってスプーンを抜く。こうすることで食物は舌背の上にきちんと置かれ、口腔内圧を高めたまま送り込み嚥下につなげることができる。 スプーンを上から入れたり横から入れたりすると食物は舌尖や口腔前庭に落ち、スムースに送りこみに移行することができない。
②食べ物を奥舌に入れる方法…小さくて浅い形状のスプーンを用いて口腔内に挿入しスプーンをひっくり返して奥舌に食べ物を置く。乾いたスプーンは食べ物がくっついて奥舌に入れにくいので、一さじごとに濡らしてから食べ物をすくうとスプーンから離れやすくなる。咽頭に直接食べ物を落としこまないように注意する。

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2)咽頭への送り込み障害に対して
食べ物を咽頭に送り込むことの障害に対し、上を向いて口を開けたまま落とし込むと直接咽頭に落ち、喉頭挙上や咽頭内圧が高まらず、誤嚥が起こりやすくなる。
方法:①薄くて浅いスプーンを用いて、スプーンを舌背に置いたら口唇を閉じ、舌でスプーンを口蓋に押し付けるように促し上に向かってスプーンを抜く。こうすることで食物は舌背の上にきちんと置かれ、口腔内圧を高めたまま送り込み嚥下につなげることができる。 スプーンを上から入れたり横から入れたりすると食物は舌尖や口腔前庭に落ち、スムースに送りこみに移行することができない。
②食べ物を奥舌に入れる方法…小さくて浅い形状のスプーンを用いて口腔内に挿入しスプーンをひっくり返して奥舌に食べ物を置く。乾いたスプーンは食べ物がくっついて奥舌に入れにくいので、一さじごとに濡らしてから食べ物をすくうとスプーンから離れやすくなる。咽頭に直接食べ物を落としこまないように注意する。

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3.咽頭期の障害に対して
1)嚥下反射誘発法
①K-point刺激法(嚥下反射誘発法の項目参照)
②タイミングのずれに対して
食塊形成や咽頭への送り込みが悪く、食べ物がだらだらと咽頭に送り込まれ梨状窩に達しても嚥下反射が起こらないなどのタイミングのずれがあり、嚥下前、嚥下中の誤嚥が起こるとき。
方法:小さくて浅いスプーンを用いて、奥舌に食べ物を置いたらK-pointを刺激して素早くスプーンを抜くと、嚥下反射が誘発されて嚥下のタイミングが改善される。

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<リクライニング位で自力摂取するときの工夫>
体幹角度をリクライニング位にして自力摂取する場合、食器の中身が見えにくく、食べ物をすくってから口に入れるまでにこぼしやすい。
方法:テーブルの上に三角マットを置き、その上にお盆を置いて傾斜をつける。また雑誌を折りたたんで用いるという方法もある。その際、滑り止めマットをお盆の上下に敷いてお盆や食器が滑り落ちないようにする。柄の長いスプーンを使うとリクライニング位でも食器に届きやすくなる。
<自力摂取でゼリーをすくう時の工夫>
あらかじめゼリーをサイの目に切りこみを入れておくと、スプーンですくったときに一口量が多くならない。スライス型のゼリーと区別して用いる。

参考文献
- 聖隷三方原病院嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル,第2版.医歯薬出版,2003.
- 藤島一郎(編著):よくわかる嚥下障害. 改訂第2版、永井書店,大阪,2005.
- 才藤栄一、向井美恵(監修):摂食・嚥下リハビリテーション 第2版,医歯薬出版,2007.
- Kojima C, etal : Jaw Opening and Swallow Triggering Method for Bilateral-Brain-Damaged Patients:K-Point Stimulation,Dysphagia17:273-277,2002.
- 藤島一郎 編著:ナースのための摂食・嚥下障害ガイドブック,中央法規出版,2005.
- 小島千枝子:食事介助でナースの“行いたいこと”,エキスパートナース3:43-49,2008.
推薦図書
- 聖隷三方原病院嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル,第2版.医歯薬出版,2003.
- 才藤栄一、向井美恵(監修):摂食・嚥下リハビリテーション 第2版,医歯薬出版,2007.


