
説明
食事介助とは、自力で安全に食事ができない人に対してそれを助けることであり、食事を通してQOL向上を支援していくことである。摂食嚥下障害者の食事介助は、障害された機能の促通や代償を踏まえたリハビリテーションの機能を包括する。摂食嚥下障害者は、その背景に運動麻痺・感覚障害・認知機能障害・呼吸障害・消化器障害など多岐にわたる障害を合併している場合が多く、食事介助を行う者は、誤嚥性肺炎、脱水、低栄養、窒息、QOL低下などのリスク管理を行いながら進めていく。また、対象者の自立を支援し、満足感や幸福感が得られるような介助に留意する。介助者は医療職・介護職・家族など多岐にわたるが、医療職による安全性が見定められた上で、経口栄養のみで食事摂取できる状況下で介護職や家族の介助へと拡大し、円滑に協働していく。本コースでは、捕食から嚥下までの障害に応じた代償法や自立支援を踏まえた食事介助について解説する。

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食事介助に関連した援助の要素
1)安全で食欲を増す食事環境の整備
①摂食嚥下機能や個別に応じた場所の選定を行う(訓練レベルなどの特別な場合を除いてできるだけ離床をした状態での食事環境を設定する)。
②食前の排泄をすませ、口腔・咽頭、手、顔などのケアを行う。
③患者と介助者双方がリラックスできる温かな雰囲気での食事場面に留意する。
④静かな環境とし、テレビやラジオを消して食事に集中できるようにする。人の出入りや騒音の多い環境は避ける。
⑤摂食中の会話は慎重にし、口の中に食べ物が入っている時は不用意に話しかけないようにする(口唇や声門が開いて呼吸と嚥下の協調性を乱し誤嚥のリスクが高まる)。
⑥緊急時に備え、必要に応じて吸引器、カテーテル、グローブ、動脈血酸素飽和度測定器の準備を行う。

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食事介助に関連した援助の要素
2)食事介助法の留意点
①覚醒を促し視覚・嗅覚・触覚・味覚などの脳機能の活性化を図る
②心身のリラクゼーション、頭頸部の安定、口腔周囲のマッサージ、ストレッチなどの嚥下体操や間接訓練を併用する
③QOL向上を意図した安全な姿勢、食事内容、介助方法に留意する
④エプロンやタオル類は、嚥下反射が観察できるよう喉頭周囲を開け、首全体を覆わない
⑤両上肢の安定をはかる。自力摂取の場合は、肘とテーブルを同じ高さとし、スプーンホールが口腔内に入ったときに、肘が浮かないように高さ調整する。エプロン類から両手を出し、できるだけ肘からテーブルにのせ、操作性が高まるような体勢にする
⑥食膳全体が見え、介助者の行為も患者の視覚情報に入るような配置とする
⑦頸部前屈位で摂食できるような介助者の位置に留意する(介助者が立位で患者の目線より高いと、頸部が伸展位となりやすい)
⑧斜め下正面から捕食介助し、逆手介助にならないようにする(右側から介助する場合は右手を使用し、左側から介助する場合は左手を使用する)。
⑨代償法で横向き嚥下をしている場合、一側の口唇の運動麻痺が重度な場合、高次脳機能障害による半側空間性障害などは、個別に応じた対応をする
⑩セルフケア拡大を意図した介助とする
⑪食後の口腔ケアを必ず行う
⑫食後の体位は、胃食道逆流や嘔吐による誤嚥を予防するために、ベッドでフラットな状態にせず、1時間程度は座位もしくは45度以上のリクライニング姿勢を保つ

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先行期では認知、姿勢、動作、摂食用具などが要素となる。摂食環境調における認知機能低下への配慮として、視覚・嗅覚・聴覚・触覚・味覚情報など五感を適切に提供し、認知機能を高める環境調整を行う。また、頭頸部・体幹・上肢・下肢・足底などの安定した姿勢や摂食角度調整なども重要である。なお、水平位に近くなるほど、頭頸部の緊張が高まり、舌根沈下による呼吸障害、咽頭への早期流入などを引き起こす可能性もあるため、水分の量や性状、食事形態には十分注意する。自力で摂食する場合は、安全性に留意したテーブルや摂食用具を選定する。右側からの介助は右手、左側からは左手とし、安全で安楽な捕食のために逆手介助を避ける。

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口唇での捕食が困難な場合(その1)口唇での捕食が困難な場合の介助法として、①スプーンは、小さめで、スプーンホールが浅く、全体が舌の中央に入るようなサイズのものを用いる。大スプーンでは、捕食の際に啜ってしまい吸気と嚥下のタイミングを損ない、むせを引き起こしやすい。また、捕食時のこぼれを防ごうとしてさらなる吸気による捕食を招く。②認知機能低下による口唇の開口が不良な場合は、言語や視覚で誘導し、食べ物が入ったスプーンを下口唇に軽く触れ、開口を待つ、人差し指を軽くあて下顎を下げる開口のアシストをするなどの対応がある。③スプーンを撥ね退けようとするような口唇での筋緊張が強い場合は、スプーンを上下口唇の間に軽く入れ、強い抵抗を与えないで、口唇の緊張が緩むのをまってスプーンを口腔内に進めていく。
口唇閉鎖が困難な場合は、捕食後すぐに介助者の指を軽く口角に当て、口輪筋の走行にそって引き上げるなどの用手的なアシストによる捕食も有効である。口唇閉鎖が適切にアシストされることで、嚥下圧が高まり、嚥下反射が誘導されやすい。④一口量の適正化を図ることも安全上留意する。一口量が多すぎることで、口唇からこぼれ落ちる原因となり、啜ってしまう、窒息などの問題も発生しやすい、一方少なすぎると、口腔内の知覚や味覚が不足し、送り込みや嚥下運動が遅延する。

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口唇での捕食が困難な場合(その2)は、⑤捕食介助時のスプーンをおく位置として、ゼリーやペースト類の場合は舌の中央、咀嚼品の場合は舌の手前とする。リクライニング30度レベルでの液体は、早期咽頭流入やむせを引き起こしやすいため注意する。⑥スプーンホール全体を口唇で捕食できるように配慮する。その際、「口をしっかり閉じてください」と声をかける。できない場合は、口唇閉鎖を介助者の手でアシストする。⑦スプーンを口腔内から引き出すときは、上口唇に滑らせるようにしてゆっくりとやや上に向けて引き、顎が上がらないように注意する。味噌汁など液体と固体が混在している場合は、捕食の際啜ってしまい、液体のみが早期咽頭流入をきたしやすいため汁と具を別々に介助する。

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準備期(咀嚼や食塊形成)に障害がある場合は、①障害に応じた食品の固さ、形態、粘性などを調整する。特に、ゼリーは、咀嚼運動により口腔内でゼリーが散らばり、咽頭にだらだらと流れ込みやすくなるため、スライス法による丸のみ嚥下とする。「もぐもぐしてください」などの言葉かけをしないよう注意する。②咀嚼が有効にできるような歯や義歯など口腔環境整備に留意する。③咀嚼の意識化を誘導し、「口を閉じてよく噛んでください」と声をかける。④麻痺側からの食べこぼしや、残留物が多い場合は、非麻痺側での咀嚼を誘導する。麻痺側の運動や知覚低下により口腔内も麻痺側に残留しやすいため、残留物を鏡で確認できる場合は、視覚情報で意識化してもらう。⑤徐々に両側での咀嚼ができるよう間接訓練などと組み合わせて機能を高めていく。

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口腔期(送り込み)に障害がある場合は、①水分やゼリーなどの付着性が低く、送り込みや嚥下しやすいものから開始する。食塊形成が不良な場合は、ゼリー類はスライス法を基本とする。②座位での送り込みに時間を要している場合はリクライニング位による重力を利用した姿勢を検討する。③左右どちらかの舌に運動麻痺がある場合は(通常は身体の麻痺側と同側に舌下神経麻痺が生じる)、非麻痺側の舌にスプーンや食べ物をおき、送り込みを助ける。④口唇閉鎖の意識化(身体の麻痺側と同側の顔面神経麻痺が生じやすい)や、他動的な閉鎖の補助、舌をスプーンで軽く舌を押すなどの感覚刺激や運動刺激を与えながら、舌の随意運動を引き出すようなアシストを行う。

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咽頭期(嚥下運動)に障害がある場合(その1)は、①障害の程度に応じた姿勢、食物形態、代償法などを総合的にアセスメントし対応する。水分でむせる場合は0.5~1%程度のトロミ水や、水分のゼリー化を検討する。②むせた場合は、やや前傾姿勢をとらせ、有効な咳ができるようにアシストし、呼吸が落ち着くまで口に飲食物を入れない。③呼吸が落ち着いたら、少量の嚥下しやすいゼリーや液体から再開する。④咽頭残留、むせなどの症状が顕著な場合は、パルスオキシメータや頸部聴診などを併用し観察する。⑤誤嚥の兆候が認められた場合には、医師へ報告し対応を検討する。

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咽頭期(嚥下運動)に障害がある場合(その2)は、⑥捕食前に口腔周囲筋の運動、口腔全体・前口蓋弓への冷圧刺激などの間接訓練と併用しながら個別に応じて対応する。⑦食べ物を舌上においた際に、スプーンで舌への圧刺激などで嚥下反射を誘発する。⑧嚥下反射がなかなかおこらない場合に、徒手的に喉頭周囲筋を動かしたり触ったりしすぎないようにする。痛みや不快感で却って嚥下運動を阻害するため注意する。⑨嚥下反射(喉頭挙上)を確認したら、次の一口をペースよく介助する。⑩口腔内に残留が観察され、咽頭残留も疑われるときは、一口量の調整、嚥下の意識化、複数回嚥下、追加嚥下、交互嚥下、横向き嚥下などの残留除去法を加えた食事介助を行う。

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食道期(食道から胃までの通過)に障害がある場合の対応として①経鼻胃管が留置された状態での長期的経口摂取は、不快な上に、嚥下運動を阻害し、胃食道逆をきたしやすい。使用時はできるだけ内径の小さい胃管とする(斜走に注意)。②嚥下前後のむせや食後の咳などが観察される場合は、食道停滞や通過不良が想定されるため姿勢の角度や食形態に注意する。③消化のよい食事内容とし、胸のつかえ感や逆流感が強い場合は、食物形態の調整を行う。器質的な疾病を併発している場合もあるため医師と相談する。④食後の体位は胃食道逆流を予防するためにも、30分から1時間程度は座位を保持する。特に胃や腸の手術歴がある場合は、逆流による誤嚥性肺炎に注意する。座位が困難な場合は、体幹角度45度以上のリクライニング姿勢を保持できるようにする。その際は同一姿勢による腰痛や褥瘡の発生に留意する。

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摂食嚥下機能障害の代償方法を踏まえた介助として、①スライスゼリー丸のみ法:嚥下しやすいスライス型食塊を作り、そのまま丸呑みすることで咽頭残留や誤嚥を予防する方法である。山型に盛り上がったゼリーに比べ、薄くスライスしたゼリーは口腔・咽頭で崩れにくく、咽頭や食道入口部をスムースに通過する。送り込みが不良な場合は舌根部に入れる。スプーンは小さめで平たいものを利用する。頸部が伸展していると丸ごと誤嚥する可能性があるため、必ず頸部前屈位とする。ゼリー類は崩したりクラッシュしたりしないように注意する。
②複数回嚥下:一口につき複数回嚥下することで咽頭残留を除去し、嚥下後誤嚥を予防する。「もう一回飲み込んでください」と指示する。訓練レベルの場合は、咽頭残留感の有無にかかわらず行う(口腔・咽頭知覚低下の場合は、残留していても本人は残留感がないため注意が必要)。
③追加嚥下:口腔や咽頭に残留があるにもかかわらず、指示に従えずに嚥下運動を起こすことが困難な場合に、少量の液体やゼリー類を捕食介助し嚥下運動を引き起こす方法。
④交互嚥下:嚥下しにくいものと嚥下しやすい食塊が交互に入ることで、咽頭残留の除去に有利に働く。特に粥などの粘性が強い食品や、水分が少ない場合は、付着性の低いゼリーや水分を交互に嚥下すると口腔や咽頭残留がクリアになる。食事の最後はお茶のゼリーや水分で終了するとよい。

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食事動作の構成要素と観察ポイントを理解した上で、セルフケアの拡大による自立支援を図る。食事のプロセスは姿勢、認知、捕食動作、咀嚼、送り込み、嚥下を繰り返す。不足な部分を観察し、補いながらよりQOL向上を勘案し、自立した食事の摂取ができるよう支援する。

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自力摂取への過程を示した。確認事項として、摂食嚥下機能のみではなく、食べる意欲、全身状態、呼吸状態、口腔状態、認知、咀嚼・送り込み、嚥下、姿勢・耐久性、食事動作、活動、摂食状況レベル、食物形態、栄養などを包括的に評価してステップアップや介助と組み合わせる。包括的評価として観察や援助を通して多職種で評価できるKTバランスチャートを活用するとよい。

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リクライニング角度による介助法や自力摂取時の注意点を示した。リクライニング角度が低い場合は基本的に全介助として、咀嚼食は提供しない。摂取角度により介助方法、頭頸部・体幹・上下肢の姿勢、テーブルや食具の適応が異なってくるため、個別に応じた対応に十分留意する。

両手を使用した摂食動作をアシストし、セルフケア能力を高められるよう留意する。片麻痺の場合も麻痺側上肢をテーブルにのせる、食器を支えるなど、両上肢を食事に参加できるようにする。右側から介助する場合は右手使用、左側から介助する場合は左手使用に留意する。食器からすくう、取り出す部分が困難な場合は、介助者の手を添えて捕食部分だけを介助するとよい。手を添える場合は、関節をつかんだり、強く手を握り締めたりしないで、柄の長いスプーンを使用し、指を添える程度とする。必要時、滑り止めマットの活用、自助食器、バネつき箸の使用など個別性に応じた介助と食具を工夫する。なお、疲労度を勘案して、適度な時間で摂取ができるような介助の配分も考慮する。また、必要栄養量を把握した上で、配膳された食事を適量に摂取できるのか、本人の食欲や満足感はどうか、摂取時間の配分など総合的に摂食場面での観察やアセスメントを行う。今後のプランを具体化した上で記録し、情報の共有化を図る。

参考文献
- 小山珠美:口から食べる幸せをサポートする包括的スキル-KTバランスチャートの活用と支援-, p12-94,医学書院,2017.
- 小山珠美・前田圭介;KTバランスチャートエッセンスノート,p2-71,医学書院,2018.
- 才藤栄一,植田耕一郎監修:摂食嚥下リハビリテーション第3版,p286-290,医歯薬出版株式会社,2017.
- 藤島一郎,植田耕一郎,岡田澄子,北住栄二,椿原彰夫,高橋浩二,谷本啓二,馬場尊,堀口利之,依田光正,藤原百合:訓練法のまとめ,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会誌13(1):31-49,2016.


