61.食事時の口腔内装具(義歯、PAP、PLP)

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説明

食事時の口腔内装具として、最も広く用いられているのは義歯である。 PAPは主として口腔癌切除後に舌と口蓋の接触の強化を目的に作られる装具である。その他のものとして、Swallowaidがあげられる。Swallowaidは上顎のみに用いる義歯様の装具で、義歯を長期にわたり使用していない、もしくは下顎義歯が使用不可能な患者に用いられる。これにより嚥下時の上下顎のストップや舌の正常な動きが期待される。

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説明

総義歯は上顎、下顎に歯が一本も残っていない人のための装具である。左の写真は上が上顎の義歯、下が下顎の義歯で表側から見たものである。右の写真はそれぞれを裏側から見たものである。総義歯の形は患者固有の口腔の状況によって異なるため、他人の義歯を使用することはできない。また義歯の形や大きさは患者の義歯と頬や舌などの筋肉とのバランスなどによって決定される。また写真の人工歯の部分にはその人独自の噛み方が与えられている。

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説明

写真左上:義歯を入れていないとき、写真左下:義歯を入れたとき、写真右:上顎、下顎の部分床義歯を表側から見ている。
部分義歯は口の中に歯が多少なりとも残っている人のための装具である。部分義歯では義歯の維持・安定のため残っている歯にさまざまなタイプの留め金(バネ)を工夫している。残っている歯が多ければ、多くの歯にバネをかけることができるので残っている歯への負担は少ないが、写真のように残っている歯が少ない場合、残っている歯にかかる負担をどのように減らすかが装具の設計上重要になる。上顎と下顎の歯の残り方によっては、何でも噛める義歯をつくることは難しいこともある。

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説明

義歯は食事時の口腔内装具として重要な役割を果たす。歯のない人がもし義歯を入れないと、まず食品を咀嚼できないので、摂取可能な食品の種類が少なくなる。また上顎と下顎とで噛みしめることができないため,舌骨の固定が得られず、十分な嚥下圧も得られず、咽頭期嚥下に不利に働く。また上顎と下顎とで噛みしめることができないため,上顎と下顎の間に舌を差し込んで代用しようとするため,舌の運動も非典型的なものになっている。しっかりと食べることのできる義歯を用いれば、口腔機能は維持され、咀嚼による三叉神経を介しての脳への刺激も保たれる。また、食べることのできる義歯はしっかりと会話もでき、準備期・口腔期の確保、脳への感覚入力、審美性の改善における意義も重要である。

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説明

最も重要なことは食べることのできる装具だということである。嚥下機能の評価をする際には義歯の有無ではなく、たとえ義歯があっても食べることのできる義歯かどうかをみることが重要である。義歯が上顎、下顎の土手にしっかりと吸着していて、口を開けたとき、舌や頬を動かしたときに義歯が外れないこと、また食べるときに痛みがないことが不可欠である。

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説明

食事時の口腔内装具として義歯を使用する際に注意すべき事柄をいくつか列挙する。

  1. 他の装具と同じく、慣れるまでに多少の時間がかかり、時に何度かの手直しが必要である。
  2. 義歯を使用する前の口腔の環境作りが大切(義歯を使える口にしてから)
  3. 義歯はいつも清掃してから使うこと、また部分義歯ではバネのかかった歯の清掃が大切
  4. 数年間にわたり,義歯を使用していなかった人が新たに義歯を使うことは難しい。
  5. 急性期では,どの意識レベルから義歯を使用させるかについては明確な基準がない。
  6. 夜間睡眠時に義歯を外した方がいいのか、つけたままでいいのかについては議論がある。
  7. 義歯をつくる歯科医師の技量はさまざまである。
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説明

舌接触口蓋補助床(PAP)は舌の器質的欠損や機能的障害により、食物の送りこみに際して舌が硬口蓋に十分接触しないため、もしくは接触しても十分な接触圧が得られないために、食塊を口腔から咽頭に送り込めない場合に用いる装具である。
写真左上:舌癌のため舌亜全摘術を受け、腹直筋で再建された患者の口腔内。このままでは通常の義歯を入れても舌と硬口蓋は接触しない。
写真右上:仮の義歯の口蓋面に軟性材料を盛り上げ、唾液嚥下、液体嚥下などを行わせ、仮義歯の口蓋面に舌の接触面を印記させる(舌とどの程度接触しているかを記録する)。適切な印記面が得られるまで軟性材料の量を加減する。
写真下:完成したPAP。PAPの後方部では徐々に硬口蓋と移行的になるように作られていることに注意。

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説明

写真左上:口底癌で舌亜全摘、下顎骨区域切除,腹直筋による再建術を受け7年間経過した患者の口腔内写真
写真左下:患者が用いているバネ付きのPAP。
写真右上:PAPを口腔内に装着したところ。
写真右下:嚥下様動作で腹直筋皮弁とPAPの接触を認める。

PAPを用いて舌と口蓋の面接触が得られたとしても、患者さんが本来持っている舌と硬口蓋・軟口蓋との絶妙なコンビネーションを再現できているわけではない。そのため、残存舌を含めた口腔機能訓練を継続しつつ、姿勢法などの代償的手法などをも併用することが重要である。また多くの筋皮弁は経時的に萎縮するが,腹直筋皮弁のように脂肪を多く含む筋皮弁では体重の変動により筋皮弁の容積も変動することに注意が必要である。

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説明

軟口蓋挙上装置(Palatal Lift Prosthesis)は1958 年Gibbons らによって考案されたもので、主として先天性神経筋異常、脳性麻痺、外傷、など種々の原因によって生じた軟口蓋麻痺患者に用いられる。軟口蓋挙上装置の適応は軟口蓋の長さが一定以上あり、咽頭の動きがあり、運動性の低下した鼻咽腔閉鎖機能不全とされている。摂食嚥下リハビリテーションの領域では運動障害性構音障害がみられ、嚥下時に鼻腔への逆流を伴う患者に用いられることが多い。ただし、病態によっては嚥下に不利に働く場合もあるため、慎重な適用が望まれる。

写真上: 本装置は硬口蓋を被う床と連結部、軟口蓋を後上方に挙上するための軟口蓋延長部からなる。
写真左下:軟口蓋挙上装置(PLP)未使用時の軟口蓋の位置。
写真右下:軟口蓋挙上装置(PLP)使用時の軟口蓋の位置。装置により軟口蓋が挙上し、口蓋平面の高さで咽頭後壁と接している。

装置による挙上の目安としては軟口蓋が挙上し、咽頭後壁と接触する部位は軟口蓋中央部であることから、同部を装置で患者の許容範囲内で出きる限り挙上するように図るべきである。また、仰臥位での呼吸苦の確認、鼻息鏡での鼻漏れの確認とともに内視鏡 で正確に挙上されていることを確認することが望ましい。
装着直後には異物感、鼻閉感、嚥下困難などが生じることがあるので、その旨を患者によく説明し、一日数分の装着から開始し、順次装着時間の延長を図る。問題がなければ、通常1ヶ月以内に装着時間が数時間に延長できる。効果が出るまでの装着期間は通常6-12 か月とされている。

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説明

特殊なタイプのPLP

写真上: 塞栓子付き軟口蓋挙上装置
写真左下: 内視鏡所見 安静時
写真右下: 内視鏡所見 嚥下時

塞栓子付き軟口蓋挙上装置では軟口蓋の挙上によって鼻咽腔閉鎖不全面積が狭小化されるため、従来型のスピーチエイドよりバルブを小さくできる。

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推薦図書

  1. 摂食・嚥下リハビリテーション 第2版 才藤栄一、向井美恵監修 医歯薬出版、東京、2007
  2. 摂食・嚥下リハビリテーション 馬場 尊、才藤栄一編、新興出版社、東京、2008
  3. 食べられる口づくり 口腔ケア&義歯 加藤武彦、黒岩恭子、田中五郎編 医歯薬出版、東京、2007
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