
説明
摂食嚥下障害患者に対する栄養管理の主な目的は、栄養状態の維持・改善による誤嚥性肺炎の予防、摂食嚥下リハビリテーションの効果的な推進である。さらに、長期的な視点として、生活機能の維持・改善と、経口摂取によるQOLの維持・向上がある。

説明
個別の患者の状態を踏まえ、栄養管理を効率良く推進するためには、患者の状態や問題点を的確に捉える必要がある。これを達成するのが、栄養スクリーニングと栄養アセスメントである。その後の栄養管理計画立案に重要となる。

説明
栄養スクリーニングは、初期段階の簡易栄養評価である。原則すべての患者に行い、栄養障害のある患者あるいはそのリスク患者の抽出を行う。なお、栄養障害には、低栄養のほか、過栄養、代謝異常も含まれるが、摂食嚥下障害患者の場合、低栄養であることが多い。
栄養スクリーニングで抽出した患者に対し、栄養障害やリスクについて内容と程度を具体的に評価し、その原因を推察するのが栄養アセスメントである。その原因が栄養介入ポイントとなる。複数の情報を統合し、患者の栄養状態や病態を的確に捉え、総合的に評価・判定する。

説明
栄養スクリーニングは、患者や評価者の負担が少なく、簡便で効率的であることが求められる。そのため、体重など身体計測値が利用される。全般的な栄養状態を定量的に評価するに優れた指標であり、現時点での普遍的な評価に適している。これらと併せ、顕在化している栄養障害の所見として、浮腫や筋肉・皮下脂肪量の主観的な評価も取り入れられる。このほか、長期のたんぱく質代謝の指標となる血清アルブミン値や、筋力を反映する機能的指標の握力も用いられることもある。

説明
主要なスクリーニング項目となる身体計測は、麻痺や浮腫などを考慮し、的確に栄養状態を評価できる部位・側を選択する。麻痺により筋肉量の減少、浮腫により体重や下腿周囲長の見かけ上の増加がみられる。経時変化を評価する場合は、計測条件を同一とする。できれば、測定者も同一とすることが望ましい。

説明
それぞれの身体計測値は、体脂肪量や骨格筋量を反映している。体脂肪量はエネルギーの貯蔵状態、骨格筋量はたんぱく質の貯蔵状態を評価することができ、いずれも低栄養状態の際には減少する。
BMIはやせの判定となる18.5kg/m2未満を、一般的に栄養アセスメント対象とする。70歳以上では20kg/m2未満と考える場合もある。体重減少率は、期間に応じ判断する。表に記載のほか、6ヶ月以内であれば5%以上、6ヶ月以上であれば10%以上の減少率の場合も、栄養アセスメント対象と判断する。%TSF、%AMCは、JARD 2001(日本人の新身体計測基準値)で示されている、性別、年齢区分別の基準値に対する割合で評価する。このほか、下腿周囲長で、男性30cm未満、女性29cmを栄養アセスメントの対象と考える場合もある。

説明
食欲、下痢や嘔吐などの消化器症状、栄養補給方法や食事摂取量、摂食嚥下障害の有無などのエネルギー摂取に関わる事項、および身体活動状況、炎症性の疾患の有無などのエネルギー消費に関わる事項は、潜在的な栄養障害や今後の栄養障害リスクを評価することができる。対象患者の特性を踏まえ、両者を評価できるよう評価項目を組合せて行う。

説明
標準化されたツールが複数存在するので、対象患者の年齢層や人数などから評価者にとって簡単なツールを選択すると良い。このほか、血液生化学検査値を用いたCONUT法やGNRIもある。
CONUT法は、血清アルブミン値、末梢血総リンパ球数、総コレステロール値をスコア化し、3つのスコアを積算して求めた値を栄養評価の指標として用いるツールである。医療機関などで、血液生化学検査データが利用可能な場合には、客観的な指標として有用である。
GNRIはGNRIは高齢者を対象としたツールであり、血清アルブミン値、体重、標準体重から算出される値を指標としている。栄養障害に関連した合併症として誤嚥性肺炎や褥瘡などのリスク指標にもなることが知られている。

説明
日本においては、主観的包括的評価(subjective global assessment:SGA)がよく利用される。SGAは患者の記録(病歴)と身体症状に関する評価項目で構成され、これらの評価から主観的包括的に評価し、栄養状態が良好、中等度不良、高度不良の3段階のいずれかに判定する。SGAは広い年齢層に対して有用であり、簡便で再現性にも優れている。また、他の栄養指標との相関も高く、欧米ではガイドラインに採用されている。主観的であるため評価者間のばらつきが出やすいが、訓練による改善が可能である。

説明
中等度および高度の栄養不良が、栄養アセスメント対象となる。

説明
小児においては、身体計測値や血液生化学検査値の評価基準は成人と異なることに留意する。
身体計測値の評価法として、BMIの代わりにKaup指数が用いられる。BMIと同様に、いずれも各年齢区分の標準未満を栄養アセスメントの対象と考える。小児期全体を通しての継続的な評価には、BMIパーセンタイル値やBMI SDスコアを用いることも多い。年齢別の標準的なBMIから評価するもので、日本小児内分泌学会ウェブサイト(http://jspe.umin.jp/medical/taikaku.html) で確認できる。3パーセンタイル未満を栄養アセスメント対象と考えるが、対象によりカットオフ値は検討されたい。

説明
栄養スクリーニングで抽出した患者に対し、栄養障害やリスクについて、内容と程度を具体的に評価し、その原因を推察するのが栄養アセスメントである。複数の情報を統合し、患者の栄養状態や病態を的確に捉え、総合的に評価・判定する。背景因子としての環境要因や心理状態についても情報を収集すると、その後の栄養ケアの立案につなげやすい。

説明
生理的な必要量に対しエネルギー・栄養素の摂取量不足が考えられる場合、表のような徴候がみられる。血液生化学検査値のTTRとalbは内臓タンパク質量の指標であるが、TTRは半減期が1.9日と短いため、半減期の長いalb(21日)よりも、栄養状態の変化を鋭敏にとらえることができる。CRP値や体温が上昇しているときは、炎症反応によるエネルギー消費が亢進するため、相対不足に陥りやすい。ただし、CRPはたんぱく質のため、低栄養状態においては上昇しないこともある。

説明
常食に水分を加えて調整した嚥下調整食にはエネルギー・栄養素が十分に含まれていないことが多い。患者の食事が嚥下調整食の場合は、食事摂取量だけでなく、栄養摂取量も評価する。

説明
摂食嚥下障害患者は脱水をきたしやすい。特に、水分へのとろみ付けが必要な患者は、水分摂取量が減少することが報告されている。血液生化学検査値や尿検査値で、血液や尿の濃縮が確認されれば脱水と考えられる。このほか、皮膚や粘膜の乾燥や皮膚の緊張度の低下は脱水の徴候である。

参考文献
- 山本貴博:栄養スクリーニングと照会,公益社団法人日本栄養士会監修,木戸康博,中村丁次,小松龍史編集:栄養管理プロセス,第一出版,東京,2018,16-23
- 日本栄養アセスメント研究会身体計測基準値検討委員会:日本人の新身体計測基準値 : JARD 2001,栄養-評価と治療,2002年増刊号,19(suppl):1-81,2002.
- Detsky AS, McLaughlin JR, Baker JP, et al: What is subjective global assessment of nutritional status?,JPEN, 11:8-13, 1987.
- 早川 麻理子, 西村 佳代子, 山田 卓也,他:栄養アセスメントツールの対象患者と効果的な活用,静脈経腸栄養,25:13-16,2010.
- 高谷竜三、●川智美:身体計測・身体所見,日本小児栄養消化器肝臓学会編集,小児臨床栄養学,改訂第2版,診断と治療社,東京,2018,96-101.●「執」の下に「火」という漢字
- 石長孝二郎:栄養評価データ,公益社団法人日本栄養士会監修,木戸康博,中村丁次,小松龍史編集:栄養管理プロセス,第一出版,東京,2018,26-27.


