65.リハビリテーション栄養

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説明

リハビリテーション栄養とは、国際生活機能分類(ICF)による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、リハビリテーション栄養診断・ゴール設定を行ったうえで、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・フレイルを改善し、機能・活動・参加、Quality of life(QOL)を最大限高める「リハビリテーションからみた栄養管理」や「栄養からみたリハビリテーション」である。

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説明

国際生活機能分類とは、リハビリテーションの世界でよく使用される、人間の健康状態を系統的、全人的に評価するツールである。健康状態、生活機能と障害、背景因子に分類される。生活機能は心身機能・身体構造、活動、参加の3項目、背景因子は個人因子、環境因子の2項目で構成される。心身機能・身体構造とは、健康状態、疾患、薬剤の結果で生じる生命レベルの心身の機能と構造で、摂食嚥下障害、片麻痺、栄養障害などが含まれる。つまり、摂食嚥下リハビリテーションでは、栄養障害は機能障害の1つであり、栄養評価が必要である。

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説明

リハビリテーションの臨床現場では、低栄養を認めることが多い。急性期病院の入院高齢患者で廃用症候群のリハビリテーション目的にリハビリテーション科に併診のあった方の88%に低栄養を認めた。また、低栄養の場合には、退院時のADLの自立度が低かった。これらより、低栄養がADL低下の一因であり、ADL改善には栄養改善も重要であることが示唆される。

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説明

回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者では、入院中に栄養改善するとFIM効率(ADLの改善度)が高かった。また、入院時エネルギー摂取量とFIM効率にも独立した関連を認めた。これらより、入院中の栄養改善と十分なエネルギー投与が、ADL改善に重要であるといえる。

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説明

リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版が、日本リハビリテーション栄養学会によって発行された。脳血管疾患、大腿骨近位部骨折、成人がん、急性疾患の4疾患で作成された。例えば、脳血管疾患では以下のようなClinical Question(CQ)と推奨がある。

【CQ】
リハを実施されている高齢の脳血管疾患患者に、強化型栄養療法は行うべきか?
【推奨】
リハを実施されている急性期の高齢の脳血管疾患患者において、死亡率・感染の合併症を減らし、QOLを向上する目的に、強化型栄養療法を行うことを弱く推奨する(弱い推奨/エビデンスの確実性 低)

機能訓練と同時に強化型栄養療法を行うことで栄養改善することが、推奨されている。

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説明

質の高いリハビリテーション栄養の実践には、リハビリテーション栄養ケアプロセスというマネジメントサイクルが有用である。リハビリテーション栄養ケアプロセスは、リハビリテーション栄養アセスメント・診断推論、リハビリテーション栄養診断、リハビリテーション栄養ゴール設定、リハビリテーション栄養介入、リハビリテーション栄養モニタリングの5段階で構成される。従来の栄養ケアマネジメントとの違いは、リハビリテーション栄養診断とリハビリテーション栄養ゴール設定という段階の明確化である。

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説明

リハビリテーション栄養診断の栄養障害では、低栄養、過栄養、栄養障害のリスク状態、栄養素の不足状態・過剰状態を診断する。低栄養の原因は飢餓、侵襲、悪液質である。過栄養とは脂肪の異常蓄積であり、原因はエネルギー摂取過剰、エネルギー消費不足、疾患である。低栄養、過栄養のリスク状態とは、現在は低栄養・過栄養ではないが、今後、低栄養・過栄養になる可能性が高い状態である。栄養素の不足状態で、特に栄養素の体内での貯蔵量が減少し、不足状態に伴う欠乏症状を有している場合は、欠乏状態といえる。過栄養は脂肪の過剰状態ともいえる。

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説明

低栄養の診断には、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準が有用であり今後、世界的に普及すると考える。最初に、妥当性が検証された栄養スクリーニングで低栄養のリスクありと判定する。次に、表現型と原因のそれぞれ1つ以上に該当した場合に低栄養と診断する。表現型は、以下の1つ以上に該当した場合である。

 体重減少:6か月で5%以上

 低BMI:18.5未満、ただし 70歳以上は20未満

 筋肉量減少

原因は、以下の1つ以上に該当した場合である。

 食事摂取量減少・吸収不良:50%以下が1週間以上

 炎症:急性炎症か慢性炎症

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説明

リハビリテーション栄養診断のサルコペニアでは、サルコペニアの有無と原因を診断する。サルコペニアの場合には、原因が加齢、活動、栄養、疾患のうちどの要素が大きいかを考える。筋肉量のみ低下があるプレサルコペニアの場合でも、原因が加齢、活動、栄養、疾患のいずれかを考える。また、筋肉量低下がなく筋力and/or身体機能のみ低下している場合もある。この場合にも、原因が加齢、活動、栄養、疾患のいずれかを考える。

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説明

リハビリテーション栄養診断の栄養障害では、栄養素の摂取不足、栄養素の摂取過剰、栄養素摂取不足の予測、栄養素摂取過剰の予測を診断する。栄養素の摂取不足とは、栄養素の不足状態や欠乏状態、欠乏症状の有無に関わらず、現時点で栄養素の必要量に対し摂取不足が認められる状態であり。日本人の食事摂取基準と比較して判断する。栄養素の摂取過剰とは、栄養素の過剰状態の有無に関わらず、現時点で摂取過剰が認められる状態である。一言でいうと食べ過ぎで、日本人の食事摂取基準と比較して判断する。

栄養素摂取不足の予測とは、栄養素の不足状態や欠乏状態、欠乏症状の有無に関わらず、栄養素の摂取不足は現時点でみられないが、医学的状況、生活環境などから今後、栄養素の摂取不足が予測される状態である。

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説明

リハビリテーション栄養ゴール設定では、SMARTなゴール設定が重要である。SMARTとは、Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:重要・切実な、Time-bound:期間が明確の頭文字である。摂食嚥下機能改善や栄養改善では、SMARTなゴール設定とはいえない。摂食嚥下でも栄養管理でもSMARTなゴール設定が重要である。

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説明

攻めの栄養管理とは、体重や筋肉量の増加を意図的に目指した栄養管理である。炎症のないもしくは軽度の炎症しか認めない低栄養による体重減少の場合、1日エネルギー必要量=1日エネルギー消費量+1日エネルギー蓄積量(200~1000kcal)とすれば、栄養改善を期待できる。1日エネルギー蓄積量は、リハビリテーション栄養ゴール設定によって決まる。理論的には7000~7500kcalのエネルギーバランスで、体重が1kg増減する。そのため例えば、1か月で1kgの体重増加というリハビリテーション栄養ゴール設定をした場合、1日エネルギー蓄積量は250kcalとなる。攻めの栄養管理中は、運動療法、特にレジスタンストレーニングの併用が必要である。また、高血糖、脂肪肝、腎障害、脂質異常症、電解質異常のモニタリングが必要である。サルコペニアの摂食嚥下障害では、攻めの栄養管理が嚥下機能改善に重要である。

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説明

最後にリハビリテーション栄養の考え方をまとめると、以下の通りである。低栄養が原因で、摂食嚥下障害やADL制限が結果のことがある。低栄養が原因の摂食嚥下障害の場合、栄養状態を改善せずに機能訓練を行っても十分な機能改善を得られない。栄養管理が不適切な状態で機能訓練を行うと、低栄養やサルコペニアが悪化して、摂食嚥下障害も悪化する可能性がある。低栄養が原因の摂食嚥下障害の場合、栄養改善+機能訓練が必要である、そのため、「栄養ケアなくしてリハビリテーションなし」「栄養はリハビリテーションのバイタルサイン」である。

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参考文献

  1. Wakabayashi H: Rehabilitation nutrition in general and family medicine. J Gen Fam Med, 18:153-154, 2017.
  2. Wakabayashi H, Sashika H: Malnutrition is associated with poor rehabilitation outcome in elderly inpatients with hospital-associated deconditioning a prospective cohort study. J Rehabil Med, 46:277-282, 2014.
  3. Nii M, Maeda K, Wakabayashi H, et al.: Nutritional Improvement and Energy Intake Are Associated with Functional Recovery in Patients after Cerebrovascular Disorders. J Stroke Cerebrovasc Dis, 25: 57-62, 2016.
  4. 田中舞、小坂鎮太郎、西岡心大、他:脳血管疾患患者におけるリハビリテーション栄養診療ガイドライン.リハビリテーション栄養 2: 260-267, 2018.
  5. Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al.: GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition - A consensus report from the global clinical nutrition community. Clin Nutr 2018 doi: 10.1016/j.clnu.2018.08.002.

推奨図書

  1. 日本リハビリテーション栄養学会、若林秀隆:リハビリテーション栄養ポケットマニュアル、医歯薬出版、東京、2018.
  2. 日本リハビリテーション栄養学会編:リハビリテーション栄養第1巻第1号:リハビリテーション栄養2.0―リハ栄養の新たな定義とリハ栄養ケアプロセス、医歯薬出版、東京、2017.
  3. 日本リハビリテーション栄養学会編:リハビリテーション栄養第2巻第2号:セッティング別のリハビリテーション栄養、医歯薬出版、東京、2017.
  4. 若林秀隆、荒木暁子、森みさ子:サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養、医学書院、東京、2017.
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