
説明
経管栄養の適応・種類と特徴・合併症について解説する。なお、具体的な実施方法は、コース69を参照されたい。

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栄養スクリーニング・栄養アセスメントを行い、必要な栄養と水分を算出する。通常の食事からでは必要量の摂取が困難な場合に、栄養サポートが必要となる。摂食方法の工夫、嚥下調整食、栄養ドリンク、栄養ゼリー、アイソトニックゼリー等の使用で経口摂取の拡大を図っても、十分な栄養・水分の摂取が困難な時に、人工的水分・栄養補給法(artificial hydration and nutrition;AHN)の適応となる。AHNの方法には、経腸(経管)栄養と経静脈栄養があるが、経管栄養は、通常の食事と同様に腸管で消化・吸収が行われるため、経静脈栄養より生理的で、代謝上の合併症が少なく、腸管が使える状態のときには経管栄養を第一選択とする。

説明
経管栄養の禁忌は、腸を使ってはいけない疾患や病態がある時で、腸を絶対に使ってはいけない疾患・病態(絶対的禁忌)は、完全腸閉塞、消化管穿孔、汎発性腹膜炎の時である。
次のスライドで解説する腸を使うメリットを生かすため、近年ますます積極的に経管栄養を実施する傾向が高まっており、相対的禁忌とされる病態は縮小される傾向にある。

説明
中心静脈栄養は、必要な水分、エネルギー、タンパク質、ミネラル、ビタミン、微量元素を確実に体内に投与できる利点があるにも関わらず、腸が使える場合は、経管栄養を第一選択とするように推奨されているのには理由がある。まず中心静脈栄養には、長期に続けると、腸管の廃用性萎縮を生じたり、カテーテル敗血症や代謝性の合併症を起こすことが少なくないという問題点が挙げられる。さらに、現在の輸液では、いまだ含まれていない栄養源もあり、決して完全なものではないことが挙げられる。
一方、経管栄養は、腸管を使い続けるため、腸管の構造と機能をよく維持し、免疫能、生体防御機能の維持にも有効である。さらに、中心静脈栄養に比べれば、圧倒的に安価な方法である。

説明
代表的な経管栄養法には、経鼻経管栄養法(NG法)、胃瘻栄養法(経皮内視鏡的胃瘻造設術:PEG)、間欠的経管栄養法(IC法)がある。その他の経管栄養法としては、スライドに示したようなものがあり、特殊な病態に合わせて選択されるときがある。

説明
スライドに代表的な経管栄養法の特徴を表にまとめて示した。
NG法は、手技が普及しており、日本のすべての医療機関で実施可能な方法であるが、経鼻的に挿入され、咽頭を通過するチューブが留置されることに伴う欠点が多数存在する。特に太いチューブが咽頭を左右に交差して留置された場合、嚥下の大きな妨げとなり、嚥下訓練を進めるに当たって大きな障壁となる。また、手技は普及しているが、気管へ誤挿入したまま栄養投与をすると、致死的な合併症の原因となるため、より慎重な挿入後および栄養注入前の確認が必要である。
PEGは、内視鏡手術を必要とするが、比較的簡単な手術で造設が可能なため、急速に普及した方法である。特に経管栄養の必要性が長期に及ぶと予想される時は、PEGが選択されることが多く、長期の安定的な栄養管理を可能にする。欠点は、瘻孔に関連するもの、チューブ交換に関連するものが挙げられ、特に瘻孔ケアは医学的処置、または医学的処置に近いことが多く、介護者がより負担を重く感じやすいものであることに留意する必要がある。
IC法は、栄養を注入するときだけ経口的または経鼻的にチューブを挿入するため、嚥下訓練をチューブフリーで実施できることが最大の利点である。また、チューブを経口的に挿入(嚥下)すること自体が嚥下訓練にもなる。さらに、栄養投与に伴う消化器合併症(嘔吐や下痢)が起きにくく、注入スピードを高められる等、利点の多い方法である。しかし、栄養注入の度にチューブを挿入するため、挿入時に強い違和感や嘔吐反射が起こる例には実施が困難である。またIC法の普及はなかなか進んでおらず、実施可能な医療機関が増えてきていないのが現状である。

説明
代表的な経管栄養法には、NG法、PEG、IC法があるが、明確な選択基準があるわけでなく、症例ごとに総合的に判断して適応を決定しているのが実際である。スライドのアルゴリズムは、米国静脈経腸栄養学会のガイドラインを参考にしたものである。 消化管が利用できる時は、経腸栄養を選択し、予想される期間が長期の場合はPEGを、短期の場合はNG法を推奨している。IC法は予想される期間にかかわらず、実施可能な施設(職員がIC法管理のトレーニングを受けている)であれば、IC法の長所が活かせる例には、積極的に選択してよい。

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スライドに示したような疾患・病態がある場合は、他の方法に切り替えることを考慮すべきである。

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経管栄養による合併症は、栄養チューブに関連した合併症、瘻孔に関連した合併症、消化器症状、代謝上の問題、感染症に分けて考えるとよい。このスライドでは、栄養チューブに関連した合併症をまとめた。NG法、IC法では、気管内への誤挿入。PEGでは腹腔内への誤挿入の危険があるが、いずれでも誤挿入したまま栄養投与すると死に至る危険がある重大事故につながる。
胃食道逆流は、仰臥位で胃へ直接栄養剤を投与すると起こりやすい。
薬剤を粉砕して投与するとチューブの閉塞が起こりやすいため、簡易懸濁法を積極的に利用するとよい。

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瘻孔に関連した合併症をまとめた。瘻孔の創感染、瘻孔周囲の皮膚トラブル、胃粘膜の圧迫壊死、バンパー埋没症候群が挙げられ、注意を要する。
カテーテルを持って軽く引っ張ったり、回転させたりした時に、軽やかに上下に動き、滑らかに回転する程度にしておくことで、バンパー埋没症候群のリスクは軽減できる。

説明
その他の合併症をまとめた。消化器症状としては、経管栄養開始初期の下痢がしばしば問題となる。対策としては、投与速度を落とすことが多いが、注入時間の延長は離床時間短縮につながりやすく、リハビリテーションの妨げになってしまう。IC法は、投与速度を速めても、消化器症状が出現しにくい投与方法である。

参考文献
- 曽田益弘:焦点 ここまできた経管栄養法.どんな場合に使われるか;経管栄養の適応基準とその方法.看護技術,46:1268-1272,2000
- 舟橋満寿子、他:嚥下障害児に対する口腔ネラトン法の試み.脳と発達,17:3-9,1985
- 木佐俊郎、他:摂食・嚥下障害に対する「口腔ネラトン法」の応用.総合リハ,19:423-430,1991
- 飛田美穂:焦点 ここまできた経管栄養法.経管栄養のメリットとデメリット―栄養生理学的にみる消化・吸収のしくみから―.看護技術,46:1252-1257,2000
- 野崎園子、他:筋萎縮性側索硬化症患者に対する間欠的経口経管栄養法.神経内科,60:543-548,2004
- 大熊るり、他:摂食・嚥下障害患者に対する代替栄養法-間歇的経管栄養法(intermittent tube feeding)の利点と適応.Medicina,38:692-698,2001
推薦図書
- 才藤栄一、植田耕一郎監修:摂食・嚥下リハビリテーション、第3版、医歯薬出版
- 東口髙志:NST完全ガイド 栄養療法の基礎と実践、第2版、照林社


