69.具体的方法:経鼻経管栄養・間欠的経管栄養法・胃瘻栄養法

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説明

経鼻胃経管栄養に使用する栄養チューブ(以下チューブ)の選択方法として、材質と太さがある。

材質は主に3種類である。

ポリ塩化ビニールは比較的軟らかいが、消化液による変性により長期間留置すると硬化するため週1回の交換が必要で、長期間の留置に不向きであるが、安価なので短期間の使用には経済的である。

シリコンとポリウレタンは、軟らかくて粘膜刺激が少なく、消化液による変性も少ないため長期留置の経鼻栄養に多く用いられている。

太さは、水様の成分栄養剤は5Fr.以上、半消化態栄養剤は8Fr.以上のものを使用しないと閉塞の可能性がある1)。しかし、患者の苦痛軽減のためには12Fr.以下にしたい。可能な限り細くて軟らかいチューブを選択して患者の苦痛と嚥下運動への悪影響を減らすように心がける。

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説明

チューブ挿入の長さは、留置する場所に到達する長さが必要である。胃内に留置する場合は噴門部までの長さに10cm加え、約55cm程度挿入する。目安となる噴門部までの長さは、対象患者の鼻孔から耳朶までと、耳朶から剣状突起までの長さである2)。患者の体格に合わせて挿入する長さを調整する。

難治性の胃食道逆流などにより、小腸上部にチューブを留置する場合がある。その場合は、チューブは120cm以上の長いものを使用し、先端に錘などが付いたチューブ(例:アーガイルEDチューブ®)を使用して、消化管の蠕動運動で幽門を通過させる。経時的にレントゲンで位置を確認する必要がある。EDチューブがうまく進まない場合は医師に相談する。

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説明

チューブ挿入に当たっては、嚥下運動を障害しないように注意が必要である。喉頭蓋に当たらないように、鼻腔と同側の梨状窩に挿入する。そのためには、挿入する鼻腔と反対側に頚部を回旋するとよい。頸部を回旋することで、回旋側と反対側の咽頭が開き食道入口部の圧が低下することが知られている3)

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説明

頸部回旋でのチューブ挿入方法4)を紹介する。①姿勢はリクライニング位で枕を高くあて、頚部の筋肉を弛緩させる②挿入する鼻腔と反対側に頚部を回旋する③鼻から耳までの長さ(約15cm)を挿入した所で嚥下を促がす ④嚥下に合わせてチューブを素早く送り込むと、開いている食道入口部をチューブがスムーズに通過する。咳き込んだり、抵抗を感じたりした場合は、チューブを少し引き抜き、頸部回旋をやや強めて再度挿入する。⑤40~45cmの食道下部で抵抗を感じた場合は、空嚥下を促しながら必要な長さまで挿入する。

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説明

経鼻胃経管栄養の誤注入の医療事故は後を絶たない。チューブが消化管に確実に挿入できたことを確認してから注入することが重要である。チューブの位置確認方法として、2005年日本看護協会5)が①胃内容物の吸引②気泡音の聴取③X線撮影を、同年英国の「患者の安全性に関する警告」6)では、①吸引液のpH測定(5.5以下)を推奨する②X線でのチェックも推奨するが日常的に使用しない③空気の聴診は使用しない④呼吸困難がないことをもって設置が正しく行われていると解釈しない⑤pH測定では制酸剤による影響に注意することを推奨している。本邦でも2006年に認定病院患者安全推進協議会で同様の提言をしている7)

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説明

経鼻胃栄養チューブ誤挿入予防のためのチューブ位置確認方法として、聖隷三方原病院医療安全管理委員会で作成したマニュアルを紹介する。気泡音の確認と胃内容物を吸引して酸性度測定を行う。吸引ができなかった場合と、酸性度測定でpH6以上だった場合は、レントゲン撮影でチューブ位置確認を行う。チューブはレントゲン不透過ラインが入っているものを使う必要がある。

なお、日本医療安全調査機構は2018年9月に、栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析を行い、レントゲン撮影もしくは胃液の酸性度測定で胃内への挿入を確認した直後に、水50~100mlを注入して呼吸状態等に異常がないことを確認してから栄養剤の注入を開始することを推奨した。14)

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説明

間欠的口腔食道栄養法(以下OE法,IOEと略されることもある)のチューブ挿入方法を示す。OE法はチューブを飲み込むこと自体が嚥下訓練にもなるので、嚥下しやすい姿勢をとり、以下のように行う7)とよい。①チューブは挿入し易く、気管への誤挿入を発見しやすいように16~18Fr.の太いサイズを使用する②口腔内と咽頭の唾液や痰を除去しておく③姿勢はリクライニング位にして枕を高くあて、頚部の筋肉を弛緩させる④顎を前方に軽く突出させ食道入口部を開く⑤口角から対側の咽頭壁に向かってチューブを挿入する。

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説明

OE法は流動食を食道内に注入することから、流動食は食道蠕動で胃内に運ばれ、生理的であると言われている。以下の要領で注入する。①チューブは口から胃まで挿入し、気泡音・胃内容物の吸引等で胃内に入ったことを確認する②その後、逆流を予防するためにチューブの上の穴が(注入部)が食道第2狭窄部より胃側の位置まで引き抜いて固定する(成人で30~40cm。VFの際に確認するとよい)③注入速度は、はじめはゆっくりから開始して問題がなければ50ml/分程度にする(500mlを10~15分で注入)④注入中に唾液の分泌が増加する場合は、積極的に嚥下してもらい食道蠕動をおこす。注入が終了したらチューブを抜去する8)

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説明

OE法の実際の場面を紹介する。手順は以下の通りで、口からチューブを胃まで飲み込み、胃内に入ったことを確認してから必要な長さまで引き抜いて固定する。①のどのアイスマッサージで口腔内を湿潤させ嚥下しやすくする②口角から対角線状にチューブを挿入する③梨状窩まで入ったら嚥下を促す④胃まで挿入し、気泡音と胃内容物の逆流を確認する⑤食道第二狭窄部まで10cm程度引き抜き、頬に固定する。

認知が悪い場合や口腔ジスキネジアなどで常に口を動かしている場合などでは、注入中にチューブが抜けてくることがあるので注意する。

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胃瘻(gastrostomy,近年は経皮内視鏡的胃瘻造設術PEGが広く行われている)造設術後早期の管理を紹介する。挿入されている胃瘻チューブの種類に合わせて対応する必要がある。瘻孔からの出血・発赤・腫脹・潰瘍の有無を観察する。造設24時後に胃壁と腹壁が密着するように牽引していた状態を開放するために、皮膚と外部バンパーの間にガーゼを挟んで5mmの隙間を作る。瘻孔周囲の皮膚は洗浄と愛護的な清拭により清潔に保つ。外部バンパーは定期的に回転して粘膜への固着や埋没を予防する9)

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説明

瘻孔の管理は、固定と皮膚の清潔がポイントである。毎日胃瘻チューブの固定と、ストッパーと皮膚の間に1~2cmの余裕があることを確認する。癒着を防ぐために外部バンパーを定期的(1日1回)に90度回転させる。バルーンタイプはバルーン内の蒸留水の量を定期的に確認する必要がある。

瘻孔形成は約3週間から1ヶ月間を要するとされている10)。胃瘻チューブの交換時期や交換頻度は、造設方法や胃瘻チューブの種類により変ってくる。

瘻孔周囲の皮膚は清潔にする。2週目以降は医師の許可でシャワー浴を行う。3週目以降は医師の許可で入浴が可能になる。入浴が出来ない時は、弱酸性石鹸と微温湯で洗浄する。

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説明

胃瘻は、腹帯や腹巻を使って直覆ったり、衣類を工夫したりして保護する。胃瘻チューブが周辺の皮膚の損傷や圧迫をしないように、また事故抜去しないように注意する必要がある。

瘻孔は2~3時間で閉塞してしまうため、もし事故抜去してしまったときは、瘻孔が塞がらないように処置が必要である。事故抜去したときの対処方法を医師に確認しておく。

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説明

経管栄養注入に共通する注意事項をまとめた。

胃食道逆流を予防するためには、注入中と注入後は最低30分、また胃食道逆流などがある場合は2時間以上は臥床せず、上半身を 60度以上に起こしておく。安静の必要はなく、むしろ軽く歩いたほうが良い場合もある。

注入量は、経口摂取量や体調を加味して検討する。経管栄養は強制的な栄養補給方法であることを心得ておく必要がある。経管栄養のために空腹を感じることができず、食欲が湧かないこともある。

経管栄養剤の汚染予防も大切である。栄養剤は高カロリー高栄養で細菌繁殖し易い。調整後(もしくは開封後)は、6~8時間以内に使用し、残った場合は密封して冷蔵庫に保管し24時間以内に使用する。

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説明

内服薬の注入でチューブが閉塞してしまうことがある。これを予防するために、 溶解が可能な内服薬は簡易懸濁法11)で溶かして注入するとよい。簡易懸濁法は薬の種類により55度の湯20mlに10分浸すことで溶解するため、錠剤を粉にする必要がない。

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説明

経管栄養の合併症に下痢がある。原因の多くは、浸透圧と注入速度であると言われている。下痢の対処には浸透圧の影響を少なくする為に投与速度を低速に調節する。絶食で長期間腸管を使用していなかった場合は、慎重に白湯の低速注入から始めて、段階的に必要量まで増やしていく必要がある。

注入速度は栄養剤の種類と注入場所によって適切に調整する必要がある。幽門後(腸瘻、経鼻空腸経管栄養など)に半消化態栄養剤を投与する場合には、消化が不十分で、高張な栄養剤が急速に小腸内に注入されるとダンピング症候群なる危険性がある12)。持続注入ポンプを用いた持続投与が原則である。

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説明

半固形状流動食を短時間に注入する栄養法は、胃・食道逆流や下痢等の予防に有効と言われている。適応は、正常な胃の消化管運動および消化吸収能をもつ患者で、高度の食道裂孔ヘルニアのある患者や胃切除術後の患者など腸瘻の患者は不適応とされる。有効とされている粘度・量・注入時間に留意して実施する必要がある。

なお、「半固形栄養経管栄養」という名称は、厚労省が在宅指導管理料算定にあたり使用した言葉である。

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参考文献

  1. 佐藤敦子:経鼻栄養チューブによる経腸栄養.経鼻栄養チューブの種類,東口高志編,NST完全ガイドー栄養療法の基礎と実践,照林社,2005,58-60.
  2. 東郷美香子:経管栄養,川島みどり監修,基礎看護技術ガイド,照林社,2007,139-146.
  3. 武原 格他:嚥下における頚部回旋の運動学的検討,リハビリテーション医学,36,1999,737.
  4. 藤森まり子他.経鼻胃経管栄養法における新しいチューブ挿入技術としての頚部回旋法.日本看護技術学会誌,4(2),2005,14-21.
  5. 日本看護協会:経鼻栄養チューブの誤挿入・誤注入事故を防ぐ,協会ニュース付録 医療・看護安全管理情報No.8,422,2002,11.
  6. National Patient Safety Agency.(2005)"Reducing the harm caused by misplaced nasogastric feeding tubes," Patient safety alert 05(http://www.npsa.nhs.uk
  7. 認定病院患者安全推進協議会:提言 経鼻栄養チューブ挿入の安全確保について;患者安全推進ジャーナル13,2006,3941.
  8. 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害 第2版,医歯薬出版,1998,122-124.
  9. 佐々木雅也:人工濃厚流動食,佐々木雅也編集,NSTのための経腸栄養実践テクニック,照林社,2007,131-137.
  10. 曽和享生監修:PEG(胃瘻)栄養 適切な栄養管理を行うために,フジメディカル出版 第2版,2005,34-35.
  11. 倉田なおみ著・藤島一郎監修:経管投与ハンドブック-投与可能薬品一覧表-第2版,じほう,2006.
  12. 田中芳明、朝川貴博:経鼻胃管・腸管栄養の選び方 チューブ・カテーテルの基本知識,佐々木雅也編集,NSTのための経腸栄養実践テクニック,照林社,2007,78-81.
  13. 合田文則:胃瘻からの半固形短時間摂食法ガイドブック 胃瘻患者のQOL向上をめざして,医歯薬出版;2006.9-45.
  14. 医療事故調査・支援センター 一般社団法人日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言第6号 栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析,2018,20-23.

推薦文献

  1. 佐々木雅也:人工濃厚流動食,佐々木雅也編集,NSTのための経腸栄養実践テクニック,照林社,2007.
  2. 藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害 第2版,医歯薬出版,1998.
  3. 倉田なおみ著・藤島一郎監修:経管投与ハンドブック-投与可能薬品一覧表-第2版,じほう;2006.
  4. 曽和享生監修:PEG(胃瘻)栄養 適切な栄養管理を行うために,フジメディカル出版 第2版,2005.
  5. 日本静脈・経腸栄養学会編集:コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン,南江堂,2000.
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