70.食物物性・形態

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説明

食物物性は食物の形態と密接に関連している。ここでは食物の形態と物性の関連性について学ぶ。はじめに、食物の物性を評価する方法を形態別に解説し、それぞれの形態に対応する食物の例についても示す。続いて、食物は様々な要因で形態と物性が変化するので、その要因について解説する。

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説明

食物の物性と形態の関連性を見いだすために、用語の定義を明確にする必要がある。

食物の物性とは、摂食嚥下リハビリテーション認定士に関連する場合には、力学的性質に限定してよいであろう。食物の形態とは、食物の外観および内部構造の状態を表す用語である。また、食物の物性はその形態に影響されるので、食物の物性と形態の関連性を考察する際には「テクスチャー(texture)」という用語で表現することが多い。

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説明

食物は様々な形態を持っているので、それに応じた物性がある。食物の形態は、図に示すように、3つに分類される。さらに、それぞれ均質な状態と不均質な状態に分けられる。

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説明

液状食物の物性を評価するため、形態別に適した物性の測定方法を示した。液状食物は分散状態から分類すると、均質なものから不均質な形態のものまで、様々である。それぞれの形態に対応する測定方法を示した。B形回転粘度計による粘度測定はスライド6で、テクスチャー測定についてはスライド7で解説する。ただし、コーンプレート型回転粘度計と、動的粘弾性測定については均質な液状食物に限定されるので、解説を行わなかった。

各形態に対応する食物の例を下に示した。水のように均質なものから、ゆるい構造をもつゲル(ゼリー)が混合されているゼリー飲料のように均質と不均質の中間的なものもある。さらには、粒入りのコーンスープのように液体に固体が分散した形態のものまである。

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説明

液状食物を物性から分類するときには、粘度で表現するとわかりやすい。「さらっとしている」、「粘ついている」は粘度を表現する用語である。均質なゾルの中で、ニュートンの粘性法則に従うものをニュートン流体といい、ジュースや水が代表的な液体である。測定条件によって、粘性率が変化する非ニュートン流体は、みかけの粘性率として示す。例として、ポタージュスープなどがある。ニュートンの粘性法則はずり速度γとずり応力Sの関係を表す方程式で、比例定数が粘性率ηである。

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説明

B形回転粘度計(写真)は試料をビーカー(直径6cm以上)に200ml程度入れ、セットしたロータを回転させて、ロータに伝わる試料の抵抗をトルクとして計測する。試料の粘度により、ロータを変化させて測定を行う。ロータの回転数は、4段階に変速できるモデルがよく用いられている。この粘度計は不均質な液体の測定も可能なので、利便性のある機器といえる。コーンプレート型粘度計とは異なり、ずり速度ではなく、回転数で示している。図はグアーガム系とでんぷん系トロミ調整食品添加試料(水)の測定例である。

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説明

テクスチャー特性の測定には、写真に示したような装置を用いることが多い。プランジャーをセットし、試料容器に厚さ15mmに試料を充填し、定速圧縮を2回行う。右に記録曲線のモデルを示した。①で示した写真はプランジャーが最下点の状態を示したもので、1山目の最大値(h)を示す位置であり、「硬さ」を表している。また、②の写真は、圧縮から転じてプランジャーが上に引き上げられた状態を示しているので、矢印で示すように、マイナス方向の力が働き、aで示す面積、すなわち仕事量が「付着性」として算出できる。CおよびDは硬さと付着性の換算係数であり、機器固有の値である。「凝集性」は2山目の面積であるaを1山目の面積aで除して算出する。「硬さ」は食品の硬さ、「付着性」は粘り、「凝集性」は食品内部の結合力をあらしている。

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説明

半固形状食物の物性を評価するため、形態別に適した物性の測定方法を示した。半固形状食物も分散状態から分類すると、均質なものから不均質な形態のものまで、様々である。それぞれの形態に対応する測定方法を示した。テクスチャー測定についてはスライド7の解説を参照すること。

各形態に対応する食物の例を下に示した。マヨネーズのように均質なエマルション状態のものから、加熱で半熟状態になった鶏卵が混合した状態のスクランブルエッグは均質と不均質の中間的な形態である。全がゆは重湯に米粒が分散した状態であり、液体に固体が分散した形態といえる。

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説明

半固形状食物を物性から分類するときには、「軟らかい」、「硬い」というテクスチャー用語で表現するとわかりやすい。軟らかい半固形状形態は、一見ゲル状に見えるが、攪拌すると流動するようになり、スプーンからゆっくり流れ落ちる特性を持つ。硬いものでは、マッシュポテトのように、ペースト状になった食物は形を保つことが可能で、型抜きもできる。

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説明

固形状食物の物性を評価するため、形態別に適した物性の測定方法を示した。固形状食物も均質なものから不均質な形態のものまで、様々である。それぞれの形態に対応する測定方法を示した。ただし、破断特性の測定は咀嚼と対応させる場合が多いので、テクスチャー特性と近似した値が得られるため、解説は省略した。

各形態に対応する食物の例を下に示した。均質な固形状食物として、絹ごし豆腐を挙げた。同じ豆腐でも、木綿豆腐は製法が異なり、凝固剤でいったん固めた豆乳ゲルを寄せ集め、水分を絞りながら形を作ったものなので、やや不均質な形態になっている。ハンバーグはミンチした肉とタマネギやその他の食材をまとめて加熱凝固させたものであり、固形物がタンパク質によって固められた形態である。

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説明

固形状食物の物性から分類には、「軟らかい」、「硬い」、さらには「極めて硬い」というテクスチャー用語を加えた。型から出すと自重で崩れる軟らかい固形状食物から、咀嚼が必要な硬さの固形状食物、噛みごたえがある極めて硬い固形状食物まで様々である。いずれも、いったん形状が崩れると、元の形には戻らない状態のものが固形状食物である。

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説明

食物の物性を変化させる要因として温度が挙げられる。左の図はホワイトソースの温度による粘度(粘性率)の変化を示したものである。60℃ではさらっとしているが、20℃で測定すると3倍程度粘度が増加している。一方固形状食物においても、温度で大きく変化する代表的な食物がゼラチンゼリーである。ゼラチンゼリーの融点が22~25℃であり、室温に放置すると品温が上昇し、硬さが減少するので、温度管理が大切である。

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説明

食物の形態と物性を変化させる要因として、ハイドロコロイドの添加が挙げられる。ハイドロコロイドは食品添加物のゲル化剤や増粘剤の主原料であり、少量で、テクスチャーを改良することが可能なところから、食感改良剤ともいわれている。

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説明

均質な液状食物は、唾液が一部混合され、そのまま嚥下される。不均質な液状食物は、唾液が混合され不均質な液状の食塊に変化する。半固形状食物も咀嚼(舌と硬口蓋など)によって唾液と混合され、不均質な半固形状の食塊に変化する。固形状食物は咀嚼しながら唾液と混合され、食物形態は不均質な半固形状の食塊に変化する。いずれの形態の食塊であっても、テクスチャー特性の硬さは食物の値よりも低下する(スライド15参照)。

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説明

固形状食物の摂食過程の物性変化を把握した事例を図に示した。豚ロース肉:「軟化未処理肉」、重曹処理により軟化させた「重曹処理肉」、薄切り肉を重ねた「重ね肉」、ミンチした肉をでんぷんで結合させた「再構成肉」について、飲み込む直前の食塊の硬さを測定したところ、ほぼ等しい硬さになった。人は咀嚼することで、飲み込みやすい状態に物性を調整していることが明らかである。

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参考文献

  1. Szczesniak,A.S., Classification of textural characteristics, J. Food Sci.,28, 385,1963
  2. 高橋智子,大越ひろ:粘稠な液状食品の飲み込み特性と力学的特性の関係,家政誌,50(4),333-339,1999
  3. 赤羽ひろ,大沢はま子,中浜信子:白ソースの加熱および冷却過程の流動特性,家政誌,30(10),845-850,1979
  4. 高橋智子,中川令恵,道脇幸博,川野亜紀,鈴木美紀,和田佳子,大越ひろ,食べ易い食肉のテクスチャー特性と咀嚼運動,家政誌,55,3-12,2004

推薦図書

  1. 大越ひろ,品川弘子編著:健康と調理のサイエンス,学文社,2010
  2. 中濱信子,大越ひろ,森高初恵:おいしさのレオロジー,アイ・ケイコーポレーション,1997
  3. 食介護研究会編:摂食・嚥下障害を考える,カザン,2007
  4. 食介護研究会編:摂食・嚥下障害を考える(第2集),カザン,2008
  5. 手嶋登志子,大越ひろ編著:食介護ハンドブック,医歯薬出版,2007
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