72.嚥下調整食・調理器具

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説明

摂食嚥下障害は、認知、咀嚼、嚥下などの機能を考慮した食事が必要となる。不適切な食形態・食べ物は、誤嚥のリスクとなりうる。姿勢などの食べる環境調整を行っても、最終的に口に入る食べ物が危険であれば、誤嚥は防げない。
ここでは、安全でおいしい嚥下調整食を提供するために、嚥下調整食に適した食材の選択やその調理法、段階的な嚥下調整食、調理器具について理解する。

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説明

摂食嚥下障害には、低栄養や脱水、誤嚥や窒息などの大きな課題がある。そのため、嚥下調整食とは、個々の機能を考慮し、低栄養や脱水を予防し栄養に富み、調理・工夫された食事であり、誤嚥予防ができる安全なものでなければならない。

また食事の度にゼリーやとろみの濃度が異なる、ということではなく、同じメニューはいつも同じ物性で提供できるための品質管理のシステムが必要である。

訓練食という位置づけもあるが、食の楽しみ、欲求を満たしてくれるものとして「おいしい」ということも必須条件である。おいしさの要素には、視覚、嗅覚、触覚、聴覚、味覚、温覚などがある。

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説明

段階的摂食訓練の食形態は、個々の機能に合わせて難易度の低い食形態から難易度の高いものに移行してくことである。さまざまな食形態の段階については、後で述べるが、栄養アセスメントと共に、必要栄養量をどのように摂取できるか、その障害度に合わせて、経管栄養のみ、経験栄養と経口摂取、経口摂取のみ、のように判断していく。

ステップアップの際には、量(摂取量)、質(食形態)、回数(1日の回数)などをポイントに絞り、場合によっては複数の介入をせず、単介入のみの変更で、経過をみる、変更時は朝夕ではなく、人手がある昼食にする、などの工夫が必要となる。

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説明

嚥下調整食の条件は、以下のとおりである。

  1. 食塊としてまとまっている
    咀嚼や食塊形成不能に対応し、まとまっているものがよい。
  2. 流動性が強くなく、適度な粘性がある
    サラサラの液体ではなく、適度な粘性がある物性がよい。しかし粘性は強すぎても口腔や咽頭残留につながりやすく、適さない。
  3. 咽頭通過に際し、変形性がある
    狭い咽頭の空間を残留なく通過するためには、食塊そのものが変形しやすいとよい。
  4. 口腔や咽頭でバラバラになりにくい(凝集性)
    咀嚼や食塊形成時に、バラバラになると、残留や誤嚥につながってしまう。物性は、かたさだけではなく、付着性、凝集性、粘性なども考慮され、総合的に判断される。物性により、食塊形成や咽頭通過のしやすさが変わる。
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説明

  1. 味・香りははっきりしているものがよい。嚥下調整食はミキサーにかけることで味や香りがぼけやすい。料理はしっかりと味や香りをつけ、ソースなどを利用し、表面に味をつける。
  2. 均質性がある
    味噌汁、分粥、きざみトロミ食などのように、粒のあるものや液体と固形物が混じっている状態はよくない。特に重度嚥下障害者では、ミキサー類を用いて細かく粉砕し、均一に仕上げる。ただし、嚥下機能のupにあわせ、均一性から不均一へと移行することはある。
  3. 温度は、冷たいか温かいなど体温に近くない温度がよいとされている。ただし、熱い料理などは温覚障害のある人は火傷に注意しなければならないため、最初のtry食としては、冷たいゼリーなどが用いられやすい。
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説明

安全な嚥下調整食を作るために、食材の特徴を知り、適切な食材を選択する。

(1)加熱しても軟らかくなりにくいもの

かまぼこやハム、こんにゃく、きのこ類、貝類、油揚げ等があげられる。これらは細かく切ったとしても、バラバラになってしまうだけで、口腔内でうまくまとめることができない。常食といっても、サラダの中に入っているハムやかまぼこなどの加工食品は硬く、そのものが誤嚥の危険性を秘めている。長ネギは薬味として味噌汁に入れたり、かに玉の具の中に入れたりといろいろな調理に使われる。みじん切りにして使ったとしても、長ネギ自体が硬く、咽頭残留しやすい。こんにゃくや白滝なども同様である。小さく切っても硬いものは調理で用いることは難しく、取り除いて別の食材を加える。

(2)硬いもの

ナッツ類、ごま、さくらえび、煎り大豆などがある。食材そのものが硬く、咀嚼してもバラバラになるだけで、誤嚥しやすい。

(3)厚みのないもの

厚みのない(薄い)焼き海苔やワカメは、硬口蓋にくっつきやすい。口腔内で食べ物を認知するとき、その硬さや大きさ、味などいろいろな要素が影響するが、口腔内の環境が十分でないとこの口腔内での認知機能は低下し、食べ物が口に入ってもうまく情報をキャッチできない。厚みのないものは、口腔内で認知しにくいもののひとつである。

(4)繊維の多いもの

たけのこやごぼう、れんこんなどの根菜類、青菜類、魚料理など繊維の多いものはうまく噛み切れず、口腔内に残留しやすい。咀嚼機能の低下が軽度であれば、繊維を断つように切ったりしっかりと下茹でしたりすることで対応できる。

(5)パサパサしたもの

咀嚼や食塊形成には、唾液は大きな要素のひとつである。嚥下障害者は、口腔乾燥などがみられ、咀嚼や食塊形成能に大きな影響を与える。料理の中の水分が少なければ、さらに十分な咀嚼ができず口に溜め込んだり、窒息の原因にもなったりもする。

(6)酸っぱいもの

本来お酢はむせやすいものである。かんきつ類などの酸味や酢のものもむせやすい。酢の物は三倍酢にする、酢を一度飛ばすなど工夫できる。

(7)パラパラとまとまりにくいもの

佃煮やふりかけなど高齢者はよく使用しているのをみかけるが、実はこれがむせの原因となっていることが多い。また肉は硬いからと代わりにひき肉を使うことがあるが、ひき肉もそぼろ状にしては逆に口腔内でまとまらず咽頭残留しやすい。

(8)さらっとしたもの(液体)

さらっとした液体は口腔や咽頭の通過速度が速く、誤嚥につながりやすい。

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説明

摂食嚥下機能を助けるための調理の工夫について述べる。

食材の多くは、生ではかたい食材も加熱することで、やわらかくなる。
繊維を断つような切り方を工夫し、十分にやわらかくなるまで加熱する。パサパサする食材には、水分や油脂を加え、軟らかくなめらかに仕上げる。
芋類や卵などのつなぎを入れることで、まとまりやすく、軟らかく仕上げることもできる。和えものも和え衣は、和える食材をうまくつなぐ役割もする。
液体は、そのままではなく、とろみをつけ、飲み込みやすくする。
タンパク質食品には、低温で長時間加熱することにより、うま味を引き出し、余分な水分を落とすことなく、仕上げることもできる。
細かく刻みすぎては十分な咀嚼を引き出すことはできない。また、単に食材や料理を刻んだだけのものは口腔や咽頭残留につながり、嚥下調整食としては適さない。

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説明

嚥下調整食の分類分けの1つとして、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食特別委員会から提案された、嚥下調整食学会分類2013(学会分類2013)がある。

学会分類2013は、成人の中途障害による嚥下障害例に対応できるように検討された。例外(適応外)としては、器質的な狭窄による嚥下障害例や小児の嚥下障害の発達過程を考慮した嚥下調整食とは一致していない。

原則的に段階を形態のみで表記しており、量や栄養成分については設定していない。段階数は、大きく5段階とし、コード番号を付与している。これにより既存の分類と整合性を取り、多くの施設で使用できることを目指した。

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説明

コードの中のjはゼリー(jelly)状、tはとろみ(thick)状を表す。

0jは、均質で付着性が低く、凝集性が高く硬さがやわらかく、離水が少ないゼリーであり、0tは、均質で付着性が低く、粘度が適切で、凝集性の高いとろみ水であり、どちらも嚥下訓練食としての位置づけである。なお、誤嚥した際の組織反応や感染を考慮して、たんぱく質含有量が少ないものがであることが望ましい。

コード1jは咀嚼に関連する能力は不要で、均質でなめらかな離水が少ないゼリー・プリン・ムース状の食品である。

コード2は、一般的にミキサー食、ピューレ食、ペースト食と呼ばれていることが多い。スプーンですくって口腔内の簡単な操作により適切な食塊にまとめられるもので、送り込む際に多少意識して口蓋に舌を押しつける必要があるもの。一般にはミキサー食やペースト食といわれることが多い。2-1はなめらかで均質なもの、2-2は軟らかい粒などを含む不均質なものである。

コード3は、やわらか食、ソフト食と呼ばれていることが多い。形はあるが、歯や補綴物がなくても押しつぶしが可能で、食塊形成が容易であり、口腔内操作時の多量の離水がなく、一定の凝集性があって咽頭通過時のばらけやすさがないもの、やわらか食などと言われるものが多い。

コード4は、咀嚼や嚥下機能が軽度低下のある人を想定し、食材と調理方法を選択したものである。軟菜食、移行食と呼ばれるものがここに含まれる。具に配慮された煮込み料理など一般食でもこの段階に入るものはある。

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説明

学会分類2013(とろみ)では、嚥下障害者のためのとろみ付き液体を、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの3段階に分けて表示した。客観的評価項目として粘度計で測定した粘度、臨床現場で測定可能な粘度簡易測定法Line Spread Test(LST)値を示した。

段階1 薄いとろみ
「drink」するという表現が適切なとろみの程度であり、口に入れると口腔内に広がる、飲み込む際に大きな力を要しない。細いストローでも十分に吸える。粘度は50-150mPa・s、LST値は36-43mmである。

段階2 中間のとろみ
口腔内での動態はゆっくりですぐには広がらず、舌の上でまとめやすい。「drink」するという表現が適切だが、スプーンですくってもあまりこぼれないが、フォークでは歯の間から落ちてすくてない程度。食事の学会分類2013の0tとして摂取する場合には、スプーンを用いることが想定される。粘度は150-300mPa・s、LST値は32-36mmである。

段階3 濃いとろみ
明らかにとろみがついており、まとまりが良く、送りこむのに力が必要である。スプーンで「eat」するという表現が適切で、ストローに使用は適していない。とろみ調整食品の種類によっては、付着性が増強して、かえって嚥下しにくくなることがあるため、試飲し確認した上で、選択する。粘度は300-500mPa・s、LST値は30-32mmである。

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説明

嚥下調整食は、食材の特徴を理解し、適切な食材を選択し、材料の計量や調理工程、出来上がり料理の管理などその品質管理には十分な配慮が必要である。その品質管理では、提供する料理の基準化がされており、その物性が調理後から食べ終わるまで、一定であることが求められる。

品質管理を行うためには、調理プロセスや調理後の料理の保存システムについて構築する。調理工程では、ミキサーにかけるときの食材と水分の割合やどの程度ミキサーにかけるかなど、誰が調理しても同じように仕上がるように工夫する。

さらにはフロアーで食事を提供するときの配慮(どういう順番で配膳・食事介助を行うか等)、介助側の提供基準がある。ゼリーが溶ける、離水する、お粥が分離する、冷めて物性が変化するなど食事提供後の変化に対応できるようなシステムも押さえておく必要がある。

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ゼリー食を作る上でのポイントは、ゲル化剤の特徴を知ることである。ゲル化剤により、溶解温度や冷却温度などが異なる。ゼラチンは、80度の加熱で十分溶解するが、常温では固まらない。一方、80度以上の加熱を必要とするが、常温で固まるものもある。最近では、非加熱タイプの嚥下調整食用ゲル化剤や酵素入りゲル化剤もある。

また、何をゼリーにするかにより、使用濃度は異なる場合がある。お茶のゼラチンゼリーと果汁のゼラチンゼリーでは、同じ1.6%であっても、果汁のゼリーの方が糖質の影響を受け、固く仕上がる。ほかにも、濃厚流動食や牛乳など濃度がある液体や野菜や魚などを調理しミキサーにかけてゼリー寄せにする場合、その食材をミキサーにかけるときの食材と水分の割り合いなどで仕上がりは異なる。

調味、味付けは、しっかり行う。基本的に味付けは、固める前の液体で行うことが多いが、液体と固形物では味の感じ方が異なり、固形物の方が味を感じにくい。表面にソースをかけるなどの工夫もよい。

食材をミキサーにかけてゼリー寄せやムースを作る場合、冷却の過程で液体と固形物が分離しないように、冷却時間や攪拌などの工夫をする。

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説明

嚥下調整食を調理する工程で、必要となるのが、ミキサー類である。

食材やその量により、使い分けることができる。

フードカッターは、みじん切りなどの下処理に使用することが多くある。液体の少ないものを粉砕するときに、使用する。液体が多いと、うまく粉砕できず、ペースト状に仕上げたいときなどにも利用できる。

一方で、ジューサーミキサーは、液体を含んだ食材や料理を粉砕するときに使用する。ゼリー寄せやムースを作るときによく利用できる。

ハンドミキサーは、少量を粉砕したいときに便利で、少人数の施設や在宅向きである。縦長の容器に直接食材を入れ、粉砕することができ、加える液体の量に関わらず粉砕することができる。

大量調理での粉砕には、3リットル6リットル等さまざまなタイプのものがある。

冷凍粉砕調理機は、付属のビーカーで冷凍した食材を、専用容器で冷凍した食材を解凍することなく凍ったまま、特殊刃の回転によって、0.01mm以下に粉砕しピューレ状、ムース状に仕上げることができる。3回裏ごしをした以上のなめらかな食感を得る事ができる。

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