76.機能の異常

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学習目標

ここでは、小児の摂食嚥下機能障害の基礎疾患において、機能的異常を原因とする疾患について理解し説明できる。 基礎疾患や合併症や全身状態を理解し、摂食障害の対応について説明できる。

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子どもの摂食嚥下障害の特徴

子どもの特徴は、①摂食嚥下機能の発達期である、②原因が多岐にわたる 、③栄養的に重要であり、栄養面の評価が必要である、④重症児とそれに伴う合併症が多い、⑤年齢や知的障害のためコミュニケーションがとれないことが多い、⑥保護者が食事介助をするなどの、特徴を持つ。

成長曲線を記録することは、子どもの栄養面での評価の参考になる。乳幼児期であれば、母子手帳が参考になる。成長や発達の中での評価であり、対応も児の発達を引き出すことが大切である。

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摂食嚥下機能障害の基礎疾患の理解

摂食嚥下機能障害を考えるには、摂食嚥下機能障害の病態 、摂食嚥下機能の発達段階、摂食嚥下機能障害の基礎疾患をみる必要がある。ある一面のみをみることでは正しい評価ができず、全体をみる力も必要がある。

ここでは様々な疾患によりおこる原因について、基本的なことを理解し、摂食嚥下障害を持つ児に役立てる。

  1. 未熟性(早産児、低出生体重児)
  2. 解剖学的な構造異常(先天性、後天性) ※別項
  3. 中枢神経、末梢神経、筋障害
    (ア) 大脳、小脳 (脳性麻痺、脳形成異常、脳虚血など)
    (イ) 脳幹 (脳幹出血、Möbius症候群など)
    (ウ) 脊髄、末梢神経(Werdnig Hoffmann病など)
    (エ) 神経・筋接合部 (重症筋無力症)
    (オ) 筋 (筋ジストロフィー症など)
  4. 咽頭・食道機能障害 (喉頭軟化症など)
  5. 全身状態(栄養不良、呼吸器疾患、先天性心疾患、重症感染症など)
  6. 精神・心理的問題(育児、食欲、拒食、自閉症など)
  7. その他(口腔内乾燥、薬物など)

このように原因の中に様々な疾患があり、それに伴う合併これらの複合的な要因によることも多い。基礎疾患と合併症と全身状態への対応と同時に、摂食嚥下障害を考える必要がある。

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脳性麻痺は小児の摂食嚥下障害の原因の代表ともいえる

脳性麻痺は小児の摂食嚥下機能障害の中心的な問題である。脳性麻痺の定義は、 受胎から新生児(生後4週間以内)までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく、出生後の永続的かつ変化しうる運動又は姿勢の異常をいう。ただし、進行性疾患や一過性の運動障害などは除外される。日本での定義はこのようになっているが、必ずしも新生児に限らない定義もある。発生率はおよそ出生数1,000に対して1~2人である。

表に示すように運動障害の分布や性質が異なる。重症度も運動面、知能面とも軽度から重度まである。原因も様々であるため、多様な病態が含まれる。

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重症心身障害児はしばしば摂食嚥下障害を伴う

小児の脳性麻痺による摂食嚥下障害では、重症心身障害児の占める頻度が高い。

重症心身障害児の定義には、大島の分類が用いられることが多く、表の区分1-4に該当するものとされる。 運動機能障害と知能障害の程度で示され、大まかには簡単に評価ができる。運動および知的障害が重いため、コミュニケーションの難しいことが多い。それが、評価や治療方針の決定に影響する。

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重症心身障害児とその合併症と関連事項

合併する問題には、呼吸障害、栄養障害、消化管障害、筋緊張異常(骨格)、てんかん、体温調節、睡眠障害、骨折などがある。これら合併症には、摂食嚥下障害と直接結び付くことも多く、重症心身障害児の合併症を理解することが、全身状態の把握につながる。

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筋緊張亢進と摂食嚥下機能障害

筋緊張の亢進は脳性麻痺による摂食嚥下障害の病態の重要なポイントである。

筋緊張の亢進は姿勢の問題を引き起こすのみならず、上気道の閉塞や胸郭の運動障害がおこり、摂食嚥下障害や誤嚥性肺炎につながる。また筋緊張の亢進から脊柱・胸郭変形 、胸郭内圧低下 、腹圧上昇により、胃食道逆流現象そして誤嚥にもつながる。

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筋疾患と摂食嚥下障害

筋疾患に伴う摂食嚥下機能障害は、Duchenne型筋ジストロフィー症 、Becker型筋ジストロフィー症 、先天性ミオパチー、福山型筋ジストロフィー症、筋強直性ジストロフィーなどの疾患でみられる。

筋疾患は筋緊張低下と筋力低下により摂食嚥下障害をおこす。 呼吸障害と摂食嚥下機能障害を併せて持ち、両面からみる必要がある。 疾患の重症度や年齢により、その摂食嚥下機能は異なり、基礎疾患の経過や予後を知ることが重要である。

Duchenne筋ジストロフィーや福山型筋ジストロフィー症では、通常学齢期までは摂食嚥下障害をおこさない。Becker型筋ジストロフィー症では、さらに摂食嚥下障害の発症は遅い。 先天性ミオパチーでは、そのタイプにより全く異なる。症状が進行性の場合は、食物形態など摂食嚥下機能に合わせた対応が必要となる。

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フロッピーインファントに伴う摂食嚥下障害

フロッピーインファントとは、筋緊張の低下を認める乳児のことである。この中には様々な疾患が含まれるが、大きく分けると筋力低下を伴う疾患と伴わない疾患がある。筋力低下を示す疾患には主に神経筋疾患があり、筋力低下を伴わないものには精神遅滞に伴う低緊張や内分泌・代謝疾患などが含まれる。

摂食嚥下障害をおこすフロッピーインファントの代表的疾患には、Wednig‐Hoffmann病、Prader‐Willi症候群、先天性筋強直性ジストロフィー症など様々な疾患がある。 種々の染色体異常症や奇形症候群などの疾患も多い。これら疾患は、低緊張に呼吸器疾患、先天性心疾患、消化管疾患などの合併症に低緊張などが加わり摂食嚥下障害につながる。

筋緊張低下の程度が重度であると、新生児期から哺乳障害という形で症状が出現する。 口唇での取り込み、咽頭への送りこみ、嚥下のすべてにわたり機能が低下する。また誤嚥した時の咳嗽反射が弱い。

Prader‐Willi症候群、先天性筋強直性ジストロフィー症のような疾患では、新生児に哺乳障害を認めても、年齢とともに摂食嚥下機能の改善を認める。その経過は基礎疾患の予後にもよるが、Prader-Willi症候群のように出生時には著しい筋緊張低下をもつものが、経過で改善していくものもある。一方、脊髄前角細胞の障害であるWednig‐Hoffmann病は、進行性疾患であり症状が悪化する。疾患の原因を知り、その病態や予後を把握した上での対応が必要である。

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新生児期の哺乳障害

新生児期の摂食嚥下障害は哺乳障害である。吸啜反射、嚥下反射の有無と同時に授乳の問題もチェックする。 吸啜が弱いことや陰圧形成や吸啜・嚥下のリズムに問題があると哺乳障害になる。また呼吸と嚥下の協調が不十分であると哺乳ができてもその効率が悪く、誤嚥をおこしやすい。

大脳皮質の障害が比較的強くても、哺乳反射は保たれることも多い。このような場合には、離乳期からの摂食嚥下障害の出現に注意して対応する。

脳幹部の障害では吸啜反射、嚥下反射が消失し哺乳できない。このような場合には新生児期から経管栄養が必要になり、経過を見たうえで早めに胃瘻の適応も考慮する。

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知的障害と摂食嚥下障害

知的障害児では、さまざまな状況の摂食嚥下障害をおこす。Down症候群は、頻度が多いためその代表的疾患である。ほかにCornelia de Lange症候群、Costello症候群、4p-症候群など疾患は、摂食嚥下障害を伴う率の高い疾患である。

摂食拒否、呼吸・心疾患の合併、運動機能障害や筋緊張の亢進・低下、胃食道逆流症などが、摂食嚥下障害の原因になる。複合的な要因でおこるが、何が摂食嚥下障害の原因になっているか判断した上で対応し、同時に子どもの意欲を引き出すことが必要である。

自閉症はこだわりがあり摂食障害を伴うことがある。味覚や嗅覚からばかりでなく、食物形態や感触に対する過敏な反応を示す場合がある。脳性麻痺の口唇周囲の過敏とはその性質が異なる。社会性やコミュニケーションの療育の中で摂食障害を考慮する。

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胃食道逆流現象(GER)と摂食嚥下障害

胃食道逆流症は小児期においても考えなければならない。食道pHモニターや上部消化管造影などで診断をつける。一方で乳児期にはGERが生理的にみられる現象でもある。

重症心身障害児は、GERDがしばしばみられ、特に筋緊張の強い場合に多い。Cornelia de Lange症候群などの疾患でもしばしばみられる合併症である。

注入や摂食スピードや食事中そして食事後の姿勢などに気をつける。総合的な判断に基づき小児の胃食道逆流症の診断や治療を考える。

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呼吸障害と摂食嚥下障害

呼吸障害と嚥下障害は密接に関係し、呼吸障害により食べる意欲もなくなる。呼吸障害があれば、嚥下を上手に行うことが難しく、嚥下障害は誤嚥性肺炎につながり、それも呼吸機能に影響する。この悪循環を断ち切る必要がある。

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乳幼児摂食障害

嚥下機能に異常がないにもかかわらず、経口摂取ができない子たちがいる。何らかの基礎疾患のために長期に経管栄養を施行した場合が多い。その原因は過去の嫌な経験による拒否や経験不足や栄養管理の問題などの複合なものと考えられる。

食べることへの意欲が、少ない状況と考えられる。 乳児期は発達期にあり、摂食嚥下機能の発達においては、楽しい食事の経験が極めて重要である。子どもの生活全体を考えたうえで、 脳・運動・感覚機能の発達も含めて早期からの正しい介入が必要がある。

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摂食嚥下障害の発達心理的要因

食事に対する精神・心理面的は、主たる原因でなくても常に考慮する必要がある。特に自分で食べること、楽しく・美味しく食べる意欲が重要である。小児では食習慣を経験により形成する時期であることを考えておく。育児と深く関係し、摂食嚥下機能ばかりをみるのではなく、食行動や食生活のなかでの食事を考える必要がある。

食事はコミュニケーションの場であり、生活の中心の一つであることを考えて対応する。すなわち子供にとって食事は、社会性やコミュニケーションを学ぶ場である。その雰囲気により、食欲は増す時もあれば減退する時もある。

成人では過去の経験をもとに食事に対して考えるが、小児では食習慣を経験により形成する時期である。 それは道具を用いることや食べ物の種類を知ることなどすべてのことを含んでいる。 摂食嚥下障害を持つ児において、食べることやその練習を強要されては、食事が楽しいことであることを学ぶことはできない。

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小児の摂食嚥下障害の考慮するべきことのまとめ

基礎疾患や合併症や全身状態を考えること抜きに、摂食嚥下障害を考えることはできない。子ども全体をみる中で摂食嚥下障害をみることはが非常に大切なことになる。子どもの摂食嚥下機能障害をまとめてみると、以下のようなポイントがある。

  1. 発達
    • 身体機能(粗大運動、微細運動、感覚etc)
    • 精神・心理(知能、言語、社会性etc)
    • 自分で食べる意欲の発達
    • 摂食嚥下機能(形態、機能)
  2. 原因、病態の特徴
    • 基礎疾患
    • 全身状態、栄養状態、合併症
    • 予後
  3. 重症児
    • 重症心身商議児
    • 全身状態の把握
    • 合併症
  4. 社会的状況
    • 介助者、学校等

これらのポイントに対応することにより、子ども全体をみることにつなげる。

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参考図書

  1. 田角 勝.トータルケアで理解する子どもの摂食嚥下リハビリテーション“食べる機能を支援する40のポイント” 診断と治療社 2013.9.
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