
説明
小児の摂食嚥下障害は、患児の主疾患のみならず、感覚運動体験不足や環境などが機能の獲得を阻害する要因となる。評価にあたっては、食事に関わる内容はもちろんのこと、現病歴、全身状態をも保護者、養育者から聴取する必要がある。
実施にあたっては、摂食機能の発達段階を理解すること、こどもの食べる動きを良く観察すること、保護者や養育者の協力を得ること、摂食嚥下機能のみならず、小児の発達や環境を理解することが重要である。小児患者は成人患者と異なり摂食機能の獲得途上であり、機能を獲得するにあたって、様々な面で保護者など患児に関わる大人の協力が不可欠である。また、関わる大人が摂食・嚥下について十分理解し関わることが重要である。特に食事が全て訓練になるようなことはさけ、日常の食事の中に訓練を取り入れるようにする。

説明
評価は、問診、現症の評価、口腔諸機関の動きの評価の順に評価する、評価した結果から、指導内容を立案する。

説明
まず、問診によって現病歴、摂食に関わる既往歴、摂食等の現状を聴取する。保護者や養育者から、患児の現病歴、摂食に関わる既往歴、摂食等の現状を聴取する。
摂食に関わる既往歴
経管栄養、哺乳、離乳食について、いつからいつまで行なったか、指しゃぶり、おもちゃしゃぶりについて見られたか、現在も行なっているかを聴取する。
摂食などの現状
経口摂取の有無、摂食姿勢や介助の有無など、摂食状況の現状について評価する。また、粗大運動能や全身の緊張状態、身長、体重、生活リズムなどについても聴取しておく。

現症の評価
過敏の有無や鼻呼吸の可否、原始反射の有無など経口摂取開始の準備がなされているか評価する。また、咬合状態や口蓋形態など口腔内の形態、流涎や嚥下反射などの反射の有無についても評価する。
過敏:評価についてはスライド5を参照。
鼻呼吸:手鏡を鼻孔下にかざす、ティッシュペーパーをかざすなどして確認すると良い。
原始反射(探索反射、吸啜反射、咬反射)の有無:覚醒している状態で検査する。
探索反射…小指で口角、口唇をそれぞれたたく。刺激した部位に向って頭をまわすと反射あり。
吸啜反射…小指を口腔内に入れる。舌が指を包み指を吸うと反射あり。
咬反射…指を上下臼歯部歯槽堤に置く。下顎を上下に動かしたり、持続的に咬むと反射あり。
口の形態:噛み合わせの状態(開咬、反対など)、口蓋の高さ、歯列の狭窄(歯並びのアーチが狭くなっていないか)、歯の萌出状況、形態異常について。
流涎:量や、いつ出るのか。
反射、反応:嘔吐反射、嚥下反射、開口反応の有無

過敏の有無の評価について
過敏の発生や原因に関しては明らかになっていないが、感覚運動体験不足が大きな原因になっていると考えられる。過敏が存在すると、入って来た刺激に対して適切な動作が引き出されないのである。過敏の存在は、介助を困難にするばかりか、機能の発達を阻害する要因にもなり得る。
過敏は、いつ、誰が、触れても触れたところを中心に緊張しそれが全身の緊張に及ぶこととされている。ある介護者が触れた時には緊張するが、別の介護者が触れた時は症状が出ない、という時は過敏ではなく拒否と考えられるので、過敏と拒否の違いを見極めることも重要である。
過敏の有無の確認
過敏が身体のどこにあるのかを調べる必要がある。患児とラポールの取れている保護者、介護者が行なうことが良いであろう。初めて会った医療従事者が過敏の評価を行なった場合、過敏と心理的拒否の違いを見定めることが難しいからである。従来は、手の平を使い、患児の手の先から腕、肩、首、顔、口の周囲、最後に口の中へと身体の外側から中心に向かってしっかりと広い面積で触っていく、としていた(図左)。学会誌第18巻・第1号通巻42号訓練法のまとめ、では、体幹→肩→首→顔面→口腔周辺→口腔内の順に(図右)、となっている。詳細は、学会HP訓練法のまとめ、を参照されたい。
確認の際、患児の顔の表情の変化を良く観察しながら泣いたりしかめ面をしたりするかどうかで過敏の場所を確認する。過敏の症状が出た場合、すぐに触っていた手を離すのではなく、動きが止まるまで暫く触って動きが止まってから部位に当てていた手を離す。過敏が著しい場合、その部位に触れたとたんにけいれんが起こることがある。過敏は多くの場合、顔や口周囲、口腔内、下顎より上顎、臼歯部より前歯部に残っていることが多い。
過敏の取り方
過敏が確認されたら、原則として他の訓練を行なうより前に過敏を取ることが大切である。また、他の間接訓練は食前に行うことが基本だが、過敏の除去を食前に行うと、嫌なことをして食事開始という、食事に対して悪いイメージを子どもに与えかねないため、食事とは関係のない時間に行うことが重要である。
過敏の取り方は原則として弱い刺激を動かさずに長時間続けることが大切である。触れることになれる、ということが重要である。手のひら全体を肌にしっかりと圧迫する様にあてる。広い面積でしっかり触り、こすったりちょこちょこと動かしたりはしない。患児が嫌がって動いたり逃げようとしても手をずらしてこすったり、離さないようにする。嫌がって動いたりしてもしばらく触っていると落ち着いてくるので落ち着いたらゆっくりと手を離す。これを繰り返して行なう。

摂食時の口腔諸機関の動きの評価
口唇閉鎖:安静時、捕食時、食物処理時、嚥下時、水分摂取時の口唇閉鎖の可否を評価する。
口角の動き:スライド7を参照
舌運動:スライド8を参照
顎運動:動きについては、単純上下運動か側方臼磨しているのかを評価する。また、スプーン咬みの有無、固形物摂取時および水分摂取時の顎のコントロール(下顎が安定しているか、上下に大きく動いていないか)を評価する。
実際に食物を摂取する際の動作を観察する。食物を摂取する流れに沿って評価するとわかり易いが、主に評価するのは、口唇、舌、顎の各部位である。勿論摂食時の姿勢を評価することも忘れてはならない。姿勢により緊張が高まり、機能を発揮できないこともあるからである。摂食嚥下運動に必要な各部位の動作を評価していく。また、介助によって摂取している時の動きと自食の動きとは別に評価する必要がある。

説明
食物を処理している時の口角の動きについて、殆ど動かない、水平左右対称(嚥下時または押しつぶしているときの口唇の動き)、左右非対称複雑(咀嚼時の口唇の動き)のいずれかであるか評価する。
水平左右対称:上下口唇がしっかり閉じて薄く見える。左右の口角が同時に伸縮する。
左右非対称複雑:上下口唇がねじれながら協調する。咀嚼側の口角が引かれるように動く。

舌の動きについて
前後…舌運動が主として前後運動(吸啜動作も含む)
上下…上下に動かし押しつぶし動作ができる。
側方…左右に動かし咀嚼動作に必要な動きができる
舌突出の有無について:安静時、捕食時、処理時、嚥下時、また水分摂取時について評価する。

説明
以上の評価の結果から、前コンテンツ、摂食嚥下の発達と障害、で挙げられていた、摂食機能の発達段階のどの段階であるか評価し、食環境、食内容、機能訓練それぞれについての治療計画を立て摂食機能療法を実施する。小児の摂食機能療法は発達療法であり、機能発達を理解した上で行なうことが重要である。また、児と保護者との関係、環境に考慮した計画を立て、継続して実施できるよう無理のない計画立案が望まれる。
食環境指導
- 食事全てが訓練になってしまわないよう、声かけや食事をする雰囲気を考慮する。
- 食事中安定した姿勢を取ることが継続できるよう姿勢保持する工夫を指導する(スライド10の図)。
- 機能が発揮、獲得できるような食器や食具を選択する。
食内容指導
機能に合った、また機能をうながす食形態の選択をする。機能が獲得されつつある場合には次の段階の食事を練習食として試してみることもある。
機能訓練
実際には保護者が行なうことが多い。評価の結果から適切な方法を選択するが、介護負担、理解度などを考慮した上で選択、指導することも重要である。また、訓練ばかりに目が行き、食事を楽しく食べる、食事への意欲を引き出す、ということが二の次にならないよう十分考慮する必要がある。
また、充分評価を行い、必要な訓練を選択することが重要である。いくつかの機能障害がある場合、機能筋連もその数と同様に実施するのが教科書的な考えではあるが、子どもや保護者、介護者の様子や食事をする環境によって訓練の優先順位をつけることも極めて重要である。
間接訓練:過敏を除くための脱感作療法、鼻呼吸訓練、嚥下促通訓練、摂食嚥下機能に必要な各部位の動きをうながすための筋訓練がある。
直接訓練:味覚刺激による嚥下訓練、食物を用いながら行なう捕食訓練、咀嚼訓練、自食訓練、また水分摂取訓練がある。

摂食姿勢
食事時に身体の安定が保持できない、不随意に全身緊張が認められる重度な患児の場合、抱っこや座位保持装置に座って姿勢の安定を図ることが重要である。図は、患児の肩、腰、膝、足首の関節を曲げ身体が丸くなる様にすると緊張が取れやすくなるといわれる反射抑制姿勢である。

ガムラビング
嚥下の促通。口腔内の感覚機能を高める。スプーンを咬む患児に対しても効果がある。口腔内、特に歯肉に過敏があるものに対しては、過敏が除去できてから実施する。
方法: 口腔内を4分割して人差し指の腹を歯とは肉の境目に置き前歯から臼歯方向に向かってこする。
顎は閉じて行なう。前から後ろへ行く方向の時だけこする。

口唇訓練
ビデオの口唇訓練はバンゲード法の受動的方法の口唇訓練である。バンゲード法の受動的方法は、指導者の指示に従うことが難しい子どもに対して行う方法である。この口唇訓練は、口唇閉鎖不全など口唇機能の不全に対して行なう。

舌訓練
図の舌訓練はバンゲード法の受動的方法の舌訓練口外法である。押しつぶしや舌突出など、舌機能不全に対して行なう。

説明
直接訓練の捕食介助について解説する。子どもの口の高さへと水平にスプーンを運び、食物の内容が分かるよう声かけをする。口を開かない時はスプーンで下唇に刺激して開口した所で、①スプーンを下唇におく。②上唇が降りてくるのを待つ。降りてこなかったら上唇を介助する。③スプーンをまっすぐ引き抜く。すぐ開口してしまう場合は、嚥下まで顎介助する。食物の物性を感知する口腔前方部に食物を取り込み、食形態にあった動きを引き出すことが主な目的である。介助による摂取に児や介助者が慣れるまでは食事時間の一部を訓練にあて、徐々に介助の時間を長くしていく、獲得できた機能に対しては介助をなくす、など食事全てが訓練とならないよう考慮する。

説明
ペースト状の食事を食べるためには、捕食後下顎は閉鎖したまま嚥下する。対象児は捕食から嚥下時まで口唇閉鎖なく下顎は上下に動いており、舌突出もある、下顎を閉鎖し嚥下することができていない。
よって摂食機能の発達段階では嚥下機能獲得不全となる。
口唇閉鎖のため口唇訓練、舌突出に対して舌訓練口外法、頸部後屈せず捕食から嚥下までの動きを覚えるための捕食訓練を行う。

参考文献
- 金子芳洋編:食べる機能の障害 その考え方とリハビリテーション,医歯薬出版
- 田角勝,向井美惠編:小児の摂食•嚥下リハビリテーション,医歯薬出版
- 金子芳洋監:障害児者の摂食•嚥下・呼吸リハビリテーション,医歯薬出版
推薦図書
- 金子芳洋編:食べる機能の障害 その考え方とリハビリテーション,医歯薬出版
- 田角勝,向井美惠編:小児の摂食•嚥下リハビリテーション,医歯薬出版
- 金子芳洋監:障害児者の摂食•嚥下・呼吸リハビリテーション,医歯薬出版
- 金子芳洋,菊谷武監:上手に食べるために 発達を理解した支援,医歯薬出版
- 田村文誉:上手に食べるために 摂食指導で出会った子どもたち,医歯薬出版
- 金子芳洋訳:摂食スキルの発達と障害——子どもの全体像から考える包括的支援,医歯薬出版


